軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決して手を抜くことは許さん

《最近静かね……》

のんびりと湯に浸かりながらアイルローゼは窓の外に目を向ける。

この学院に入り女性専用の寮で暮らすようになってから最初に彼女がしたことは"掃除"だった。

魔法技術を使っての行為なだけに見ていて色々と楽しめたが、ただ目的が目的なだけに掃除が必要だったのだ。

キルイーツのようにちゃんとした理由がある者は死にそうな思いをして貰う程度で許したが、理由なき性欲まみれの学院生に対して彼女は容赦しなかった。

魔法には魔法で対抗して覗き魔を捕縛して学院長に差し出している。

それをし続けた結果、覗きが減ったのであれば良いのだが……どうもその気配は無い。

虎視眈々と何かを狙っているような気配を日々感じるのだ。

《まあ良い。仕掛けて来れば対処するだけだし》

今一度肩まで湯に浸かりるのだ、アイルローゼは手足を伸ばした。

昼に学院長から預けられた鍵のお陰で、この学院で死蔵されている魔法書が読めるようになった。

保管所の最深部……人目に付かないようにされているのは、内容が余りにも危険すぎる為だ。ただ危険な物を書けるほどの知識を持つ者の書には学ぶべきものが多い。

時間を忘れ読み続けた結果、食事無しになってしまったが。

空腹で少し辛いが、昔から良くやっていることなので気にはしない。

今度保存食を買って部屋の中に置いておけば良いことだ。

「だから~ミャンは~好みが~特殊~なんだ~よ~」

「そんなこと無いと思うんだけどね」

会話らしき声が聞こえてアイルローゼは視線を巡らせる。

やって来たのは青と黄色の髪をした2人の少女だった。

「人を好きになるのに垣根なんて無いはずよ」

「ま~ね~」

「ただ私は可愛い女の子が好きなのよ!」

「理解~されると~良いね~」

会話の内容から青い髪の少女は特殊な性癖を持っている様子なので、アイルローゼは自然と気配を消した。

消したはずなのだが……入って来た全裸の少女の目がアイルローゼを捉えた。

「……」

「どう~した~の~?」

フワフワと漂う感じで歩く黄色の髪をした少女が隣で硬直している青髪の少女を覗き込む。

顔の前で手を振り、それでも反応が無いから……彼女はそっと背後に回ってその手を突き上げた。

「のっほぉ~!」

「動いた~ね~」

「シュシュ……こっちは速い。まだこっちは速いから」

「知ら~ない~よ~」

フワフワと動き回る黄髪の少女は、樋から流れ出ているお湯で念入りに手を洗い出す。

浴場の床に伏してお尻を押さえている青髪の少女ゆっくりと立ち上がった。

「何か物凄く好みの子が居るんだけど!」

今にも飛び込んで来そうな相手の様子に、アイルローゼは息を吐いた。

面倒臭いことが嫌だから人の少ない時間に来たと言うのに……最も面倒臭そうな人たちに掴まってしまったと察したからだ。

「ねえちょっと貴女」

「湯船に浸かるなら体を洗いなさい。常識でしょう?」

「分かったわ!」

駆け寄って来た状態でクルッと方向転換し、青髪の少女は木製の椅子が置かれている場所へと駆け込んだ。急いで液体石鹸を手にして体に擦り付けて泡立て始める。

それを確認し、湯船を出たアイルローゼは……自分を見ている黄髪の少女に対して口元で指を立てて喋らないように促し、こっそりと青髪少女の背後に立った。

体を洗い頭へ、髪の毛へと洗う場所を変化させたのを見て、掴んだ液体石鹸をゆっくりと青い髪へと掛けて行く。

「あ~! 今日に限って物凄く泡立つんだけど!」

「新しい~石鹸かも~ね~」

フワフワと動きながら笑う黄髪の少女がアイルローゼが持つ石鹸入れに手を伸ばし受け取ると、石鹸を浴びせる仕事を引き継いでくれる。

軽く会釈しお風呂場を後にした赤髪の天才児は……これ以降青髪の同性愛者から執拗なまでに狙われることとなる。

「どうでしょうか!」

「ふむ。これは中々に面白い」

「ありがとうございます」

学院長室でバローズは提出された魔法式を見つめその目を細めていた。

ここ数日男子生徒たちが集まり何やら良からぬことをしているという噂を聞きつけ調査した結果、彼らは各々の師から出された課題をこなしてから集まり新しい魔法を作り出していただけだったのだ。

ちょうど完成したらしい魔法を彼らは確認の為にバローズに提出して来たのだ。

描かれた術の式には目新しいものは何も無いが、それでも既存の式を良く考え配置されている。

皆で話し合い創意工夫を重ねたことが良く分かる。

「それでこの魔法はどうするつもりかね?」

「はい。今夜使ってみようかと!」

「今夜?」

答えた中心人物らしい学院生に、他の学院生たちが不安げな目を向ける。

しかし彼はそんな視線にもめげない。

「学院長様。どうか今夜だけ特別に許可を頂きたいのです」

「許可か。……それは何をする為の物かね?」

「はい。あの宿敵赤毛の悪魔と戦う為です!」

宣言し彼は机を両手で叩いた。

「どうか我々にあの悪魔と正々堂々と戦う許可を頂きたい!」

「戦うとは穏やかでは無いな。それにその魔法でどう戦うというのかね?」

提出された魔法は、視野を伸ばし遠くを見通す魔法だ。

「はい! この魔法を使い女子寮の風呂を覗きます!」

「……そうか」

「はい!」

真っすぐな彼の目にバローズは正面から見返した。

「ならば許可は出来ない」

「何故ですか!」

『当然だよ』と彼の背後に立つ仲間たちが生温かな目を向ける。

しかし彼らは知らなかった。学院長……バローズがどんな人物であるのかを。

「そんな魔法で私の弟子に挑もうなど、最初から負けが分かっている戦場に君たちを送り出すことと同義だ。それを許可する師が何処に居る?」

ゆっくりと指を組んでバローズは机に肘を突いた。

「やるならば必ず勝たなければならない。それが現国王ウイルモット様のお言葉だ」

「「……」」

国王陛下の名を出され、学院生たちは全員背筋を伸ばした。

「覗きであっても決して手を抜くことは許さん。もっと確実に勝てる魔法と戦術を考え再度出向いて来なさい」

「分かりました!」

きびしを返し出て行く学院生を見つめ、バローズは小さく笑うと弟子の元へ向かい歩き出した。

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