作品タイトル不明
ご指示とあれば……是非も無い
「本日集まって貰ったのは……ここ最近の学院生たちの学力の低下についてだ」
普段学院を預かっている副学院長がカイゼル髭を擦り背筋を正した。
貴族の出でありそれなりの実力を持つが、彼が今の地位を手に入れる為に費やしたのは金の力であり、多数派工作の結果だ。
末席に座るアイルローゼはぼんやりと天井を見上げ頭の中で新しい術の式を思い浮かべて暇を潰していた。
「全体的に風紀が乱れている気がするのだが、どうだろうか?」
「そう思います」
「最近の学院生たちは好き勝手ばかりして」
「自分たちが現役の頃は……」
副学院長派の教師や講師たちが一斉に不満を口にして騒ぎ出す。
派閥に属していない者たちは苦い表情を浮かべてため息を吐き出す。
ひと通り騒ぎが終わると、本来会議の運営をするはずの人物が口を開いた。学院長だ。
「ひと通り学院生たちへの不満を聞いたが……幸運なことにこの場には現役の学院生でもある人物が居る。アイルローゼ」
「はい先生」
「君の口から学院生を代表して教師や講師に対しての不満を告げるが良い」
ニヤリと笑って寄こす相手に……アイルローゼは内心で息を吐いて相手を見つめ返した。
「宜しいのですか?」
「構わん」
「失礼な言葉も含みますが?」
「彼らの言葉も十分に失礼であったろう?」
だったら遠慮は要らないと、アイルローゼはその口を動かした。
「まず一番の問題は教える側の能力の低さだと思います」
「何を言うかっ! このガキがっ!」
激高し1人の講師が立ち上がる。
自分に指を向けて来る相手に、ガキと呼ばれた少女は柔らかく笑った。
「このように自制心も無くちょっとした言葉で声を荒げる大人を前に、子供たちが心穏やかに学ぶことが出来るでしょうか?」
「……」
アイルローゼに指を向けたまま彼はその顔を赤から紫へと変える。
「直ぐに怒りだす大人を前に子供たちは我慢をし、放課後となると怖い大人から解放されたとばかりに遊びだす。私は遊ぶことが悪いなどとは言いません。ただろくに授業を受けずに遊べば成績が悪くなるなど、それこそ子供でも分かることです。
ならば何を正すべきか……"大人"の人なら分かると思いますが?」
一度口を閉じてアイルローゼは自身の前に置かれているティーカップに手を伸ばす。
少し冷えてしまっているが口を潤すには十分だ。
「ならば君は我々大人が悪いのだというのかね?」
「ええ」
視線で怒っている男を座らせ副学院長が代わりに声を発して来る。
「恐れ多くも私も立場上講師の1人ですが……私の研究室の弟子たちの成績はどうでしょうか?」
「……学院で有数の実力であるな。だが元々彼女らは優れている人物たちから選ばれた」
「その通りです。実力のある弟子たちを教えて育てた。とても簡単なことですね? なら彼女たち以外の実力のある生徒たちの成績はどうでしょうか? まさかあの3人しか優れた人物が居なかったなど言いませんですよね?」
「それは……」
言い澱み副学院長も口を閉じる。
アイルローゼの弟子となった3人を除き、残りの有力な者たちは全員副学長派の講師や教師が教えているのだ。結果としてその者たちが成績を落とし問題となっている。
「でしたら私が他の子等も預かりましょうか? その場合王国から受けている術式プレートの作成が滞ってしまいますが……それはちゃんと教育も出来ない大人たちが責任を取って頂ければ問題無いと思います」
「それは出来ん。君には今以上にプレートを刻んで欲しいという話が来ている」
「お断りします」
「なに?」
眉をしかめる副学院長にアイルローゼは笑顔を向けた。
「今だって限界です。これ以上刻めと言うなら質の悪い粗悪品になるでしょう。そんな物を提出する"貴方"の評価がどうなっても構わないと言うならお受けしましょう。どうしますか?」
「……っ!」
苦虫を大量に噛み潰したような顔をし、彼はその顔を真っ赤にした。
副学院長が自身の評価を良くしたくて勝手にプレートの作成を受けているのだ。
これ以上のオーバーワークを得たくないアイルローゼはそう釘を刺したのだ。
「話が脱線しましたね。私だったら預けられた弟子たちの成績を上げることなど簡単です。1人1人と向き合い相手の得意としている才能を伸ばしてやれば良いのです。教えることを面倒臭がり全員一緒に同じ教えを押し付けるような愚かな教育などしません」
「それでは効率が悪いであろう!」
誰かの言葉にアイルローゼの目が細まる。
「効率が悪いだなんて言葉で自身の怠けを誤魔化さないで欲しい。
私たちは人に教える立場なのです。だからこそ1人1人と向き合うなんてことは当然のことです。弟子が10人居るのなら、1対1の教えを10回ずつやれば良い。こちらの方が効率が良いでしょう? 落伍者を出すことなく全員の成績を良くすれば、本来このような場は要らないのですから……違いますか?」
静かに言い放った少女の言葉に、大人たちは沈黙せざるを得なかった。
「失礼してます」
「今紅茶でも淹れよう」
「なら少し渋めで」
会議が終わり多数の大人たちから大人げない殺意にも似た視線を受けつつ、アイルローゼは気にもしないで学院長室へとやって来た。
副学院長に噛みつかれた学院長のバローズは、早々に会話を終えて自室へと逃げて来たのだ。
「先生」
「何かね?」
紅茶を淹れる相手を見つめ……アイルローゼは息を吐いた。
「わざと私を餌にした理由は?」
「うむ。あれらは教育者として失格だろう?」
「否定はしません。教え方が王国軍のように偏り過ぎています」
「元々近衛の魔法隊出身が多いからな」
ティーカップを彼女の前に置いて、バローズは頼りになる弟子に片目を閉じた。
「だからあいつ等を駆除してくれ。国王の許可は取ってある」
理解し、アイルローゼは微かに笑った。
「……人員は好きに使っても?」
「好きになさい。ただし確実にあれらの心を折ってこの学院から追い出しなさい」
ふんわりと立ち上がりアイルローゼは一礼した。
「学院長先生のご指示とあれば……是非も無い」
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