軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

完全な空気

「その姿勢は何かしら?」

「……何となく?」

「そんな理由でそんなことをされると腹立たしいわね」

出て来た先生が土下座している僕の頭を踏みつける。

一度先生の本来の姿を見たせいか、あの足で踏まれていると思うと変な興奮がっ!

「で、何よ?」

「はい。国王陛下から無地のプレートを預かって来ました」

本日プラチナ製のスマホサイズの綺麗な板を3枚ほど預かった。

先生に手渡して『身代わり』の術式を刻んで貰うのだ。

でもな~。

あの時のことを思い出すと本当に何とも言えない気持ちになる。

八方塞がりだったとは言え、先生におんぶで抱っこだった。仮にあの時出て来てくれなかったら……僕はここに座ってなど居なかっただろう。ノイエと一緒に逃亡生活かな?

それだけに先生には感謝の気持ちが止まらない。

止まらないけど……これって後で絶対にとんでもない何かを請求されそうで怖い。

請求なら良いんだけど、ノイエと仲良くしている時に邪魔するとかだったら泣くよ?

「そう。引き出しの中にでも置いておいて。気が乗ったら刻んでおくから」

「……」

サラリとそう言うと、先生は僕の頭から足を離してベッドに向かう。

恐ろしいくらいにあっさりだ。それはそれでやはり怖い。

言われたままに机の上に置いておいた無地のプレートを引き出しに入れ直す。

軽く本を読んでからノイエに戻るのが最近の先生のスタイルだ。その間僕は必死に魔法語の書き取りとかさせられる訳ですが……先生が睨んで来たので急いで椅子に座ってペンを手にした。

「気持ちをよそに向けずに集中して書きなさい。基礎は何においても大切なのだから」

「はい」

「返事ばかりは一人前ね」

クスッと笑った先生がまた読書へと戻った。

こんな風に生活できるのは全て先生のお陰だから不満は無いんだけどね。

ふと……あの時のことが脳裏に浮かんだ。

突如として色を赤く染めた義理の妹を前に、国王であるシュニットは覚悟を決めた。

「まず問いたい」

「何かしら?」

「貴女が本当に術式の魔女であると言うなら……どうやって処刑を逃れた?」

国王からの問いにアイルローゼは軽く笑う。

「逃れていないわよ」

「何だと?」

「だから逃れていないわ。私はギロチンで首をタンッてね」

手刀を自分の首に当てて魔女はまた笑う。

「ならばどうやってノイエの体に?」

「ええ。死ぬ前に私はとある魔道具を作ったのよ」

と、アイルローゼは全身から緊張を漂わせている王弟ハーフレンを見る。

「私が幽閉されていた場所を捜索したのは?」

「……俺たちだ」

「ならそこにあった私が作った魔道具やプレートは?」

「全て集めて国王陛下に納めた。あれは国からの指示で作らせていた物だからな」

「そうね。なら国王ウイルモットはそれらをどうしたのかを知ってて?」

「「……」」

その魔女の問いに王家の2人は何も答えられない。

「全部が無事に使われたと信じているの?」

「信じるほか無いな。我々は正直、指摘されるまでその存在を忘れていた」

若き王の素直な言葉に赤き魔女は柔らかく頷き返す。

「その中に私の精神のみを転移させる魔道具が含まれていたとしたら?」

「それは……今となっては調べようが無いな」

「あらそうなの? なら簡単に私が知っていることを話すと、私が首を断たれて死んだと思う日からしばらくして……ノイエの中で目を覚ましたわ。この子の魔力は知っての通りだったから」

魔女の説明にシュニットはある疑惑に辿り着く。

「……横流しがあって魔道具が表に出ていると?」

「ええ。だって軍や近衛の関係者にもこの子が住んでいた施設の関係者が居たのでしょう?」

「確かにその通りだ」

深く息を吐いてシュニットは弟を見つめる。

兄の視線で理解したハーフレンは、また新しく捜索する物が増えたことに頭痛を覚えた。

元弟子が淹れてくれた紅茶で喉を潤し、アイルローゼはゆっくりと2人を見る。

「どんな経路で私がこの子の元に辿り着いたのかは知らない。ただ私が死んでから、強い魔力を感知して発動するように作られていた道具がちゃんと仕事をしてくれたことには感謝しているわ。そして何よりノイエの中に入れたこともね」

「それはどう言う意味か?」

国王の問いにアイルローゼは軽く頷く。

「ノイエに気づかれないように体を動かすのに数年とかかったけれど、お蔭で私は大陸屈指の魔力を持つこの体を好きに扱えることが出来るようになった。この意味は分かるわね?」

「やりたい放題だと?」

「ええ。良い意味でその通りよ」

顔色を蒼くしているフレアに紅茶のお替りを求め、ついでに茶菓子まで要求する。

茶菓子の手配をと部屋を出て行こうとするメイドを王弟がその手を掴み制した。

「アルグ。頼めるか?」

「良いですよ。分かりました」

立ち上がった完全な空気となっている元第三王子が、逃げるように部屋を出て行こうとする。

「ねえ貴方」

「……はい?」

慌てて振り返ったアルグスタに妻である"ノイエ"が厳しい視線を向ける。

「少し多めに頼むわ。理由は言わなくても分かっているでしょう?」

「はい。ついでに食事の手配もしておきます」

「お願いね」

逃げるように部屋を出た夫を見送り、アイルローゼは王家の2人と会話を続けた。

「先生」

「何よ?」

「あの日……僕が国王の執務室を出てからどんな話をしたんですか?」

本から視線を上げた先生がこっちを見る。

「大した話はしていないわ。ノイエの魔力で何が出来るのか? ノイエの体を何処まで使えるのか? その程度の話をしながら、彼らがフレアに確認を取るから時間を食っていたの」

「それで僕が戻って来ても話が進んで無かったのか」

「そう言うことよ」

そう言うことらしい。

「私はこの体を動かせるけれど、ノイエが普段使っている力は振るえない。代わりに私が作った魔法などは使いたい放題だけれどもね」

言いながら夫が持って来たお菓子を受け取りアイルローゼはそれを食べ始めた。

改良は進めているのだが、やはりまだ問題が多いらしくノイエの魔力が無駄に消費してしまうのだ。

ビスケットを食べながらアイルローゼはその目を国王に向けた。

「だからノイエの代わりに戦うのは……魔法の行使なら出来るわ。でも私が貴方たちに提示するのは本来の仕事よ」

「それは?」

クスッと笑いアイルローゼは2本の指でビスケットを挟んで持ち上げる。

「私の本業は……術式の魔女。必要な術式をプレートに刻んであげるから、無地の物と何が最優先か言いなさい。たぶん身代わりでしょうけど?」

クスッと笑って魔女はビスケットを口の中に頬張った。

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