軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

自称使用人さんに質問です

「申し訳ございません。先生」

「構わんよ」

深夜に叩き起こされ緊急の徴集を受けた医者……キルイーツは、少し気怠そうに頭を掻いた。

前王ウイルモットには個人的な恩が多くあるから出向くことに何ら問題は無い。それでも彼には少々心残りがある。

あの日も自分が出かけている間にことが生じたのだ。

故にたった一人の家族となった『娘』を置いて行くのが恐ろしく怖い。

それでも『連れて行きたい』などと我が儘を言えるような立場ではないのだ。

「娘の護衛を任せたい」

「ご安心を。近衛が責任を持ち……」

言いかけハーフレンは口を閉じて思案した。

「こちらで最も信頼の出来る者の傍に置きましょう。あれの傍に居れば何があっても大丈夫でしょう」

「そうか。なら頼むよ」

言ってキルイーツは空馬に向かい歩き出す。

ハーフレンは相手の背中を見つめ、何とも言えない気持ちになった。

深夜から急遽進めた出発の準備は夜明けとともに終了し、残すところ出発するのみだ。

弟が嫁の協力を得て、早馬を強制的に回収して来る力技を披露したお陰で、だいぶ情報が集まっている。それでも肝心なことは何も分からず、何より彼女の行方は要として知れずだ。

放った最強の猟犬ですら、手掛かり1つ掴めていない。

どうなるか分からない場所へキルイーツを連れて行くことに、少なくとも抵抗はある。

彼の技術はこれからの王国には必要不可欠な物なのだ。決して弟子を得ない彼の技術は。

「王子。準備が整いました」

「ああ。ならクロストパージュ領に向かう」

「「はっ」」

動き出した近衛を見つめ、ハーフレンは王都に残る副官に目を向ける。

「キルイーツ氏の娘。ナーファをアルグの元へ」

「宜しいのですか?」

「ああ。先生には無理を言って来て貰うんだ。ならこちらも誠意を見せるべきだろう?」

「畏まりました」

誠意。すなわち『あの日』のような出来事が起こったとしても、平穏無事に過ごせる場所で保護する。

現状のユニバンス王国で最も安全な場所は、対ドラゴン遊撃隊のドラグナイト夫妻の傍に他ならない。

コンスーロは馬を走らせ遠ざかる主の背を見つめ、そして自身で少女の迎えへと向かったのだった。

「クレアはそのまま寝かしておいて」

「……はい」

何も知らずに登城したクレアは、昨日自分の姉が起こした事件を知って……泡を噴いて倒れた。

冷たいけど今はクレアの相手をしている暇がない。忙し過ぎて猫の手を借りたいぐらいだ。

チラッとソファーを見ると、ノイエがお菓子をパクパクしていた。

僕の視線に気づくと、微かに目じりを下げて笑って来る。事務の仕事を手伝う気は無いらしい。

お姉ちゃん召喚(きんじて) さえ使えれば。

「とりあえずフレアさんに関する書類は一纏めにして置いておいて」

「はい」

「それとパル」

「はい」

「兄貴の執務室に行って、回って来てる報告書を全部こっちに」

「はい」

妹のミルを連れ、パルが部屋を出て行く。

後は馬鹿兄貴の執務室に回る書類をこっちに回るように手配して……と、パンパンと手を叩くがメイド長は現れず、代わりに今朝もチビ姫が隠し扉を押してやって来た。

「呼んだです~?」

「チビ姫の手でも良いのか」

「……退避です~」

「ノイエ」

あっさりとノイエに捕獲されたチビ姫は、そのまま腰に縄を巻いてソファーに固定する。

テーブルにケーキのメニューを置き、メニューの上に書類の束を置く。

「その書類の誤字脱字の確認が全部終わったら、ケーキを頼んで良いよ」

「頑張るです~」

ケーキと言うニンジンをぶら下げられ、チビ姫がやる気を見せた。

これでノイエの代わりを手に入れたも同然だ。事務仕事におけるノイエは素人同然だしな。

問題は……泡を噴き続けているクレアの方をどうしたものか? ノイエの看病は怖いしな。

「失礼しますアルグスタ様」

「おや? 行かなかったの?」

「ええ。貴方様に荒事を任せるのはハーフレン様がお許しにならないので」

近衛団長の副官であるコンスーロのオッサンがいつも通りの飄々とした様子で部屋に入って来た。

って、何故に彼女が?

「あの先生……遂になんか問題を起こして捕まった?」

「いいえ。前王ウイルモット様の治療の為に同行を願いまして」

「納得。で、どうして彼女が?」

「はい」

オッサンに促されて部屋に入って来たのは、先生の所の娘……ナーファだ。

最近年齢を知ってビックリしたが、実はまだ13らしい。新年を迎えたから14か。

彼女は、年上のクレアよりも大人に見えるルッテタイプの年齢詐称系の少女だったのだ。

「キルイーツ氏より留守中の警護を願われまして」

「で、うちで預かれと?」

「はい。我が主が言うには『あそこが一番安全だ』と言うので」

うちはシェルターでは無いのですが。まっ良いか。

「分かった。宜しくね~」

「あっはい」

いつもは彼女の自宅である診療所で会っているから、僕の執務室が珍しいのか落ち着きが無い。

と言うより……緊張している?

「ちょうど良かった。そこに泡を噴いてるのが居るから看病しといて」

「泡?」

ナーファの視線がクレアを見つける。

頬に手を当て声にならない叫びのジェスチャーを見せると、彼女は急いでクレアの看病を始めた。

どうやら彼女も根っからの医者らしい。お蔭で助かった。

「アルグスタ様。私はこれで」

「ちょっと待った」

「……何か?」

そのまま出て行こうとしたオッサンを……逃がしたりしないよ?

「ちょっと色々と話を纏めておこうか? どうも何点かフレアさんにはおかしな部分があるんだよね」

「そう申されましても、自分はただの使用人みたいな存在ですから」

うむ。これだからこの手のオッサン系な人は苦手だ。のらりくらりと逃げようとする。

「ならそこの自称使用人さんに質問です」

「何でしょう?」

一度呼吸を落ち着かせて、僕はコンスーロのオッサンを見つめた。

「フレアさんが『あの日』……どこで何をしていたのかを詳しく聞こうか?」

(c) 2019 甲斐八雲