軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

……話し合おうか?

体が重く呼吸が詰まる。

何より魔力が欠乏して来ていて、気を抜くと気絶しそうになる。

それでもフレイアは魔剣を振るい妹の気を引こうとする。が、効果をなさない。

彼女はずっと"彼"を見つめ、壊れた何かのように呟き続けている。

『彼は私のもの。彼は私のもの。彼は私のもの……』

ガクガクガクと膝から力が抜けるのを感じ、フレイアは背後に身を任せるように飛んだ。

力尽きた邪魔者を見逃さず、全てを食らい尽すかのように影が動き出し、絶望的な攻撃が降り注ぐのを彼女は見つめた。

……届かなかった。

妹の攻撃は足元を、床を打ち付けている。

寸前でフレイアは圧倒的な力で襟首を掴まれ、床を引き摺られ……命拾いをしたのだ。

「まだまだですね。今度、少し遊んであげましょう」

「……はい」

助かったはずなのに、フレイアは人生の終了を告げられた気分になる。

どこから湧いて来たのか全く感じさせず……ユニバンスが誇る最強の"メイド"が、妹に負けた憐れな彼女を救い出したのだ。

「それにしても……姉妹の喧嘩にしては少々度が過ぎたご様子で」

ニコリともせずフレイアを放り出したメイド長スィークは、軽く首を振ってズカズカと襲撃者との間合いを詰める。

迫るメイドを本能的に"敵"と認識したフレアの影が、一斉に動き出して襲って来た。

「例の武装とは違いますね。魔法ですか?」

あっさりと後方移動で回避したメイド長を目で追えた者はいない。

人間の努力で到達できるとは思えない高速移動が、彼女を最強へと押し上げたのだ。

「どうかな~? 私は魔法からっきしだし~」

「だから駄犬なのです。使えません」

「ちょっと待て! 自分も知らないことを棚に上げて何を言い出すかな~」

フレアは背後へと影を飛ばすが、こっちは瞬間的な移動で回避する。

鎧姿の小柄な少女が、メイド長に向かい突進して文句を言う。

居残っていた騎士たちは心の何処かでホッとした。

小柄な馬鹿はいつも通りだが、メイド長の強さは誰もが知る事実だ。

「さて。ハーフレン様」

「何だ」

「そこの反逆者の処分……どう致しますか?」

言い合っていたはずの師弟がスッと視線を細め、現状最高責任者である彼を見る。

腕を組み渋い表情を浮かべていたハーフレンは、深く息を吐いて前へと進み出した。

「どうするんだよ?」

「黙ってろ」

「へ~い」

肩を竦めてヘラヘラと笑うミシュに殺意を抱きながら、ハーフレンは剣を抜いた。

「フレア・フォン・クロストパージュ。国王陛下に対する反逆と殺害未遂の容疑で捕縛する。大人しく降れ」

彼は近衛団長としての振る舞いを優先した。

ここで何もせず救い出すことなど出来ない。なら捕まえて後でどうにかする方法を考えるしかないのだ。

何やら呟き続けていたフレアは、目の前に来た彼に対して……蕩けるような笑みを浮かべて手を差し伸べて来る。

「どうして? 私の邪魔をする者は、全員殺してしまえば良いの」

「フレア?」

クスクスと笑い……彼女は屈託のない笑みを見せる。

「前にも言ったはずよ? 貴方の邪魔をする者は全て殺してしまえば良いのだと。だから殺す。全員殺す。貴方の邪魔をする者を、私の邪魔をする者を……全員、全員殺す」

「っ!」

息を飲み目を見開く。ハーフレンはその言葉に覚えがあった。

確かあれは……彼女の心を壊した時に、あの頃の彼女が口にした言葉のはずだ。

ただあれ以来聞いていなかったから、てっきり成長し心変わりをしたのだと思っていた。

クスクスと笑うフレアは、祈るように自分の胸の前で指を組む。

「私はずっと自分を誤魔化して生きて来た。でももう誤魔化さない。だって苦しいから……だから素直に生きるの」

薄っすらと目を細め妖艶な笑みを見せる。

「貴方は私のもの。貴方は私だけのもの。誰にも渡さない。誰にも触れさせない。私が貴方を手に入れて、ずっと幸せにしてあげる。だから邪魔をする者は全員殺す。私が殺す」

ケタケタと笑いフレアの背後で影が蠢く。

嫌な気配を感じたハーフレンは、咄嗟に背後に顔を向けた。

「全員ふせっ」

「死ね」

冷たく放たれた言葉にフレアから生み出された黒い武器が静かに振るわれる。

死神の鎌を思わせるそれは、黒く冷たい色を湛え……横に薙いだのだ。

壁に亀裂が走るほどの衝撃をまき散らし、人が食らえばひとたまりもない。

告げた通り、フレアは皆殺しの一撃を放ったのだ。

「……話し合おうか?」

「命乞い?」

「話し合いっ! イタタタタっ! 命乞いで良いですっ!」

ノイエの姿をした先生に背中を踏まれ、僕は必死に命を乞う。

物凄く不機嫌な彼女が本気でおかしな魔法を振るったせいで、周りは負傷者多数なんですけどね。

「女を胸の大きさで分ける貴方が悪いのよ」

「ごもっともでございます。ですが先生」

「何よ?」

「自分……正直小さいのも好きであります」

「……」

僕の背中をグリグリと踏みつけていた足から力が抜けた。

チャンスだ。ここから抜け出して……うん無理。さっき食らった雷の龍みたいなやつで完全に痺れてます。

電気ショック系の魔法とかってズルくない? 痺れて終了とか防ぎようないし。実際周りに居た学院の人たちも感電してあっちこっちで痺れているしね。

でも今は、命乞い……話し合いを最優先だ。

「自分、小さいのを撫で回すのも好きです!」

「……変態ね」

「はぐっ!」

胸に中心に何かが突き刺さった気がしたけど、相手が足を退かしてくれたから良しとしよう。

ですが……こっちを見ているであろう先生の目が怖すぎて、顔を向けたくないです。

「まあ良いわ。これは見ての通りの魔法だから」

「見てる人が居ない気が?」

関係者は全員感電中です。僕を含めて。

「ええ。そうなるように狙ったから」

「……」

僕と話すためにやったとか言ったら流石に酷いと思いますよ? 怖くて言えないけど。

「……でも小さいのも好きなんだ」

「ふぁい?」

あっ……何か悪い予感が。

必死に顔を向けたら、先生が物凄く良い笑顔をっ!

「ホリーに言っておくわね」

「ちょっと待って下さい!」

目の色が変わりノイエに戻った彼女が、地面で伸びている僕を見て慌てて駆けて来た。

「大丈夫?」

「ちょっとダメかも」

「はい」

ひょいとノイエに抱えられて……良いのか? この状態は?

と、ノイエがクルッと半周して体ごとお城の方を見た。

「どうしたの?」

「はい。……またざわざわする」

「胸が?」

「はい」

胸騒ぎか。悪いことでも起きなきゃ良いけど。

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