軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ポーラの日記

にいさまが『にっき』をつけるといいというので、にっきをかくことにしました。

さいしょからぜんぶかくことにします。あれは……

冷たい、雪解けの冷たい水に手を入れて洗濯物を洗うのは本当に辛い。

最初はジンジンと痛かった手も途中から力が入らなくなって、最後は少し動かすだけでも痛くなる。

でも全部洗わないとご飯を食べさせて貰えない。小屋の中で眠らせて貰えない。だから痛いのは我慢して早く洗うことだけを考える。

「ちょっと良いかな?」

「ひうっ」

洗うことに必死になるあまり周りのことを見ていなかった。

慌てて腕を頭に回して殴られても良いように構える。何回か殴られれば相手はそれで満足するのだから。

でも何も起きない。拳も足の裏も飛んで来ない。

そっと顔を上げると……優しそうな顔をした人がこっちを見ていた。

「君がポーラかな?」

「……はい」

返事をしないと怒られるかもしれない。殴られるかもしれない。蹴られるかも……。

でも相手は目を細めて柔らかな表情を作る。

「僕の名前はアルグスタ」

「あるぐ?」

「うん。君に用事があってここまで来たんだ」

そして彼は言う。不思議な力を持っている人を探していると。

でもこの力はダメだ。使うと皆に『恐ろしい』と言われて怒られる。殴られる。蹴られる。

「……つかえません」

そう答えないと痛いのはもう嫌だ。

「大丈夫だよ。僕は叩いたりとかしないから」

えっ? 叩か……ないの?

それにわたし以外にも使える人が居るの?

「……ほんとうに?」

「ん?」

「ほんとうに……つかえるの?」

「うん」

笑って頷いた彼が指示を出すと、連れの女性の頭上に複数の剣が振り下ろされる。しかしその全てが弾き返されるか、滑り落ちるように彼女を避けて地面に達した。

「どう? 少しは信じた?」

本当だ。わたし以外にも……居たんだ。

嬉しくて近寄ろうとすると足から力が抜ける。お腹が空いてとても辛い。

と、彼が優しく受け止めてくれた。

「……だからポーラは独りじゃないよ」

独りじゃない。わたしは独りぼっちじゃない。

「……ほんとうに?」

「うん」

嬉しい。ずっと独りで……ずっとずっと独りで……。

「今まで苦しかったよね。良く頑張りました」

胸の奥が苦しくて、何かがいっぱい溢れて来て。

「良いよ。気が済むまで泣いて」

もう独りじゃ無いんだ。

アルグスタさまはとてもやさしくておかしをたくさんくれました。どれもおいしくて、あまくて、おなかいっぱいたべました。それからおうとにいくというのでついていきます。

連れの女性がドラゴンをスパスパと斬ります。

アルグスタ様の部下になると言うことは、わたしもあれをするんですか?

恐る恐る聞いたら、あれはお姉さんの仕事だから平気だと言われました。良かったです。

ただお姉さん以上に凄い人が王都には居るらしいです。それもアルグスタ様のお嫁さんです。

ちょっとだけ胸の奥が痛くなったのはどうしてでしょうか?

こんなに優しい人のお嫁さんならきっと凄く優しい人のはずです。

ですが……目の前に現れた人はドラゴンを脇に抱えてました。

「あっノイエ。ただいま」

彼が挨拶をします。

それも聞いていた名前の通りなので……あの人がお嫁さんなのですか?

と、ドラゴンを投げ捨てた彼女がこっちに来て、そのまま抱きかかえられました。

間近で見ると凄く綺麗で甘い匂いのする人です。

何やら彼とお話をして……不意に顔を見られました。

余り見ないで欲しいです。わたしはその……綺麗じゃ無いから。色とかも変だから。

でも目の前の人はわたしと似た色をしていて少し嬉しいです。この色をしてても嫌われないのかな?

結局解放されて戻ったわたしはそれを見ます。とても仲の良い2人を。

わたしの父さんや母さんもこんな風に仲が良かったのでしょうか?

あるぐすたさまのおやしきでくらすことになりました。みんなやさしくていいひとばかりです。でもそんなにいろいろなふくとかいりません。おふろもかわるがわるあらわなくてもいいとおもいます。

ベッドの数が足らないと言うことで私はアルグスタ様とノイエ様の寝室で寝ることになりました。でもノイエ様はずっとわたしを見つめて来ます。嫌われているのでしょうか?

アルグスタ様は困った様子でわたしとノイエ様に仲良くするようにと言います。

わたしは仲良くしたいです。ノイエ様は凄く良い匂いがして……その匂いはとても甘いんです。それに凄く懐かしい感じがして。

するとアルグスタ様が仲良くなれる魔法の言葉を教えてくれました。

ですがどう考えても……本当にこれで大丈夫なのでしょうか?

「ノイエねえさま」

ビクッとノイエ様が反応しました。本当に?

「ノイエねえさま」

「……はい」

わたしは本当に、本当にノイエ様と。

「わたしはねえさまとなかよくっ」

気づいたら柔らかな感触が両方の頬に。

これでもかと柔らかく挟まれ……少ししてその正体に気づきました。大きいな。

「ねえさま?」

「ん~」

あれ? これって鼻歌かな?

姉様が優しく背中を撫でてくれるから……凄く気持ち良くて……瞼が重くて……

にいさまもねえさまもすごくやさしくて、そんなふたりがわたしはすきです。

「あら?」

それに気づいた女性は古ぼけたノートに目をやって内容に赤面する。

古い古い……自分が彼らと出会った頃の思い出だ。

「もう。兄様もこんな古いの捨ててくれれば良いのに。恥ずかしいな」

机の上に置かれていると言うことは、家族の誰かが読んだのだろう。

そう考えると結構恥ずかしい。

「にしても……下手な字ね」

呆れて女性は何ページか見て手を止めた。

「……過去は振り返っちゃダメね。理解した」

恥ずかし過ぎて死にたくなって来た。

やれやれと白い髪を振って、女性はノートを机の上に戻した。

「さってと。お仕事お仕事」

軽く鼻歌を奏で、姿見の前で立ち止まる。

自身の姿を確認し、メイド服を正して部屋を後にした。

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