軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そういうことかっ!

幾重にも壁が築かれているユニバンスの王都は、堅牢な作りだとして有名である。

王城に向かい内に行くほど治安も良くなるが、外周部と呼ばれる一般の者たちが暮らす区画には行き場を失った者たちが肩を寄せ集めて暮らしている。俗にいう貧困街……スラムだ。

ジャリッジャリッと重そうな足を動かしローブ姿のそれは歩いていた。

することは決まっている。だからこの場所に来たのだ。

それでも足らないと"自覚"していた。相手は最弱の少女。最も弱かった少女なのだから。

重い足取りで歩くそれを見て、『新参者か』と腕に自信のある男が前を塞いだ。

「よう? ここを通るなら金目の……何だ女か?」

「……」

ローブの中からこぼれ出る長い桃色の髪を見て、男は品の無い笑みを浮かべる。

相手が女だったら金目の物以外を請求できる。具合が良ければしばらく飼っても良いのだから。

「ちょうど女を切らして困ってたんだよ。お前が良ければ俺の相手をしな。ダメでも俺の相手をさせるけどな」

手を伸ばし相手を捕まえようとした男の手が虚空を掴む。

目の前に居たはずの相手は、男の腕を無音で掻い潜り……その横を過ぎて歩いていたのだ。

まるで最初から男など居なかったかのように。

「っざけんなっ! ちょっと待て!」

振り返り男は相手の肩を掴んだ。

やはり女なのか、その肩は細い。

「少しぐらい俺と楽しもうって……言って……るんだ……よ」

グイッと力づくでこちらに顔を向けさせた男は、相手の目を見て言葉を失っていく。

グルグルと桃色の瞳が揺れ動き、男は自身が理解できないままに"食われ"て行くのだ。

その精神を。その魂を。

相手の肩を掴みしばらくローブ姿の女性を見つめていた男は、膝から崩れて倒れた。

「じゃまを……しないで」

乾ききった声を発し、女性は地面に倒れている男に視線すら向けない。

考えていることはただ1つ。どうやってあれに勝つかのみだ。

「まってて……ノイエ……」

視線の定まらない目で女性は前を見る。

「こんどは……わたしが……あなたを……ころすから……かならず……かならず……」

壊れた蓄音機のように言葉を繰り返し、それはスラムを歩き続けた。

「何故にこれが僕の元に来たのか問いたい?」

「お前は調べているんだろう? 趣味で?」

「確かにね」

『書類仕事はもう嫌なんだよ!』と発狂したらしい馬鹿兄貴は、日々控えていたメイド長に張り倒されては机の住人になっていたらしいが……ついにノルマを達成して解放されたらしい。追手が来ないから真実だろう。

たぶん真に解放されたのはメイド長な気がするけどね。

「嫌な名前が並んでるね」

「だろう? 困ったもんだよ」

ガシガシと頭を掻いた馬鹿兄貴は、勝手にソファーに座って焼き菓子を食っている。

ポーラは突然現れたデッカイ人に面を食らっているけど、どうにか再起動して文字を書く練習を再開した。やはり根が真面目な性格だと、僕的には信じられないことをポーラは言うのです。

『べんきょうはたのしいです』と。

思わず医者の先生の所へ連れて行こうとしたら、書類の提出に来ていたメイド長に物凄く冷たい視線向けられて正気に戻った。

ちなみにフレアさんは定期的にここに来ては僕に書類を提出する。

とある孤児院とも言われている場所の活動資金を全額ドラグナイト家が負担するようになった都合、支出の報告を律儀にしてくれるのだ。

余計な仕事が増えるから勘弁して欲しいんだけど、その辺りはお義母さんが真面目らしい。

現実逃避終了。

「で、ヤバいのはこの人か」

「誰だ?」

「鉱山で鉱山奴隷を殺しまくった人」

「ああ。そいつの魔法は別格らしいな」

ピラピラと紙を振ったら馬鹿兄貴があっさりと認めた。

魔法使いの中では珍しい系統の魔法を使うこの女性は、主に鉱山を領地に持つ領主の娘だった。

『ユーリカ・フォン・テリーズ』

桃色の髪と瞳を持つ操作系の中でも最も厄介な精神系魔法の使い手だ。

鉱山は事故と隣り合わせの為に鉱山奴隷たちが暫し発狂したりする。それを相手に魔法を使って強制的に働かせ続けるという……鉱山奴隷は死刑囚が主だから出来る人権無視の荒業だけどね。

この世界に人権とか聞かない単語だけどさ。

「後の人たちもそこそこ厄介だけど……全員生きてるの?」

「分からん」

「おいっ」

「分かんないんだよ」

ガシガシとまた頭を掻いて、馬鹿がまとめて焼き菓子を頬張って飲み込んだ。

「……コンスーロが廃棄された施設で集めてきた資料にはそいつらの名前が載っていた。ただ全員が生きているのか、全員の名前が載っているのか、それすらも分からん」

「使えませんな」

「仕方ないだろう? 関係者が居ないんだからな」

「だね」

本当に厄介だ。まずノイエたちが住んでいた施設とは違う別の物が存在していたことにも驚いたが、その施設では人間をパーツにして色々とやっていた様子があるらしい。つまりは人体実験の類だ。

検死報告もあるけど……これをした医者の名前を見て何とも言えない気分になった。

人を救うことを夢見た人に変死体の山を見せるとかどうなの? あの人の能力は理解しているけど。

それよりも……気になるのは施設のことだ。

ノイエの中の人たちがこの施設のことを僕に教えないのはこれが関係しているからなのか?

そうだったら先生たちは生き残りが居るのを知ってて黙っていたと言うのか?

……違うな。それだったら別に知られても問題無いはずだ。

彼女たちはノイエの負担になるようなことを……何かが引っ掛かった。頭の片隅でチクッとした感じでだ。

改めて資料に目を通すと、ユーリカの名前が1番気になる。

確かレニーラはあの時何と言った? 壊されたんだ。ファシーは壊されたと言っていた。

そして僕はそのヒントから壊されたのはファシーだけじゃ無いと気付いた。つまりノイエも壊されたんだと。

《そういうことかっ!》

クシャッと紙を丸めて皿の上に置くと、とりあえず火を点けて燃やす。

燃える度に追加して全てを灰にした。

こちらの様子に馬鹿兄貴が訝しむような視線を向けて来るがスルーだ。

《ユーリカが生きているとなると……ノイエがどんな反応を示すか分からないんだ。だからみんなはこのことを黙っている》

心の底から言いようの無いため息が出た。

《本当にあの人たちは……ノイエに対しては過保護すぎるぐらいに優しいんだからな》

お陰で僕もその優しさに便乗したくなったよ。全く。

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