軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嫌な思いをさせた

お昼の休憩を終えまたドラゴン退治へと戻ったノイエは、ふと木の天辺で足を止めて耳を澄ませた。

何か……とても懐かしい音を聞いた気がしたのだ。

『この音は何だっただろうか?』と軽く首を捻るが思い出せず、また足を動かし宙を舞う。

代わりにノイエの中で音の天才であるセシリーンは焦っていた。らしく無いほど慌てて自身の声を数人に対して発する。内容は『急いで来て』と。次いで彼女はこうも言葉を続けた。

『ノイエを殺そうとする人が居る』と。

軽い食事で腹ごしらえをしたナーファは、洗濯を終えた包帯を綺麗に丸めていた。

コロコロッコロコロッと丸めては次回使いやすいように準備しておく。

最近は少しだけ出来ることが増えて来た。義理ではあるが父が仕事を教えてくれるようになったのだ。

見よう見まねで習得した技術を1つずつ改めて教えてくれる。それが嬉しくて暇さえあれば診療所に居る。不謹慎だが怪我人でもやって来れば良いのにと……と心の内で思うほどに。

と、物音がして辺りを見渡す。

確かに建物の中で何かが落ちるような音がしたはずだ。

でも現在この診療所に居るのは自分だけ。義父は薬を買いに出ている。

軽く首を傾げて、丸めた包帯を棚に置き……少女は部屋を出る。

もしかしたら近衛から預かっている人たちが動いたのかもしれないと思い病室へと向かう。

不意に扉が弾け、中から人が出て来た。

目からは血の滴を垂らし、口からは涎を溢れさせ……それはフラフラと歩き、『あ~』とも『か~』とも聞こえる声を発する。

突然のことで廊下に座り込んだナーファは、それを見て軽く腰を抜かしてしまった。

素人目にも相手が尋常でないことは理解出来る。だからこそ慌てて逃げようとして、壁に立てかけてあったホウキを倒してしまった。

ガツンと大きな音が鳴り、動き出した人物がナーファを見る。

完全に正気を失っている目に見つめられ……少女は喉の奥が恐怖で凍るのを感じた。

『自分はここで死ぬ』と漠然に思い、何故か無性に会いたくなった。

「何をしている?」

会いたいと思った人の声が少女の耳の奥底を打った。

ナーファはゆっくり振り返ると、そこには自身を大切にしてくれている人が居た。

絶対の腕と祝福を持つ名医だ。

「何をしているのかと聞いている?」

静かに歩みを進める彼……キルイーツは、廊下で座り込んでいる姪の前に立った。

相手に背を向け、そしてその目で動き出した患者を確認する。

普通ではない。強いて言えば狂わされている。

「最悪だな。魔法をこうも悪用するか……」

言って彼はまた歩みを進めた。

「っ!」

ナーファは声を発しようとしてまだ喉が動かないことを知る。

手を伸ばし『行かないで』と心の中で念じる。少なくとも義父であるキルイーツは闘うことに関すればただの人でしかない。

「あ~っ」

患者である男が大きく腕を振るいキルイーツを殴ろうとする。

すると彼は、相手の腕を軽く掴んで無造作にねじ切った。

鮮血がほとばしり廊下を赤く染める。掴んでいた腕を放り投げ、キルイーツは男を見た。

「これでも正気に戻らんか。ならば仕方ない」

もう片方の腕が振るわれたが、彼はそれを軽く避けると相手の胸に手を当てた。軽く埋没させて何かを握り引き抜く。

ドクドクと動くそれを無理やり振るうと、血管が裂けて男の動きが停止した。

崩れるように廊下へと倒れ……キルイーツはそれを一瞥してから病室を確認する。

他の2人はどうやら先に動き出した男の手によって壊されていたらしい。

「最悪であるな。これでは……王都は過去を思い出すぞ」

告げてキルイーツは手にしていた心臓を患者だった者の傍に置いた。

「大丈夫か? ナーファ?」

「……」

座り震えている姪を見て、キルイーツは自身が血液で濡れていることを思い出した。

「済まんな。嫌な思いをさせた」

急いで腕で顔を拭い、それでも座ったままの姪を案じて傍らに膝を着くと怪我の具合を確認しようとする。と、ナーファが動き彼の首に抱き付いた。

「こわっ……怖かった……」

恐怖に震えて涙声の姪に、キルイーツは何も言わず軽く腕を相手の頭に回して撫でてやる。

普段見せないほどの甘える素振りを見せ、ナーファは彼に抱き付き声を上げて泣いた。

「案ずるなナーファ。お前のことは私が必ず守る」

救えなかった者のことを思い出して、彼はその誓いを改めて胸に刻む。

ゆっくりと姪の体に手を回し、抱きかかえて彼は立ち上がった。

「これは少々宜しく無いな」

姪の背を軽く叩いてやりながら、キルイーツは外の様子に目を向ける。

王都に住む者たちが総出で慌てふためき混乱していた。

たぶん意識不明だった者たちが突如として動き出し、人々を襲っているのだろう。

あたかも11年前のあの日のようにだ。

「……」

深い息を吐いてキルイーツは姪を廊下へと降ろす。

まだ確りと立てない彼女に手を貸し、診療所の戸締りを急いで進める。

自分たちの仕事が生じるのは騒ぎが終わってからになる。

それまでこの場所を死守し、医薬品などを護る必要があるのだ。

傷ついた者を救うために、傷つく者たちを見捨てて。

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