軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

子供の名前は貴方が考えてね

木の上に立ち、ノイエはただ空を見上げていた。

どんなに耳を澄ませても彼の声は聞こえてこない。

『ん~。最後は気合よ気合』

前に誰かがそんなことを言っていた気がする。気合を込めればどんな音も聞こえるはずだ。

「……どうすれば良いの?」

やり方が分からずノイエはクルンとアホ毛を一周回すと、諦めて止まっている木の枝を蹴った。

彼の声なら絶対に聞こえるはずだ。だから今はドラゴンを殴る。

その繰り返しでノイエは日々の寂しさを紛らわせていた。

「今日もノイエが元気だな」

「そのようですね」

「アルグが戻って来てない証拠か」

「ですね」

「……助けてくれよフレア」

「私はただのメイドですから」

机の上には山と積まれている書類が全く減る気配を見せていない。

前任者であるスィークの指示通り、毎日のように王城に来ては仕事をこなしているフレアの目から見て……書類の量は減るどころか確実に増えている。

「そのように作業の手を止めずにお仕事を続ければ減ると思いますが?」

「俺は椅子に座って仕事をしていると息が詰まって死んじまうんだよ」

「あら? それでしたら次なる雇い主を探しませんと」

前任者以上に冷たい対応をする元婚約者のメイド長に……ハーフレンは頭を掻いて引き出しからとある書類を引き抜いた。

「元学院生の経歴を持つ部下が居なくなってな……代わりに見てくれないか?」

「自分のようなメイドで良ければ」

受け取った書類に目を通し……ほんの数枚でフレアの手が凍り付いた。

書かれている名前に見覚えがあったからだ。それも何人も。

「……生きているのですか?」

「分からん。コンスーロが回収して来た書類の山を地道に紐解いた結果、そんな名前が次から次へとな」

「……全員あの日の件で処刑されたはずでは?」

「生きていたんだろうな。もう正直な話……たぶん1人も死んでないぞ? 否、あれは自分の首が切断されたと言っておったがな」

トントンと自身の首を手刀で叩く彼を見て、フレアは誰のことを指しての言葉か理解していた。

ただ易々と口に出来る人名では無いのだ。

「仮に全員が生きていたとしたら?」

「そこに書かれている人物たちは現在行方不明だ。捜索は続けているが……地道に探すしかない。それ以外の人物たちは、"あれ"があの日に殺し尽したと信じるしかない」

苦笑しながら軽く顎をしゃくった彼が示す人物は……間違い無くノイエのことだろう。

彼女はあの施設で仲間たち全てを殺したと言うことになっている。事実数多くの死体が転がる場所で唯一1人だけ生きていたのだ。

「今にして思うと、あの時全ての死体の首実検をするべきだったな」

「……」

フレアは何も答えられない。

あの施設に転がっていた死体は、ハーフレンの指示で一か所に集められて燃やしたのだ。

虫が湧いて病気をまき散らされるのを恐れてもあったが、自分ほどの年齢の者たちが死して討ち捨てられている様子を見るのは辛すぎた。

気を取り直し書類の内容に目を通したフレアは、ふとそのことを思い出した。

彼のことだからこの書類から拾ってきた名前かと思ったのだが……。

「違いましたね」

「どうした?」

「いいえ。アルグスタ様が『エウリンカ』と言う名をお尋ねになったので」

「エウッ」

厳しい視線を向けられフレアは反射的に身構えた。

だが彼が向けて来たのは殺意とは違う恐ろしい気配だけで攻撃の類は無かった。

「……アルグの馬鹿がその名を言ってたんだな?」

「はい」

「分かった。まああれから聞いたのかもしれないがな」

それ以上何も言わない相手に一礼をし、フレアは近衛団長の執務室を出た。それから元上司の執務室に寄ると……元妹が夫とキスしている場面に遭遇し、何も言わずにしばらくの間殺気だけを2人に浴びせ続けフレアは屋敷へと戻った。

「エウリンカは魔法学院の地下に監禁していた魔法使いの名前だ」

腕枕をして天井を見上げる彼の傍らに腰かけ、フレアは目を向けていた育児書に栞を挟んだ。

もう眠ろうかと就寝前の読書をしていた所に彼がやって来て、勝手にベッドの隣で横になったのだ。

「メイドの部屋に押し掛けるなど、リチーナ様がお怒りになると思いますが?」

「大丈夫だ。あっちは今頃腰を抜かして……痛いぞ?」

「本気ではありません」

相手の脇腹に爪を立てたフレアは、息を吐いて抓んでいる指を弱めた。

「そんな人物の名前なんて知らないのだけど?」

「だろうな。知っているのはごく少数。学院で知っているのは、エウリンカが地下から這い出してきた場合に対処できる生徒のみのはずだ。学院長だったバローズさん以外だと……お前の師なんて知ってそうだ」

「ええ。そう言う条件なら知ってるはずよ。それと……有力なのはシュシュとミャンかしらね」

「何故そう思う?」

問いかけて来る相手にフレアは手に持つ本をベッドの横の台に置いた。

「王都の防衛と言ってあの2人を学院に残していた理由がね……正直不自然だった」

「そうか。お前が言うならそうなんだろうな」

まだ明かりは消さずに彼同様に横になったフレアは、そっと自身のお腹に手を当てる。横になった時の最近の癖だ。

と、彼の手が伸びて来てフレアの手の上に置かれた。

「それでその人はどうして監禁されていたの?」

「……信じられないだろうが、魔剣を作り出せるらしい」

「工房も無く?」

「ああ。だからその存在を危険視し監禁しながら魔剣を作らせていた。前王時代の闇の部分だな」

「……」

自分の父親のことをそう言ってハーフレンは苦笑する。

だがあの頃は、そうでもしなければ戦線の維持が出来なかったのだ。

フレアはそれを思い出していた。自分の師である彼女が教えてくれたことをだ。

つまり師であるアイルローゼは、その化け物の存在を知っていたのだ。

「そんな人物を……アルグスタ様が探していると?」

「ああ。正直エウリンカに関しては全く資料が残っていない。存在を隠避していたこともあるがな」

一度息を吐いてハーフレンは自身の横に居る彼女を優しく抱き寄せた。

「だが学院での死者の大半は、エウリンカの手によるものらしい」

「そう……」

「全くあの馬鹿。嫌な名前を思い出させるなよな」

「そうね」

抱き寄せられるままに素直に甘え、フレアは目を閉じる。

「ねえハーフレン」

「何だ?」

「……子供の名前は貴方が考えてね」

「分かったよ」

軽くキスして2人は眠りについた。

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