作品タイトル不明
まだ運ぶの?
ユニバンス王国内某所
「成功したのか? どうなんだ?」
「さあ? 前王の方は全く知りませんが、現王の方は逃がしてしまいました」
「逃がしただと? ふざけるなっ!」
激高し怒鳴る初老の男に、竜司祭は薄い笑みをその顔に浮かべる。
目の前の男は確かに怒っている。怒っているが、どうもそれが演技に見えるのだ。
自身の復讐を見せつける為の偽りの激高……笑い出してしまいそうなのを竜司祭は我慢した。
「しかしあの娘が王家の者を襲った事実は変わらない。そうであろう? 竜司祭殿」
「ええ。この目で見ておりました。現王を襲う様子を」
正直に言えば老いた前王を襲う様子も見ていたが、竜司祭からすれば他人の復讐などに興味はない。手を貸しているのは愚かな人間がまだ使えるからだ。用が無ければ殺して餌にしている。
「ならばクロストパージュの家は他の貴族たちから叩かれる。今はそれで良かろう? ゾング」
「そうだな」
静かに告げられ、激高していた男は怒りを収めた。
本当に愚かな人間を見つめ……竜司祭は胸の内で笑う。
(まあ良い。この娘の闇が育つのであればこんな茶番にも付き合いましょう)
クククと声を発せずに笑い……彼は愚かな人間を見つめた。
ユニバンス王国王城内
至急を告げるクロストパージュ家の手紙は、現当主から領地を預かる長子テイルズからの物だった。
フレアの襲撃から遅れた仕事を片付け仮眠を取っていたシュニットは、その手紙を手にし内容を確認すると同時に、緊急事態であると認識し部下たちに至急の参集を命じる。
着替えなどもそこそこに、王は仕えし秘書官に声をかけた。
「近衛団長は?」
「はっ! お屋敷に戻っていないはずですが」
「ならば至急呼んで参れ」
「はっ!」
走って行く秘書官の背に視線も向けず、彼は急ぎ執務室へと移動した。
部下たちを部屋の隅に下がらせ、今一度手紙の内容を吟味する。
『至急の報告につき乱文なことを失礼します。
前王ウイルモット様が襲撃に遭い危篤の状況。自分の判断を越える事態であるが故、陛下からのご指示、対応を願う。
テイルズ・フォン・クロストパージュ』
余程急いで手紙を寄こしたのであろう……インクの滲みなどが見て取れた。
(狼煙などでは伝えられる内容では無いな)
緊急時の連絡と言う過去からの課題に苦笑し、シュニット王は息を吐いた。
弟であるウイルアムの元へ向かった父親が、クロストパージュの領地に逃げ込んだ。それが意味することは……途中で襲撃に遭った訳では無く、ウイルアムの領地で何かあったはずだ。
あの全てを捨て去った元宰相が、野心を剥き出しにする意味が分からない。
何より前王を襲うのであれば現王を襲う方が……シュニットはそれに行きついた。
前王が襲われ、そして現王も襲われたばかりだ。
報告だけではあるがフレアを動かしていたのは、竜司祭を名乗る『バルグドルグ』と言う人物。
ただ手詰まりだった大臣や一部貴族が息を吹き返し、実行役であったフレアの実家を糾弾している。
最中にこれでは……流石に面白くない。
「失礼します。陛下」
疲れたような声が響き、弟が姿を現した。
後処理で忙殺されていたのであろうハーフレンは、若干憔悴したようにも見える。
「近衛団長」
「はい」
「近衛は動かせるか?」
「どのような任務で」
疲れ果てていようが、ハーフレンは近衛の団長だ。表情を正して王の前に立つ。
頼もしい弟の様子に胸を痛めながら、シュニットは手にした手紙を弟に差し出した。
訝しみながら受け取ったそれを一読したハーフレンは、目を見開き全身を震わせた。
「まだ公言するな。それを知るのは、私とお前だけだ」
「……はっ」
きつく歯を噛み締め、ハーフレンが頷き返す。
「して、近衛は?」
「半数なれば翌朝には」
「ならばクロストパージュ領へ向かうことを命ずる」
「はっ」
頷き準備に向かおうとするハーフレンを王は呼び止めた。
「彼を連れて行けるよう手配してくれ」
「王よ。彼とは?」
「お前の戦友であろう? 過去……共に母上を救う戦いをしたと聞く」
「分かりました。失礼します」
改めて頷き返し、ハーフレンは王の執務室を出た。
同時にもう1人……消えた人物が居たこと、その場に居た者は誰一人として気づかなかった。
「は?」
突然の言葉に、気の抜けた返事をつい吐き出してしまった。
寝ていたのを叩き起こされ、ノイエに抱き付いたところでメイドさんの咳払いで現実に戻り、急いで城へとやって来たら……仕事の内容は留守番だね。うん。
「済まぬなアルグスタ」
「いいえ我が王」
取り繕って臣下の礼をとるけれど、ちょっと待って考えさせて……情報量が多くない?
フレアさんがお兄さんを襲撃した。大問題だ。対策を誤るとヤバい案件だ。
で、追い打ちにあのパパンが瀕死の状況でクロストパージュ領に運び込まれた。こっちは追加の情報待ちになるが、今が冬期だから早馬が出ているはずだ。
「近衛の指揮はハーフレンに一任する。お前は彼の留守中、王都の護りを任せたい」
「畏まりました我が王」
頷き命令を受諾して王の執務室を出る。急いで自分の執務室へと飛んで行く。
部屋の中ではノイエが暖炉に薪を投げ込み遊んでいた。
ノイエさんは燃える炎をずっと眺めて居られるタイプらしく、一度楽しみ出すと延々それをし続ける。僕も好きだったりするから文句は無い。
「アルグ様?」
「ノイエ」
「はい」
「ちょっと急ぎでお願いがあるんだけど」
「はい」
確認もしないで頷いちゃうこのお嫁さんってば、本当に偉大だ。
無理難題過ぎたら先生か誰かが出て来て、僕が懲らしめられるんだろうけどね。
「ならちょっと東に向かって突き進んで、こっちに向かって来る馬と人を抱えて来て」
「……はい」
お願いが長かったか? 大丈夫かノイエ?
「出来る?」
「はい」
フッとノイエの姿が消えて無くなった。
あれ? もしかして僕……今とんでもないミスをしなかった?
大丈夫。ノイエは頭の良い子だから。そう信じよう。うん。たぶん間違い無くやらかしたけどね。
椅子に向かって学院に行ってから置かれたのであろう書類に手を伸ばし仕事をしていたら、案の定ノイエが東からこっちに向かいやって来る人たちを"纏めて"連れて来た。
運が良かったのは、 人馬(にもつ) を降ろして『まだ運ぶの?』と言いたげに、彼女が僕の所に来てくれたことだ。
延々とそれをやられたらと考えていただけに、思わずノイエを抱きしめて力の限りアホ毛を撫でた。
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