軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

なら『影』を

話し合いは終わった。

術式の魔女である彼女の言葉巧みな"嘘"にその場に居る全員が、アイルローゼの言葉に押し切られた。夫であるアルグスタですらもだ。

だがそれは魔法に関してはフレアですら遠く及ばない知識を持つ魔女が相手なのだから仕方ない。故に彼らは『アイルローゼは処刑された』という言葉を飲み込むしか無かった。

何より"彼女"の死はそれほど重要ではないのだ。処刑されていようが、いまいが。

魔女からの提案で……ノイエの中にアイルローゼが居ることを知るのは国王とその弟2人、そして弟子であったメイド長の計4人。それ以上増やさないことを条件に、術式の魔女は国王陛下から依頼された術式をプレートに刻むことが取り決められた。

そんな条件で話が纏まったのは、アイルローゼと言う存在を王家の2人が危険視しなかったからだ。

ハーフレンは自身の狂いを体験していることもあるし、フレアもまた同じだ。

その2人がそれ以降狂っていないことを知るシュニットとしては、アイルローゼと言う駒は喉から手が出るほど貴重な存在なのだ。

現在のユニバンス王国には『身代わり』の術式を刻める魔法使いは居ないのだから。

勿論それを理解しているからこそ、アイルローゼは全ての"謎"を自身で抱え込んだのだ。

「なら話し合いはこれで良いわね? 私は王家に協力をする……良くて?」

「ああ。貴女の力は正直どんな人材よりも今のこの国には必要だ」

「そうかしら? 昔はただ人を殺す道具を作っていた魔女よ」

クスクスと笑い、アイルローゼは空になった菓子箱を隣に座る夫に押し付けた。

「ああ1つ忘れていたわ」

「何か?」

「……私の存在をノイエには言わないで」

「それは何故?」

一瞬目を閉じたアイルローゼは、国王を見る。

「それが私の弱点だからよ。あの子に存在を気づかれると、私は消滅してしまう。簡単でしょう?」

「なるほど」

頷いたシュニットは彼女の隣に座る弟を見た。

「それだけではあるまい?」

「ええ。下手をすればノイエの精神も消えかねない」

「そんな理由が無ければアルグスタはお前の言うことに従わんだろう」

「どうかしらね?」

クスクスと笑いアイルローゼはゆっくりと立ち上がる。

国王シュニットも立ち上がり、2人は握手をして口約束だが交渉を終えた。

「なら私たちはこれで帰らせて貰うわ」

「ああ」

見送ろうとするシュニットに、立ち上がったハーフレンが厳しい視線を魔女に向けた。

「1つ問いたい」

「何かしら?」

「グローディアがどうなったのかを知っているか?」

「……残念ながら知らないわ」

「そうか」

苦笑いを浮かべた王弟もまた握手を求める。

応じたアイルローゼは手を握り、そして相手に笑いかけた。

「本当なら私の可愛い弟子を弄んだ貴方を1発殴りたいのだけど……そんなことをしたらフレアが泣いてしまいそうだから許してあげるわ」

「それは助かったな」

「ええ。でもまた泣かせるようなことをしてみなさい」

恐ろしい気配を発してアイルローゼはハーフレンを睨んだ。

「消すわよ」

「ああ。なら幸せにするさ。しばらくは公表できんがな」

「それでもその子は幸せでしょうね」

笑ってアイルローゼは部屋を出て行こうとする。

「何しているの貴方? 帰るわよ」

「自分空気だったので……忘れられているのかと」

「馬鹿を言ってないで早く来なさい」

妻の尻に敷かれている見本のような弟を連れて、普段の色に戻った彼女は国王の執務室を出て行くのだった。

「先生!」

「今は隊長と呼びなさい。もう貴女は部下では無いけれど」

苦笑し足を止めたアイルローゼは、追いかけて来たメイドを捕まえ空き部屋へと入る。

夫を廊下に捨てたままでだ。

「それで何かしら?」

「先生。私……」

言葉は嗚咽に変わりホロポロと涙を溢す弟子を見て、アイルローゼはその手を伸ばすと頭を撫でてやる。

「よく頑張ったわね」

「私は……馬鹿をして……」

「ええ。でも貴女は本当に昔から加減が下手ね」

言ってアイルローゼは苦笑する。

「私は馬鹿になりなさいとは言ったけど、愚か者になれとは言って無かったはずよ?」

「はい」

「それなのに本当に……」

「ごめんなさい」

「まあ良いわ。もし謝りたいなら私の我が儘を聞いて貴女の手助けをし続けた夫に言いなさい。良いわね?」

「はい」

涙を拭うフレアを見つめ、アイルローゼはその視線を彼女の下腹部へと向けた。

「そこに居るのよね?」

「……はい」

「あのフレアが母親になるなんて……自分の老いを感じるわ」

今のフレアよりも若いノイエの体でアイルローゼは肩を竦める。

「まあ無理をせず良い子産みなさい。もし魔法の才能があるのなら私の弟子にしてあげるから」

クスクスと出来もしないことを口にしてアイルローゼは笑う。

だがフレアが顔を上げ、『それは良いかもしれない』と考えている様子が伺える表情を向けているのに気付き、アイルローゼは咳払いをした。

「冗談だから。私だっていつもこの体を動かせる訳では無いし」

「そうですよね」

「替わりに……」

「はい?」

ガッカリしている弟子にアイルローゼは微笑みかける。

「貴女にだけ専用の魔道具を作ってあげるわ。出産祝いの前払いよ」

「魔道具……」

優しい目を弟子に向け、魔女はその口を開く。

「貴女はどんな魔道具を欲するのかしら?」

問われ口を閉じたフレアは、しばらく熟考すると覚悟を決めた。

「なら『影』を」

「あれなの? 別の物でも」

「あれが良いんです」

言い切りフレアは師である彼女を見た。

「私は影になりたいんです」

「あら? まだ引き摺っているの?」

「違います。私は裏から相手を支える影になりたいのです。先生のような」

「……買い被り過ぎよ」

だがフレアは静かに頭を振った。

「先生は最初から最後までご自身が矢面に立って私たちを護ってくれました。だから私も先生のようにはなれないけれど、一歩でも先生に近づきたいんです」

「……馬鹿ね」

笑って魔女弟子の肩を叩いた。

「知らない間に少しは馬鹿が出来るようになったみたいね?」

「はい。先生の弟子ですから」

「そう」

告げてアイルローゼは相手に背を向けた。

「なら夫の執務室に来なさい。貴女がたぶん欲しがるだろうと思って影のプレートはもう刻んであるの」

肩越しに顔を向け、アイルローゼはクスリと笑う。

「あれから私がどれほど成長したのか見せてあげる。今の影は昔のに比べて数段に凶悪になっているから」

「私は護る為の……良いです。喜んで受け取ります」

軽く睨まれてフレアは受け入れることにした。

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