軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鉄槌!

「……状況は?」

ブンブンと振り回される巨人の腕から逃れて来たアイルローゼが、弟子たちと合流した。

流石の魔女でもあれの一撃をもう一度食らうのは嫌なのか、結構本気で駆けて逃げて来た。

「わたしの魔法でも」

「ミローテの『切断』が? そうなると少し厄介ね」

息を吐いてアイルローゼは辺りを見渡す。

思ったより被害は少なく済んでいる。これなら後で壊れた物の代金を支払えば十分誤魔化せる。

「怪我人は?」

「何人かキルイーツの元に運ばれています」

「彼なら死人にはしないでしょう」

全幅の……治療に関しては信頼できる相手の名にアイルローゼは怪我人のことは忘れることとした。

「だったら後はあれを止めれば良いだけね」

「出来るのか?」

「私を誰だと思っているの? 術式の"魔女"の名前は伊達じゃ無いわ」

ポーパルの言葉にそう返事をし、アイルローゼは一度シュシュを見た。

いつも通りやる気を全く見せない彼女は、フワフワと踊っている。本当に食えない相手だ。

「ミローテ。下がりなさい」

「はい先生」

師の言葉に従いミローテはアイルローゼの後方へと下がる。

改めて巨人を見つめた魔女は、一度目を閉じて深く息を吐いた。

「穿て穿て穿て! 我が覇道を邪魔する愚かなる存在を打ち砕け!」

正確で澱み無い高速詠唱。それがアイルローゼの武器であり、魔女の天才たる一端だ。

突き出した右手の掌を巨人へと向け……そして魔女は放った。

「鉄槌!」

ピィンッ……と耳の奥を突き抜ける音が響き、そして巨人が上から振り下ろされたのであろう何かによって足元の地面へと沈み動きを止めた。

誰も知らない力技過ぎる魔法を目にし、誰もが魔女の恐ろしさをその目に刻んだ。

「すご~。空気を~固めて~上から~落した~感じ~?」

「ええそうよ。元々は攻城魔法として作らされたんだけど、威力を重視しし過ぎて欠陥魔法になったのよ」

ふらつく足取りのアイルローゼに、急いでミローテが駆け寄ると彼女の体を支える。

この学院で最も多い魔力量を誇る彼女が魔力不足に陥る魔法……シュシュはカラクリを理解した。

「もっと~近づいて~使えば~良いのに~」

「殴られるわよ」

「でも~遠いと~色々と~大変だ~ね~」

「そうよ」

苦笑いをして、アイルローゼは自身を支えるミローテの肩を借りる。

「この魔法の欠点は、離れるほど魔力消費が跳ね上がることよ。出来たらあの巨人に触れて使えれば楽なんだけど」

「攻城だと~物凄い~欠点だぞ~」

「その通りよ。だから欠陥魔法として使用を見送られたわ」

苦しそうに息を吐いてアイルローゼは地面に埋まる巨人を見る。

掘り起こすのが大変だろうが、あのまま魔力が切れれば安全に壊すことが出来る。

「シュシュのお陰で弟子たちが怪我をしないですんだわ。ありがとう」

「ん~。感謝の~気持ちは~ケーキで~良いぞ~」

「最近のケーキは美味しくないけど、それでも良いのなら手を打つわ」

「ケーキが~食べられる~ぞ~」

フワフワと踊るようにしてシュシュは自身が使った魔法を解除し始めた。

「ん~」

「待ったかしら?」

「寝てた~から~問題は~無いぞ~」

「そう」

言ってアイルローゼはシュシュの前に約束の物を置く。

戦争続きで物資の流入が減り、今やケーキなど貴重品となっていた。

砂糖の量を限界まで減らしたことや、何より日持ちがするようにとパウンドケーキのような物が主流となっている。それでも数少ない甘味にシュシュはすぐさまフォークを手にした。

「ん~。美味しい~ぞ~」

「良かったわね」

ケーキと一緒に持って来た紅茶をポットから注ぎ、シュシュにカップを勧める。

アイルローゼもまた自分のカップに紅茶を注いでそれを口にした。

「ん~。それで~アイルローゼ~」

「何よ?」

「わたしは~面倒臭い~ことが~嫌だから~何も~気づいて~ないって~ことで~良い~?」

「つまり気づいてたのね?」

「ん~。知らない~ぞ~」

ケーキを頬張り、シュシュはにへら~と笑う。

相手の様子にアイルローゼは渋い表情を浮かべた。

「上からの指示だったのよ。魔法で兵器は作れないかって」

「だから~あんな~欠陥品を~?」

「そうよ。だってそうするしかないでしょう?」

「難しい~ことは~分から~ないぞ~」

椅子に座りフラフラと揺れる相手の顔を、アイルローゼは見つめた。

「……私たちが魔法で兵器を作れば必ず相手もそれを作る。でもどうして現在魔法兵器が戦場で使われていないか分かる? 当たり前だけど……『相手も作れる』のよ」

「ん~。大変だ~ね~」

「その通りよ。互いに兵器を作り合って、模倣して改良し合って……行きつく先は人の大量死よ。魔法使いはそれを知る人々だと私は信じているわ」

「ん~。そうあって~欲しいね~」

「ええ。そうね」

言ってアイルローゼは視線を窓の外へと向けた。

今回は故意に欠陥品を全員で作ったが、いずれは何かしらの成功品を作らざるを得ない日が来るかもしれない。

その時は……自分はどうすれば良いのか? 少しだけ真剣に悩んだ。

「シュシュなら」

「ん~?」

「シュシュならあの巨人をどう倒した?」

「ん~」

フォークを咥えたシュシュは、落ち着きなくフワフワと揺れる。

「巨人の~魔力が~切れる~まで~封印~するね~」

「……出来たの?」

「ん~」

最後のケーキを頬張ってシュシュは笑う。

「疲れる~から~嫌だぞ~」

それがシュシュの本音だった。

一瞬目を瞠ったアイルローゼは、苦笑から笑いへと変化し……腹を抱えて笑った。

「貴女は大物よ。きっと器だけならこの国一ね」

「褒めるな~照れるぞ~」

ヘラヘラと笑うシュシュを見てアイルローゼは笑い過ぎて浮かんだ涙を拭った。

「ああっ! ちょっと待ちなさいよ! どうして2人が……わたしも混ぜてっ! シュシュはどっか行って!」

突如湧いて来た彼女に……アイルローゼは弟子が扱う魔法を使う。

空気を重くして相手を押さえつける重力魔法だ。

「重い……重いわアイルッ!」

「潰れてしまいなさい。ミャン」

「ああ。アイルの愛が重すぎる。……ごめんなさい。本当に潰れます」

「私の愛が暴走して止まらないわ。ちゃんと受け止めてミャン」

「無理無理無理。何か出ちゃうから……私の穴から色々と出ちゃうからっ!」

押し潰されそうになっている幼馴染を見つめ、シュシュは紅茶を飲み干して満足気に息を吐いた。

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