軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

不名誉な除軍

ユニバンス王国の西部へと向かう街道の途中にある街に取り残されたフレアは、そこで1人静かに過ごしていた。宿から出ることは許されず与えられた本を読んで暇を潰す。

本来罪人である自分が送る時間としては、優遇され過ぎた物であった。

穏やかな日々を与えられ、生活する中であれらの出来事が夢だったのではないかとすら思う。

だが記憶ははっきりと残っていた。

自分が何をしたのか、誰を殺したのか、誰を殺そうとしたのか……その全てを覚えているのだ。

少し前の自分だったら罪悪感なんて無縁だったのに、今は思い出すだけで心が痛んで苦しくなる。

ただ"彼"から聞いた過去の自分のように『死にたい』とは思えなかった。

こんな最低な自分でも命を賭して生かしてくれた人が居る。とっておきの魔法を使って生かしてくれた親友が居るからこそ、軽んじて命を絶つ行為は出来ない。

何より自分自身の内に命が宿っているのもある。

「悪阻だったんだ」

最近の不調の原因を知り、何故か我が子に怒られた気分にすらさせられた。

自分が悩みはっきりしないからお腹の子は激しく自分に当たったのか……ここに来てから少しだけ楽になったのもあってそんな気持ちにさせられる。

「……会いたいな」

一人ぼっちの生活がこんなにもつまらないなんて初めて知った。

自分は知らぬ間にあの慌ただしくて騒がしい日々を好んでいたのだと。

でももう戻れない。

彼らが裏から手を回し自分の処遇をどうにか軽く出来るようにしているのは分かる。

分かるが出来ないことの方が多いのだ。

せめてお腹の子だけは産んでから処刑されたいと……フレアは自身の未来をそう願っていた。

翌日騎士たちが訪れ、フレアは王都への移動を命じられた。

「騎士フレア・フォン・クロストパージュ」

「はい」

響いた議長……国王シュニットの声にフレアは背筋を伸ばした。

ここ最近何かあれば開かれている会議場の中心に彼女は居た。

普段なら関係者として、問題を起こした上司が根底から議題を引っ繰り返す様子を見つめる場所に居たはずなのだが……とうとう自分も追及される方に回って来てしまったと胸の内で苦笑する。

それでも普通に考えれば、自身がやったことを鑑みれば……この様な場所で審議されることなどあり得ない。

首には魔力封じの魔道具が付けられ、両手首には鉄製の拘束具まではめられ、罪人の格好と言えばそれまでの姿だが……それでも即決で処刑台に引きずられて行かれなかったことに驚かされた。

「貴女は王弟ハーフレンの求愛に気が動転し、折しも新領地所属のトリスシア女史の強引過ぎる誘いに乗って新領地へ許可も無く出向きそのまま出奔したと、アルグスタやキシャーラからの報告がある。相違ないか?」

「はい」

シュニットの言葉に真面目に答える。

真面目に答えはするが、聞こえてくる言葉は全くもってふざけた物ばかりだ。

自分の知らない間に全てがおかしなことになっていた。

宿屋に押し込まれる時にコンスーロが『貴女は新領地に行ったと云うことになっています』と言っていた言葉の意味が分かった。誰かがまた根底から引っ繰り返す気なのだ。

審議会の最中であるが、フレアは俯いて肩を震わせている『ユニバンス一の厄介者』と呼ばれる相手を見つめ、まだ上司の彼を心の中で何度か刺殺した。

「そして貴女は新領地から王国内西部へと移り、宿屋で過ごしていた所を捜索していた騎士たちに発見された」

「はい」

「つまり貴女は新領地への遠征から戻り、しばらくしてから王都を離れた。それからの間は一度として戻って来ていないと言うことになる。相違ないか?」

「違いありません」

ふざけた話でもそれに乗らざるを得ないフレアはただただ認めて行く。

大臣たちや一部貴族たちがキツイ視線を向けて来るが、処刑されるのなら笑顔で嘘を吐くことをフレアは決めていた。護りたい 存在(もの) があるからこその開き直りだ。

「うむ。では誰か意見はあるか?」

数人の大臣が手を挙げる中、やる気の無さそうに手を挙げる人物が居る。アルグスタだ。

苦笑した国王はそんな弟を指名した。

「補足までに伝えたいことがあります」

「許す。申せ」

「はい」

立ち上がったアルグスタは軽く咳払いをして言葉を発した。

「前王の襲撃犯。現王の襲撃犯。両方その外見的特徴が私の部下であるフレアに酷似していたと報告を受けています。ですが前王ウイルモット様。そして陛下の護衛であるフレイア女史からも話を伺った限り、『瞳の色が違う』と言う話でした。

そして自分は彼女の救出に出向いた際、彼女によく似た敵と相対しました。竜人バルグドルグと名乗る者の魔法らしき物である可能性が高いと思いますが、自分も『姿形を良く似させる』攻撃を受けたのです。

報告書にある通り、現王襲撃時に竜人はその姿を王城内で現しました。つまりフレアの外見的な特徴を真似した敵の陽動の類だと推測します」

スラスラと言葉を放つ上司にフレアは軽く目を瞠り息を吐く。

どうしたらあんなにも顔色一つ変えずに嘘が言えるのか?

「そうか。他には?」

「はい。この後質問を受けるであろうことなので先に伝えておきますが……今回の敵はノイエの攻撃が一切通じず、仕方なく自分の祝福にてその存在を完全に消去しました。

陛下にも詳細なことは伝えていませんが、自分の祝福は決して手加減が出来る類のものではありません。使えば確実に相手を"消滅"させてしまいます。ですから部下であるフレアの為に敵を消し去ったのではないと言うことだけはご理解いただければと」

一礼をし彼は『お仕事終わり』と言いたげに椅子に腰かけた。

鷹揚に頷いたシュニットは口を開いた。

「うむ。立ち会った我が叔母でもあるスィーク・フォン・ハルムントよりも同じ報告が上がっておる。『群れとなって襲って来たドラゴンを鼻歌交じりで全て消し去った』とな」

「失礼ながら鼻歌は歌ってません」

「だが全て消し去ったのであろう?」

「それが自分の祝福の効果なので」

恭しく礼をしてアルグスタは口を閉じた。

その様子に顔色を悪くした大臣や貴族たちも沈黙する。

ドラゴンを消し去る力が自分たちに向けられでもしたらと考えたのだろう。

それを察し、シュニットは内心で苦笑した。

「1つ問おうか。アルグスタよ」

「はい」

「その力はおいそれと使えるものなのか?」

「無理にございます。制限が厳し過ぎるのが自分の祝福なので」

「なら……何かあったら直ぐに使えないと?」

口元で笑い言って来る兄に、弟は平然と答える。

「使えませんが、自分の横には妻が居ますので」

「何があっても不安が無いと?」

「はい」

頷きシュニットは、大臣たちが余計なことを考えないように予防線を張っておく。

つまり勝手に恐怖に感じアルグスタを襲えば、その妻が黙っていないと言うことだ。

「他に意見はあるか?」

見渡す国王の視線に動く者はいない。

「ならば騎士フレアの処遇を伝える」

「……」

静かに唾を飲みフレアは正面から国王を見た。

「王弟ハーフレンの行動にも問題があったとは言え、貴女のその軽率な行動で王国内に多大なる損害をもたらした。これは由々しき事態である。だが貴女の働きは誰もが知り得るほど優れている。

以上を鑑み……フレアを騎士の地位より廃することとし、"不名誉な除軍"の扱いとする。以上だ」

「……」

沙汰を受け、フレアはただ静かに頭を下げた。

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