軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

下着の意味をっ!

「……ふおっ!」

迫り来る地面の映像が消え、何度となく見上げる天井の景色が目に映る。

全身から噴き出た汗で衣服が肌に張り付き不快な感じがするが、彼はゆっくりと体を起こした。

久しぶりと言うか、初めてと言って良いほどの完敗だった。

自身の魔法にも自信があったが、何よりあの場所からの覗きに気づく存在が居るとは。

「あっ起きました? おはようございます」

「ああ」

「動けるようでしたら学院長室に直行して下さい。昼からは来るらしいんで」

「もう少し休んでからで良いか?」

「構いませんけどね。ただ余り相手を待たせると後々厄介ですよ?」

「分かっているがな。ただまだ脳裏に迫り来る地面が見えてな……足が竦むのだ」

「なら仕方ないですね」

救護室を預かる青年は、ヘラヘラと笑って自身が使っている机へと向かう。

「とりあえず救護室のベッドを使ったんで、後で洗濯代の請求を回しますからね」

「分かっている」

会話することで少し落ち着いた彼は、改めて自身の状況を確認する。

衝突する寸前に全力で自身を強化した甲斐もあり、酷い傷は無さそうだった。

「手当は誰が?」

「妹さんを呼んでやって貰いました」

「……今度会ったらコンコンと説教されるな。それは」

「自業自得なんで諦めて下さい」

製作し終えた書類を持ってやって来た青年から渡された木製の板に留められている紙を見て、彼は自身の名を書く。『キルイーツ』と。

「で、怪我の具合はどうですか?」

「酷くはなさそうだ。それにレティーシャは色々と厳しいが腕は良いからな」

「ですね。でも流石の彼女も憤慨してましたよ?」

「だろうな」

怪我を負った理由を聞けば、妹が怒り狂うのは決まっている。

「だが女性の裸を覗くのはあの場所が一番だからな」

「まあ全裸なのは確定してますからね」

「うむ。野郎の裸は一緒に入ればいくらでも見れるが……こればかりは覗くしかない」

「どっちも覗く貴方が凄いですが」

「仕方あるまい。人の骨格は千差万別だからな。こればかりは数を見て覚えなければどうにもならんよ」

「そうですか」

やれやれと呆れ、青年は受け取った木板を見つめて数度頷いた。

「自分はこれを出して来て通常の仕事に戻りますんで。

出て行く時は使ったシーツを丸めて籠に入れておいてください」

「分かっている」

この場所に来ることの多いキルイーツなだけに、部屋の使い方は熟知している。

それだけに青年も細かい忠告などせずに部屋を出て行った。

今一度ベッドに横になってキルイーツは天井を見つめた。

まだ幼いと言って良いあの赤毛の少女は、自身が必死に行使した魔法をあっさりと使ってみせていた。

この学院に来てから数多くの才能溢れる者たちを見ているが、間違いなくあれは別格だろう。

「あれほどの才能があれば不可能を可能に出来るのだろうな……」

「どうかしらね。私だって死者を生き返らせたりする魔法は無理だと思うわ」

「っ!」

慌てて飛び起きキルイーツは自身の使うベッドの横に目を向ける。

置かれている椅子から確かにその声が聞こえた。

「良い反応ね。でももっと早くに気づかないと」

ゆっくりと色が付き出し、少女の形を描き出す。

現れたのは間違いなく昨夜……たぶん昨夜に出会ったであろう赤毛の天才児だ。

「いつから?」

「さっきの人と入れ替わりにね」

「その魔法は?」

「嫌いな親戚を驚かせるために作った物よ。ただ姿を消すだけで熟練の戦士には気配や何やらで見つかってしまう中途半端な魔法よ」

学院で支給される真新しい『制服』に身を包んでいる少女は、そう言って軽く笑うとキルイーツを見た。

「あの魔法」

「……」

「昨日貴方が使ってみせた魔法、私が弄っても良いかしら?」

「弄る?」

「ええ」

椅子に座り直すと、赤毛の天才児と呼ばれるアイルローゼはその表情を正した。

「多分あの魔法は貴方が覗きの為に急いで作った欠陥品でしょう? 色々と雑だから作り手である貴方ぐらいにしか扱えない物よ。でも壁を登ることは他への可能性を膨らませる。崖を昇ったりするのを容易にすれば、軍の人たちが使用目的を嫌でも増やしてくれるはずよ」

「軍事目的で使いたいと?」

「覗き目的で使うことよりマシだと思うけど?」

「……好きにすると良い」

相手の返事を聞き、アイルローゼは机へと向かい歩いて行くと……紙とペンを持って戻って来た。

「なら書いてくれるかしら? 術の式と魔法語を」

「昨夜自身で使っただろう?」

「あれはあれよ。貴方の物と私の物とを比べてより良い物を作る。研究ってそう言うことでしょう?」

「分かった分かった」

受け取った物を使い、キルイーツはサラサラと紙にしたためる。

別に奪われても痛いと思うほどの魔法では無い。強化魔法を使える者が、高い所へと昇る根性があれば誰でも使える魔法だ。

「これで良いだろう?」

「ええ」

受け取った紙を見つめ、アイルローゼはそれを懐へとしまった。

「それにしても魔法の残滓で見つかるとはな」

「力技過ぎたのね」

「……そう言われると否定は出来ないがな」

自身の魔力をフルに使っての力技だ。それは使用しているキルイーツが一番理解していた。

「どうして女性のお風呂を覗こうとしたの?」

「さっきも言っていたが……聞いて無かったか?」

「ええ」

どこか冷めた視線を向けて来る少女に、彼は軽く頭を掻いた。

「……私はこう見えても医者だ。それも異世界の外法の治療を専門にしている」

「切って繋げてって言う?」

「それだよ」

告げてキルイーツは苦笑する。

人の命を救うためとは言え、患者を切りつける行為は良しとされていない。

『外法』などと言われてもそれが潰えないのは、必要とする者が居るからだ。

「その技術でも限度がある。だから私は不可能魔法の1つ……治療魔法の研究をしている」

「あれね。歴代の魔法使いが挑み続けて挫折し続ける厄介魔法でしょ?」

「ああ。でも完成すれば救える者の数は増える」

「そうね」

笑いアイルローゼは膝を抱くように椅子に座る。

「それで覗きにはどう繋がるの?」

「魔法とそっちは別の話だ。人の骨格を学ぶために男女の全裸像を見たいと思っての行為だ」

「……溜まった性欲の発散じゃ無いのね」

「それを目的に覗きをしている者は別だな」

「別に居るのね。そっちも見つけないと」

やれやれと頭を振ってアイルローゼは椅子から立ち上がった。

「性欲が目的じゃ無いなら……今度からお風呂場が終わる頃だけ覗かないようになさい」

「理由は?」

「その時間に私が入るから。私のを見ないなら煩く言わないわ」

「分かった。また地面に叩きつけられるのは正直辛い」

軽く笑いながら部屋を出て行こうとする少女に、キルイーツは思い出した感じで口を開いた。

「これは大人からの忠告だが」

「何かしら?」

振り向いたアイルローゼに、彼はとても渋い表情を作ってみせた。

「白い下着は悪く無いが、もう少し穿き方に気をつけないと下着の意味をっ!」

投げつけられたインク瓶によってキルイーツは新しい傷を増やすこととなったのだった。

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