軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

石碑の前だったと言う

地の底へと続く階段を昇り続け、地上に這い出した魔女は軽く背伸びをした。

ずっとプレートと魔法作りで研究室に籠っていたツケが体力不足となって跳ね返って来ていた。

「少しは歩けると良いのだけど……」

苦笑いを浮かべ、一度だけアイルローゼは自分の背後を見た。

地の底に居る化け物は……相変わらずの変人だった。ただあの魔法だけは別格だ。

"彼女"の一族が始祖の血を引いているという眉唾物の噂話を信じたくなるほどに。

「あ~れ~? 珍し~」

「そうね」

今日も今日とて風の吹くままフワフワしているシュシュがやって来る。

フワフワ~と揺れながら、アイルローゼの背後の階段を見てにへら~と笑った。

「地の~底に~行ったの~?」

「ええそうよ」

あれが暴走した時に制止させる人員として、学院長はアイルローゼとシュシュを指名した。

国王を除けばごくごく少数しか知らない魔法学院の最大の秘密を知る学院生が、偶然その入り口で顔を合わせたのだ。

シュシュはフワフワしながら笑い出す。

「あれは~生きてた~?」

「残念なことに」

「そっか~」

次に行く場所があるアイルローゼは止めていた足を動かす。

するとシュシュがフワフワしながら付いて来た。

「何よ?」

「ん~? アイルローゼがね~みんなに~挨拶を~しながら~動き~回ってるって~」

「人聞きの悪い」

呆れながらもアイルローゼは苦笑した。

「それで~何を~してるの~?」

「そうね。強いて言うと挨拶かしら?」

「アイルローゼは~私の~言葉を~ちゃんと~聞くと~良いよ~」

フワフワしながらシュシュは頬を膨らませた。

相手の反応にクスクスと笑ったアイルローゼは、軽く肩を竦めた。

「今のうちに挨拶をしておかないとね」

「あ~れ~? どっか~行くの~?」

「分からないわ。でもずっとここに居れるとも限らないしね」

「だね~」

歩き出したアイルローゼに続いてシュシュもフワフワしながら付いて来る。

全体的に海の中を漂う海藻に見えるほど柔らかな動きだ。

「ミャンは?」

「ん~。残ってる~子と~勉強~してるね~」

「あの性癖が無ければ本当に良い師なのにね」

「あはは~。ミャンは~病気~だから~」

「そうね」

告げてアイルローゼは何となく空を見た。

らしく無い魔女の様子に……シュシュはフワフワを止めた。

「ソフィーアのことがそんなに気になるの?」

「……ええ。でも所詮は小娘だもの。師匠と言っても何もしてあげられないわ」

婚約者を喪い、借金で傾いた実家の為に身売り同然の扱いを受けている弟子を思い……アイルローゼは息を吐く。

たぶん今の何かが悪いのだと思う。そう思いながらも自身は巨悪に通じる魔法を作り出してしまったのだ。

「ねえアイルローゼ?」

「何かしら?」

「もし……貴女が生まれ変われるとしたら何になりたい?」

らしく無い相手の質問にアイルローゼは振り返った。

全体的にふんわりとした温かみのある美少女……それがシュシュだ。

彼女は間延びし過ぎた言葉にさえ慣れれば、後は全てにおいて文句の付け所の無い天才児なのだ。

「……そうね。巨木かしら」

「"巨"と言う辺りがアイルローゼらしいね」

「ならシュシュは?」

「わたしは鳥になりたい。何かに縛られずに自由に生きたい」

「そう」

確かにそれがシュシュらしい。

王国屈指の封印魔法の使い手が、自由を欲して止まないのだから……やはり何かが狂っているのだろう。

「どう~して~笑う~かな~」

「シュシュらしいと思ったのよ」

「ん~」

またフワフワを再開したシュシュが揺れる。

そのままの勢いで流れていきそうな"同級生"を見つめ、アイルローゼは口を開いた。

「シュシュ」

「な~に~?」

「私も質問があるの」

フワフワとしたシュシュが戻って来る。

「前に私の研究室で話したわよね?」

「な~に~?」

「詳しい内容は省くわ。だから簡潔に」

「ほ~い」

フワフワとしている彼女にアイルローゼはその疑問を口にする。

「貴女が結婚をするならどんな相手が良いの?」

「ん~。ん、ん~」

形容しがたいフワフワな動きを見せ、シュシュは動きを止めた。

「わたしを愛してくれて、自由にしてくれて、束縛してくれる人かな」

「何それ?」

「ん~。理想~?」

クスクスと笑うシュシュは飛び切りの笑顔をアイルローゼに見せた。

同性の彼女が見てもドキッとする程、シュシュの笑顔は魅力的で柔らかだった。

「アイルローゼ~」

「何かしら?」

「……また~逢える~と~良い~ね~」

『あはは~』と笑ってシュシュはフワフワと移動して行く。

それを見送ったアイルローゼは苦笑して軽く頭を掻いた。

「天才なんてここにはこんなに居るのに……本当に嫌になるわね」

たぶん彼女は気付いているのだろうと、アイルローゼは気付かされた。

それでも深く追求することなく、いつも通りに『別れ』の言葉としたのだ。

「そうねシュシュ……また逢えると良いわね」

薄く笑ってアイルローゼも歩き出す。

今日中に学院内を巡って挨拶を済ませておきたい人物は何人も居るのだ。

自身が提出した手紙を国王ウイルモットがどう判断するのかは分からない。分からないが……最後となることぐらいは考えておく必要がある。

だからこその挨拶なのだから。

「次はリグとキルイーツか……学院に居れば良いのだけれど」

アイルローゼは歩き続けた。するべきことをする為に。

数日後。

術式の魔女アイルローゼは学院からその姿を消すこととなる。

最悪にして最低の魔法を作り出した罪を背負い……人知れず何処かへと連れて行かれたのだった。

ただ彼女が学院から去る時、最後にある場所で足を止めた。

それは……戦場に出て帰って来ることの出来なかった学院生たちの名が刻まれた石碑の前だったと言う。

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