軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ほんとうに?

「これは遠い所を、わざわざおいで下さいまして」

先触れで走っていた騎士さんのお陰か、村らしき場所に到着するなりオッサンが飛んで来た。

たぶん村長さんだろう。

「突然の訪問で申し訳ない。僕はアルグスタ・フォン・ドラグナイト。元ユニバンス王国第三王子にして現ドラグナイト家の当主です」

「王子様とは……ははぁ~っ!」

全力で平伏された。

そっか。元とは言え王子って何気に凄い地位だったのね。完全に忘れてたよ。

「顔を上げてください。貴方は村長さんですか?」

「村長など……この集落をまとめている者です」

顔を上げてと言ったのに上がらないのは、僕ってそんなに偉い人だったの? 初めてぐらいに味わう反応に軽く引き気味なんですけど?

ぶっちゃけこんな反応が続くとなると面倒臭いから用件だけをさっさと済ませよう。

「なら貴方がまとめ役であるなら住人のことは把握していますか?」

「はっはい。ある程度は」

「でしたらその中で、不思議な力を使う者は居ませんか?」

「不思議……ですか?」

緊張なのか何なのか、身を硬くしたオッサンがますます平服する。

このままの勢いだと額を地面に埋め込むぞ?

「ええ。不思議な力です。普通の人とは違う力を使い、その後にお腹を空かせるような人物を自分たちは国王陛下の命令で捜索しています。お心当たりは?」

「……」

返事が無い。知らないと言うより悩んでるっぽい感じ?

「お心当たりがあるのでしたら何でも構いません。お教えください」

軽く膝を降ろして平伏しているオッサンの肩に手を掛けて無理やり起こす。で、いつの世もどんな場所でも効果を発揮する万能薬の出番です。人はそれを現金と言う。

「これ……は?」

「お教えください」

「……はい」

握らせた金貨が効果を発揮した。高価な硬貨なだけあって効果抜群だな。

「あの子なら今の時間、集落の外れに居るはずです」

「あの子とは?」

「はい。ポーラと言う名の娘です」

案内された場所は、本当に集落の外れにある小川だった。

オッサンは『呼んで来る』とか言っていたが、何かあってそのポーラとかいう子が逃げたら厄介なので一緒に向かうことにした訳です。

で、小川らしき場所で……小さな女の子が洗濯をしていた。

まだ雪が解けたばかりで辺りは冷たい空気が居座っているのに、小川の縁でしゃがんでせっせと洗い物をしているその子の様子を見たら何も言えなくなった。

何だかんだで僕って幸せな暮らしをしているんだな。

「ポッ」

呼びかけようとするオッサンの顔の前に手をやって黙らせ、僕はスタスタと歩き少女の後ろに立った。

とても小柄で小さな子だった。ただ髪の色が白い。

「ちょっと良いかな?」

「ひうっ」

「……」

声の掛け方が拙かったのか、ポーラは頭を抱えた。違う。何かから自分を護ろうとしたのだろう。

ゆっくりとしゃがんで相手と出来るだけ目線を合わせる。野良猫相手に良く使った手だ。

「君がポーラかな?」

「……はい」

ビクビクオドオドしながらこちらを見る彼女の瞳は赤い。

赤い瞳に白い髪。僕はその存在を知っている。アルビノだ。

「僕の名前はアルグスタ」

「あるぐ?」

「うん。君に用事があってここに来たんだ」

「わたしに、ですか?」

「うん。そうだよ」

汚れることも気にせず地面に座って彼女を見る。

オッサンの方はモミジさんが制してくれているので問題無い。たぶん彼女も気づいたのだろう。

よく見るとポーラの頬はこけている。ボロボロの服から見える手や足は細くて今にも折れてしまいそうだ。きっと食事などろくに与えられず、こうして冷水相手に洗濯ものなど押し付けられる日々を送っているのだ。

「君は不思議な力が使えるんだよね?」

「……つかえません」

顔色を変えて彼女は否定する。

今にも泣き出しそうな様子から見て、やはり間違いない。

「大丈夫だよ。僕は叩いたりとかしないから」

「……」

「本当だよ? それに僕も不思議な力を使えるし、あそこのお姉ちゃんなんて不思議がいっぱい過ぎて壊れてるくらいだし」

「アルグスタ様?」

緊張を解こうと頑張っているのに素っ頓狂な声を出すなと言いたい。

それでも効果があったのか、ポーラは恐る恐る僕を見る。

「……ほんとうに?」

「ん?」

「ほんとうに……つかえるの?」

「うん」

頷いて立ち上がると、モミジさんの周りに居る騎士たちに目を向けた。

「ちょうど良い機会だから、そこの変態を斬り捨てて良いや」

「アルグスタ様っ!」

彼女はどうして怒っているのに嬉しそうな顔をするのだろうか?

忠実に命令に従ってくれた騎士たちが剣を抜いてモミジさんの頭上に振り下ろす。

オッサンのことを忘れていたけど、彼女の鉄壁は半円の盾だから一緒に護られている。

傍から見ると、振り下ろされた剣を何もせず立ち尽くす彼女が弾き返したように見えた。

「……」

「どう? 少しは信じた?」

呆然としたポーラは立ち上がると、よろよろと歩き出し……転びそうになったから追いかけて抱きとめる。

その体は怖くなるほど軽くて細かった。

「あのお姉ちゃんとは違うけど、僕も不思議な力を持っている。だからポーラは独りじゃないよ」

「……ほんとうに?」

「うん」

溢れんばかりに涙を貯めた少女が僕を見る。

独りで……祝福の力とアルビノのせいで迫害されていたのだろう少女は、我慢しきれずに泣き出した。

「今まで苦しかったよね。良く頑張りました」

「ひっぐ……あう……」

「良いよ。気が済むまで泣いて」

「あぁっ!」

声を上げて泣きじゃくる彼女を優しく抱き締め……僕の中で何かがキレた。

(c) 2020 甲斐八雲