軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

寝言は寝て言え、三下が

無事に魔道具が発動し、ノイエの魔力が大半消失した。

グローディアは言いようの無い空腹に目を回しながらも、目の前に立つ馬鹿な従弟を見た。

「おかしなところはある?」

「……」

「どうかしたの?」

『膨大な魔力を対価に人も移動できる』と謳われた過去の遺物。ただ支払う魔力の量が膨大過ぎて、個人では決して扱えない厄介物だ。もしかしたら不具合が生じた可能性もある。

一瞬焦ったグローディアだが、従弟は何やら飲み込むと胸を叩いた。

「ご飯食べながらは止めた方が良いね。息が詰まった」

「……今すぐ死になさい。そしてそのパンを寄こしなさい」

「どうぞ」

「……」

パン以外にも食べ歩ける料理を複数買って来ている相手を見て、グローディアはまずパンを引っ手繰った。

「準備が良いと言えばその通りだけど」

「絶対にノイエがお腹を空かせてると思ってね。でも怪我をして無かったから良かった」

「怪我はそうでも無いわ。ただ攻撃が利かないだけよ」

「あ~。打撃は全然?」

「効果なし。まるで影が霧でも殴っているみたいに手応えが無い。でも相手の攻撃は当たるし、食らい続けると体の芯まで冷たくなって来て辛いみたいよ」

「ん~。浸透系の攻撃か~。対処法が思いつかないから全部避けて貰おう」

会話をしながらパンを食べきったグローディアは、お替わりを求める。

嬉しそうに次のパンを寄こす相手を見て、心底小馬鹿にしたように笑った。

「これから戦いに行くのにどうしてそんな笑顔で居られるのよ?」

「ん? ノイエが居るもん。怖くないよ」

「そう」

「僕は弱いからね。ノイエに護って貰う。でも代わりにノイエに必要な物や知識を提供する。ギブ&テイク……協力してどうにかしましょってことです」

「歌ってなさい」

鼻で笑ってグローディアは食べかけのパンを彼に預ける。

「ノイエに戻るわ」

「ほい」

「で、馬鹿従弟」

「はい?」

立てた右手の人差し指をアルグスタの鼻先に当て、グローディアは澄んだ笑みを浮かべる。

「リア伯母様を悲しませて泣かせたアイツらを」

「昨日死んでれば良かったと思うくらいの絶望を与えれば良いんでしょ?」

「合格よ。後は任せたわ」

言ってノイエから色が抜ける。

いつも通り全体的に白くなった彼女は、そっと自分のお腹を押さえる。

「アルグ様?」

「ご飯持って来たよ」

差し出されたパンを見つめノイエは自然と手を伸ばす。

『どうして目の前に彼が居るの?』とか『戦っていたドラゴンはどうしたのか?』とか『どうしてお腹が空いているの?』とか……色々と疑問がノイエの頭の中に浮かんだが、パンがとても美味しいからどうでも良くなった。

「美味しい」

「こっちもどうぞ」

「はい」

はむはむとパンを食べきり、次は焼いてある厚切りのハムを食べ始める。

「と、流石に馬鹿兄貴1人だと辛いかな」

「あむ」

「食べながら話さないの」

「あむ」

むしろ食べる方が優先され彼女は自動的に返事をしているように見える。

やれやれと肩を竦め、夫であるアルグスタは妻の頭を撫でた。

「行こうかノイエ」

「はい」

「……好きなのどうぞ」

「はい」

飲むようにハムを食べ尽した彼女に、買って来た食べ物全てを渡しアルグスタは、とりあえず高笑いが聞こえて来る洞窟の奥へと向かい歩き出した。

「あ~っはは! 逃げ出すとは本当にあれが最強のドラゴンスレイヤーなのですか!」

竜司祭にして竜人であるバルグドルグの笑いは止まらない。

同格である司祭が『皇に仇なす存在』と言って警戒していた人間を彼は退けたと思い込んでいた。

「ですが逃し再起をはかられても厄介ですな……当初の予定通り、そこの王子にもこちらの仲間になって貰いましょう」

「笑わせるなよ。誰が成るか」

「そうですか。ならゴーンズ。その娘を切り刻みなさい」

「はい司祭様」

言ってゴーンズは剣を振り上げフレアを斬る。彼女は反応することなく黙って斬られ続ける。

何度か剣が振られ傷を作った彼女を見て……ハーフレンはただただ殺意を抱いた。

「くふふ……あ~っはは! 人間とはどうしてこう正直なのでしょうか! 大切な者が痛めつけられただけでその心に殺意を宿し闇に染まる。

王子よ。貴方も我が皇に魅入られた者の1人とお見受けする。存分に闇に染まり自分を解放すれば、我が仲間となり得る存在となるでしょう!」

「何か言ってることが下っ端の悪役幹部だな……絶対あれハズレだって」

絶好調に演説するバルグドルグの声にそれが被った。

「誰ですか?」

突然響いたやる気の無い声に、胸の内で殺意を渦巻いていたハーフレンは苦笑した。

そもそもドラゴンを前にしたノイエが逃げるなんてことをする訳が無い。彼女がドラゴンよりも優先するのは、誰でも無い……夫だけだ。

「あっどうも。通りすがりのドラゴンスレイヤーの夫です」

緊張感など微塵も感じさせずダラッとした形容詞が似合いそうなほど気を抜かしたアルグスタが、はむはむと2斤パンを齧る妻を連れて姿を現した。

「ドラゴンスレイヤーの?」

「はい夫です。妻が出張で寂しくなったから会いに来ました」

「つまり共に殺されに来たと?」

余裕しゃくしゃくとした様子で笑う竜人に対し、アルグスタは頭を掻いて笑みを浮かべた。

「寝言は寝て言え、三下が」

「何ですと?」

一歩前に出て彼は言い切った。

「お前なんてお嫁さんが本気にならなくても勝てるわ」

「言わせておけばっ!」

影を、闇を噴き出し……竜人は宙へと浮かんだ。

(c) 2019 甲斐八雲