軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

馴れ~だよ~

「良いのよどうせ……わたしなんて……」

自室のような場所なのでノックせずに扉を開けたのが良く無かったのかもしれない。

どう言葉を告げたら良いのか分からない弟子の表情を見て、流石のアイルローゼも言葉に困った。

「……おはよう」

「あっ……おはようございます。先生っ」

「「……おはようございます」」

何となく気の抜けた挨拶となってしまったが仕方ない。

結果として失態を見せることとなったミローテは、慌てて取り繕って立ち上がり挨拶をする。

事の顛末を知る2人の弟子たちは……何とも言えない様子で俯き加減に師であるアイルローゼに挨拶をするのだった。

一瞬立ち止まった魔女は息を吐いて部屋の中に入ると、机の上に置かれている弟子たちに課した課題を見て……『今日の分は合格』と胸の中で呟き愛用している椅子に腰かけた。

「それでミローテがどうしてやさぐれていたのかを聞いても良いのかしら?」

「……」

真っすぐと向けられた師の視線に耐え切れず、ミローテは体ごと顔を背ける。

弟子の態度に呆れつつも視線を次のソフィーアに向けると、彼女はその顔の色を少し蒼くさせて左右に振る。ならばと最年少の弟子に目を向けると、フレアは……2人の姉弟子たちの様子を一度確認してから口を開いた。

「ミローテに恋人が出来ないのは、彼女の趣味がミャンな感じだからだって言われて」

「大いに分かったから続きの言葉は要らないわ」

研究室内では家名など持ち出さないという取り決めが成されているが、とんでもない言葉を口走っているのはこのまま行けば第二王子の正室間違いなしと言われている存在だ。

流石のアイルローゼも後々のことを考えて彼女に似つかわしくない言葉を言わせない配慮をした。

「それでミローテの言い分は?」

「違うんです先生っ! わたしはただ男性から好かれないだけで!」

「だから同性に走り出したの?」

「違いますっ!」

顔を真っ赤にして泣きながらミローテは身の潔白を口にする。

「わたしはアイルローゼ先生を心の奥底からお慕いしているだけで、ミャンのような性欲まみれの目で先生を見ている訳ではありませんっ! わたしとしては先生をその椅子に腰かけたままの状態で永久に保存して毎日拝めればと思っているんです!」

自分はあんな異常者とは違うとばかりにミローテは言い切った。そう……言い切ったのだ。

ゆっくりと深く頷いたアイルローゼは、ソフィーアに目を向けた。

「キルイーツの元に走って、精神異常者の治療が出来る人を大至急呼んで来て頂戴」

「先生っ!」

「……ミローテ」

「はい?」

余りの言葉に憤慨したミローテに対し、アイルローゼはとても穏やかな目を向けた。

「田舎に越してのんびり過ごすのも心の治療には良いそうよ。さっさと荷物を纏めて行って頂戴」

「あんまりです先生~」

大号泣しだした弟子に……アイルローゼは耳を塞いでため息を吐いた。

「あ~れ~?」

「アイル。お菓子頂戴」

シュシュに連れられてアイルローゼの研究室へと来たリグは、迷うことなく中央の机の主の元へと駆けて行く。

何やら書類仕事をしていたらしい魔女は顔を上げ、駆け寄って来た少女を軽く抱き止めた。

「フレア? 何かあるかしら?」

「はい。ミローテが焼いたお菓子なら確か」

「そう。リグ」

「はい」

「そのお菓子なら全部食べて良いわ。余ったら持って帰って」

「わ~い」

魔女から弟子の少女へ視線を変えたリグは、真っ直ぐ突き進んでフレアの背中に抱き付く。

はいはいと"妹"の扱いに慣れている少女はリグを連れて部屋の隅の棚へと向かった。

「で~アイルローゼ~」

「なに?」

「ミローテは~どうして~そんな~姿~なのだ~?」

いつも通りの間延びした声に、魔女はため息交じりに床で正座している弟子に目を向けた。

上半身を縄で縛られ座っているミローテの額には、『猛省中』と書かれた紙が貼りつけられ、その表情を隠している。ただシクシクと泣き声が聞こえて来るから……そう言うことらしい。

「たぶんミャンが悪いのよ」

「え~? また~ミャンが~何か~した~?」

「ミローテの性癖がミャンに寄って来たのよ」

「違います! 違うんです! アイルローゼ先っ」

「黙りなさい。そして反省なさい」

「……」

冷たい言葉にミローテは口を閉じて沈黙した。

「……こんな風に私の弟子が狂わされたのよ」

「あ~」

フワフワと踊るように会話するシュシュも流石に返す言葉が無いらしい。

「だからソフィーアに精神治療の出来る人を探しに行って貰ったわ」

「あ~。アイルローゼ~」

「何かしら?」

「たぶん~それは~治ら~ないよ~。だって~不治の~病~だから~」

「そうなるとミローテを田舎の診療所にでも送り届けるしか無いわね」

「ん~」

フワフワと揺れるシュシュが止まった。

「慕われていると思えば良いんじゃないかな? ミローテは本当に恋愛感情無くアイルローゼのことを慕っていると思うよ。ただ自分の気持ちを口に出来ないだけかな?」

と、またフワフワと揺れ始める。

その様子にアイルローゼは心底疲れた様子で息を吐いた。

「普通に喋ったら?」

「ん~。早口は~疲れ~るんだ~よ~」

「そっちの喋り方の方がよっぽど疲れると思うけれど」

「馴れ~だよ~」

にへら~と笑いシュシュもリグたちの元へとお菓子を求め歩き出した。

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