作品タイトル不明
お幸せそうで……けっ
「アルグスタ様?」
「ん~?」
チンッと鞘にカタナを戻したモミジさんが、馬の首を回してこっちに寄って来る。
退治した小型のドラゴンは放置して行くしか無いな。うん。餌になって土に還れ。
「どうしてわたしがお供なのでしょうか?」
「ん~。僕としてはノイエの方が良いんだけどね」
「……言われなくても分かってます。けっ」
やさぐれた感じでモミジさんが顔を背けて唾を吐いた。それは行儀が悪かろう?
現在僕らはポッカラポッカラと馬の蹄の音が響くほど、長閑な田舎道を延々と移動して居る。
目的地は王国の南西方面。チビ姫が偶然発見した祝福を持つ人物の居るであろう地域。
護衛には近衛から騎士を数名とドラゴン退治が出来ると言うことでモミジさんを連れて来た。
で、早速不満ですよ。この子は。
「ドラゴン退治する人が必要でしょう?」
「ご自分で出来ますよね?」
「出来るけど出来ないのよ」
馬の上で軽く肩を落とす。
今回の旅では普通の馬を借りて来た。
我が家のナガトはノイエから離れると言うことを聞かなくなるし、何より暴走したら止まらないしね。こっちの馬の方がお利口だから好きだわ~。
「今回の護衛は前回馬鹿兄貴が無茶をした時について行った人たちだから、使って見せても問題無いんだけどね……たぶん噂が広まっているから監視とかが付いてる気がするんです」
「監視ですか?」
軽く辺りを見渡した彼女が、こっちに顔を向けて来た。
「何人か離れた場所から追って来てますね。狩りましょうか?」
「止めておこう。他国の密偵なら良いけど、どこかの貴族の密偵とかだと面倒臭いことになりそうだし」
「……また貴族の方々に喧嘩を売ったのですか?」
「売った記憶は無いんだけど、何か勝手に買ってるのよね。困ったもんです」
敵になるかもしれない人たちに、こっちの手の内を見せるのは得策じゃないからね。
お兄様の指摘がとっても正しい気がするよ。
「だから今回のドラゴン退治はお願いね。厄介なのが出たら手を貸すけどさ」
「大丈夫です。普通のドラゴンならわたしは負けません」
このところ連敗続きのモミジさんが拳を握ってそう言って来る。連敗続きなのにね。
「ところで良くノイエ様を説得なさいましたね?」
「……大変だったよ」
「心中お察しします」
僕の顔を見ていた彼女が視線を逸らした。あの時のことが顔に出たのだろう。
今回の説得は……本当に大変だった。
『ちょっとお仕事で王都の外に何日か……』と告げただけで、ノイエが泣きながら抱き付いて離れなくなった。一晩中抱き付いて、翌日はそのままお仕事に行ってからのまさかの二日目に突入するとか。
ただドラゴン退治の時だけは離れてくれるから助かります。あれで離れなかったら……最悪僕は色んな何かを吹っ切って自分の力をフルに使っていたかもしれない。甘え方が半端無いんだもん。
でも二日目くらいからノイエも理解して……くれる訳も無く、いつも通りに少々ズルい手を使わざるを得なかった。
『ノイエは僕が呼んだら来てくれるでしょ? 来れないの?』
『……すぐ行く』
『本当かな? 遠いと難しいんじゃないの?』
『出来る』
『ならノイエの言葉が本当か実験ね。僕が困ったらノイエを呼ぶからすぐに来てね』
『はい』
『もし呼ぶことが無かったら……帰って来てからノイエのことをいっぱい抱きしめてあげるね』
『……はい』
今にして思えば高度な交渉術だ。僕は将来交渉人になれる気がするよ。
「だから帰ったらしばらくノイエを溺愛しないといけないのです。とても大変なのです。今から楽しみなのです」
「お幸せそうで……けっ」
だから何故にやさぐれる?
「君にも新しいどれ……恋人候補を紹介したでしょう?」
「今の『どれ』の続きの言葉を伺っても?」
「言い間違いです。気のせいです」
じと~っとした視線を彼女が向けて来るが、ここは優雅にスルーだな。
「で、アーネス君はご不満ですか?」
「不満と申しますか……とても良い人です」
彼ってば実は最良物件なのよ?
学院で講師も務められるほどの魔法使いですしね。
視線を前に向け手綱を操りながらモミジさんが言葉を続ける。
「思いやりがあって優しい人です。こちらのことを良く見ているので、わたしに何かあればすぐに声をかけてくれますし……」
「で、何がご不満なので?」
「……」
「正直に」
沈黙する相手に畳みかけると、ポツリと聞こえて来た。
「大人し過ぎて刺激が……アルグスタ様? 何故馬の首をわたしから遠ざけるように?」
「この子がちょっと曲がりたくなっただけです。気のせいです。全て馬のすることですし」
ある意味で最良物件を紹介したら、刺激が足らないとか知るか。
「でもイジメ甲斐のある子でしょ? 前の彼女さんはすっごくイジメてたらしいよ?」
あくまでイジメられていた本人や周りからの証言ですけどね。
すっごく搾り取られていたとか……今にして思うとフレアさんってアーネス君を実験台に男性を喜ばせるテクを学んでいたような気がする。頑張れ馬鹿兄貴。出産してからがきっと本当の戦いだぞ?
「はい。ちょっと意地悪をした時などの反応はたまらないのですが」
認めたよ。頑張れアーネス君。
「でもわたしはイジメられる方も良くて」
自供したよ。頑張れるかアーネス君?
「……なるほど」
「だからどうして離れるのですか?」
「気のせいです。馬が勝手にしていることです」
僕の気持ちを察して馬が勝手に離れただけだよ? 本当だよ?
「まあ彼を紹介した手前……とある人が言っていたらしい言葉をモミジさんに送りましょう」
「はい?」
とても徳のある御方の言葉だ。
「異性を自分好みの性癖の持ち主にしてこそ一人前なのです。そんなことをある人が言ってました」
確かメイド長だった叔母さんが言ってたとか伝え聞いた。
と、モミジさんが衝撃を受けたようにその身を震わせた。
「……分かりました。王都に戻ってから頑張ってみます」
「うん。そうだね」
めっちゃ軽い返事をして……僕は真っすぐ前を見た。
アーネス君。君なら耐えられると僕は信じているよ。
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