軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

串焼き食べようか

「……アルグ様」

「ん~?」

地面を蹴ってポ~ンと宙に舞ったノイエが前方を見たままだ。

その胸に抱かれている僕は風圧に気をつけながら顔を向けると、必死に走る豆粒大の存在を見つけた。

もう少しだったが追いついたぞ? ミシュよ?

「抜く?」

「ん~」

ただ相手もこっちに気づいたらしく結構必死に走っている。どう見ても弱い者いじめの構図だ。

どうするか真剣に悩んだら、宙に浮かんでいた僕らがゆっくりと降下を始める。ノイエが前進すればあっさり追い抜いてこのまま王都へ先に着く。

「上下運動で気持ち悪くなって来たからゆっくりで良いや」

「良いの?」

「勝ちたい?」

「……」

少し躊躇ったノイエは前進ではなく着地を選択した。

地面へ降りて僕を地面に降ろしてくれる。うん。ガクガクと揺れるよ。三半規管が限界だ。

「大丈夫?」

「水が欲しいかも」

「はい」

水筒を取り出したノイエがそれを飲ませてくれる。

ただチラチラと視線が王都の方に向けられるのは……本当にノイエは負けず嫌いだな。

「ごめんねノイエ」

「ん?」

「勝たせてあげられなくて」

「……」

フルフルと頭を振って彼女が抱き付いて来る。

勝つことよりも僕の体調を優先してくれたお嫁さんが誇らしい。

「それに大丈夫だよ」

「ん?」

「ミシュは勝っても幸せになれない星の元に居るから。違った意味で幸せなのかもね」

「?」

アホ毛まで『?』の形を作って首を傾げる彼女の頭を優しく撫でる。

見間違いでなければ勝者であるミシュは、王都に入ると同時に出迎えを受けることだろう。

「さっ……少し歩いて帰ろうか」

「はい」

彼女と指を絡める恋人繋ぎで手を結び、急がない速度で王都へ向かう。

目の前にその存在が見えて来て思う訳です。

『帰りたくない』と。そして『夜が来なければ良いのに』と。

チラリとノイエの顔を見ると、うっすら口角を上げて寄りかかって来る。

このままなら平気なのに……馬鹿兄貴どもめ、決して忘れんからな!

「みぃぎゃあぁ~っ!」

「ふはははは~」

「はなっ離せよ~うっ!」

「そんなことを言わず! 幼き君よ!」

王都の正門に辿り着いた僕らの目の前で、予定通りなことが起きていた。

必死に辿り着いて力尽きたのであろうミシュに全裸の変態……マツバさんが情熱的な求愛行動をしている。これは見てて焦らないし困らない類のものだ。何と言うかコメディだ。

「ミシュ~」

「助けろ上司っ!」

「手紙は?」

「衛兵に、みぃぎゃ~!」

色気も何も無い悲鳴を上げる彼女をスルーして、僕は正門を護る衛兵たちの元へ歩み寄る。

「手紙は?」

「はっ! 急ぎ王城にお届けしました」

「どうも」

懐から小銭の詰まっている袋を取り出して、隊長さんらしい人に手渡す。

突然の小袋に彼がその目を白黒とさせた。

「あれの後始末お願い」

「……後始末とは?」

「やりすぎるようなら捕まえて牢屋にでも入れておいて。宜しく」

「はぁ」

困り果てた様子の隊長さんに後を託して、

「助けろ上司っ!」

「無理。この後謹慎を食らであろう僕はその前にやることがあるのだよ」

「みぃぎゃあ~!」

呼びかけておいて悲鳴とは失礼な。

とりあえずノイエを連れだってその場から離れる。

「向かう先は義母さんの所と迎賓館か」

「でしたらわたくしがラインリア様の方をお引き受けしましょう」

「うわっ!」

背後からの声に心底驚いた。

振り返ると黒いドレス姿のスィークさんがいつも通り平然と立っていた。

「……速過ぎない?」

「いいえ。これでも全盛期に比べると、老いたくは無いものです」

「叔母様はまだまだお若いですよ?」

「そう言ってくれるのはアルグスタだけですね」

薄っすら笑った彼女が頭を撫でてくれた。

「ラインリア様の方には何と伝えれば?」

「えっと……」

帰路で考えていた案を提示すると、彼女は『それだったら』と内容の変更を提案して来る。

悪くない……むしろ最高の嫌がらせなので僕はその提案を飲んだ。

「だったら迎賓館に行ってキシャーラのオッサンとそんな感じで話を纏めますね」

「ええ」

最悪の中でも最高の結果を得られるはずだ。

さてと。後はお城からの呼び出しが来る前に、王城に忍び込んで迎賓館に行かないと。

「忘れる所でした。アルグスタ」

「はい?」

呼び止められて先を急ごうとするノイエの手を引いて止める。

大丈夫ですお嫁さん。串焼きのお店は逃げません。

正面からスィーク叔母様が真面目な顔をして僕を見る。

「今回……貴方らしくないほど頑張っている様子ですが、それはどうして?」

「やんわりと皮肉を言われた気持ちになったけど、まあ普段の言動から察するに否定できないので」

『あはは』と笑って誤魔化そうとするが、相手がそれを許すような人では無い。

「……本来居た世界で僕の本当のお母さんは一生懸命に僕を育ててくれたんです」

恥ずかしいけど言わないと逃げられないから白状する。

「病気になって弱っていく母さんに『ありがとう』って伝えたくても『伝えたらそれで何かが終わるんじゃないか?』って怖くなって何も言えなかったんだ。

それもあってかな……どうも『母さん』って存在を無視できなくて」

リア義母さんは色んな意味で僕の母親ではないけれど、でもあの人はボクの母親で居ようとしてくれる人だし……何よりノイエと喧嘩した時に和解させてくれた人だ。十分にお義母さんだと思う。

「あんな風に悲しみを噛み締めて泣いている義母さんを見て無視なんて出来ないです。何よりフレアさんを救い出すように言われていたし」

そっとノイエの肩を抱いて引き寄せる。

「それに僕には最強のお嫁さんにして最高の"家族"が居るから、だからたまには頑張ってみました」

「……そうですか。ならそのように報告しておきますね」

「ちょっ!」

しかし時すでに遅く……スィークさんは消えていた。

アカン。マジでハズいことが伝わってしまう。

「ノイエ……」

「はい?」

「……串焼き食べようか」

「はい」

現実逃避はやけ食いと決めた。

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