軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

殺して。私を

辺りが静寂に包まれる。

溢れんばかりに爆発したかのように広がった影が、咄嗟に逃れることの出来なかった騎士たちの眼前で止まっていた。

逃れられたメイド長とミシュの2人は、影がどうして止まったのかに気づいていた。

馬鹿な男が身を挺して影に飛びかかり腕力で締め上げていたのだ。

それは無茶を通り越して蛮勇に等しい。

だが彼に対し異常なまでの執着を見せるフレアには良い攻撃だった。

傷つけられないからだ。彼を……愛する彼を傷つけることは出来ない。

故に影を停止させざるを得ない。

「もう止めてくれ。フレア」

「邪魔をしないでハーフレン」

彼の必死の思いをフレアは笑って受け流す。

「全員殺したら私は貴方と生きていく。誰にも邪魔なんてさせない」

「……止めてくれ」

「どうして?」

首を傾げて彼を見るフレアは理解出来ないと言った様子だ。

肩を震わせ、ハーフレンは自分の胸の内を言葉にする。

「お前を壊したのは俺だ。だからもう止めてくれ」

「壊した? 違う。私は壊れてない」

クスクスと笑い、フレアは影を引き戻す。

抱えていた物を失い、倒れそうになったハーフレンは必死に耐えて彼女を見た。

「私は壊れてなどいない。ただ自由になっただけ。本当の私になっただけ」

肩を震わせ壊れたようにフレアは笑う。

どう見ても正気を失っているようにしか見えない姿に、普段の彼女を知る者はいたたまれない気持ちになる。

「まっ、どっちにしろ……そろそろ黙らせるしかなさそうだね~」

やれやれと言った様子で歩いて来たのは、小柄な少女にしか見えないミシュだ。

腰の後ろに差す短剣を抜いて、ミシュは真っすぐに構えた。

「止めろミシュ」

「冗談? このまま放置すれば死人が出る」

「だがっ」

ジロリとミシュの目を向けられハーフレンは押し黙った。

普段おちゃらけている彼女が、らしく無いほど険しい表情を見せているからだ。

「ふざけるな馬鹿上司。馬鹿でも糞でも王家の者であるなら覚悟ぐらい決めろ」

「酷い。どうして私の大切な人を悪く言うの?」

怒った様子でクスクスと笑い、フレアは軽く頬を膨らませる。

完全に相手を舐め切った様子が伺え、流石のミシュは真面目にキレた。

「ああ。そこに居るのはデカいだけのガキだ。共に育った相手が悪かったのか両方して腐ってる」

「……彼の悪口は許さない」

笑みを消し、完全にミシュを"敵"と認識したフレアが動き出す。

また背後に影を纏わせ躍らせ……ゆっくりと歩み進んで行く。

迎え撃つミシュは、両腕を伸ばし短剣を真っすぐに構えていた。

「死ね」

「死になさい」

2人は同時に動いた。

ミシュは真っすぐ飛んで短剣を前へと突き出す。

フレアもまた影を真っすぐ前に伸ばして、ミシュが飛んで来る方向へ向ける。

フレアの目が驚愕に見開かれた。

ミシュは真っすぐ後方に飛んでいたのだ。

そしてフレアは、自分の背後からねじ込まれた剣の先が胸を突き破るの様を見た。

「敵がいつから1人だと?」

冷たく言い捨てたメイド長が、フレアの背後で突き刺した剣を引き抜く。

「師匠? 後方に飛ぶのは奥の手なんですけど?」

「気にしてはいけません。さらなる精進を重ねれば良いのです」

微かに返り血で濡れた剣の刃を確認し、メイド長は軽くその剣を掲げる。

傷つき膝を着いた"襲撃者"に対して振り下ろそうとし、愚かな王子に剣を持つ手を掴まれた。

「止めろスィーク。殺せば情報が得られない」

「はい。ならハーフレン様は、彼女が拷問を受けて全てのことを吐くまで生かされるのをお望みですか。とんだ優しさにございますね」

「っ!」

冷ややかなメイド長の言葉に、彼は何も言い返せなくなる。

国王襲撃の実行犯が辿る末路など……想像する必要すら無いからだ。

メイド長はその視線を弟子に向けた。

(あ~面倒臭い)

やれやれと諦め、ミシュはフレアの命を刈り取る為に飛ぼうとした。

付き合いが長い分色々と思うことはあるが……同僚としてのよしみだ。拷問を受けて壊されるくらいなら自分の手でその命を刈り取ろうとした。

移動し相手の首目掛けて振り下ろした短剣は、掴まれその刃を半ばから折られた。

「ククク……。まだまだ馴染んでいないせいで本気が出せませんか? それとも想い人が居て力を出せませんか? どちらにしても良いですよ。とても良いです。心の中で闇が育つのは実に素晴らしい」

穿かれた胸の傷から血のように黒い物を吐き出し、フレアはゆっくりと立ち上がる。

操られた人形のように、視線と体をフラフラと揺れ動かしながら。

「誰だ?」

「ククク……お初にお目に掛かります。ドラゴンスレイヤーを飼う王国の者よ。

私は竜司祭、"暗竜"のバルグドルグ」

フレアから溢れた闇が形を成して人となる。

それを見たミシュは何となく自分の額に手を当てた。

「ブシャールで似たようなのを殺したんだけど……実は兄弟?」

「いいえ。当人にございます。あの時は短剣を額にありがとうございます」

「本物だ」

納得しミシュは後方へと飛ぶ。武器を失い攻撃する手段が残っていないのだ。

悠然と佇む竜司祭は、自分の周りを見渡し……どうやら白いドラゴンスレイヤーが居ないことを知った。

「出来たら白いドラゴンスレイヤーとやらを殺しておこうかと思いましたが、御不在のようで」

「……ええ。彼女なら現在城を出ておりますが?」

「左様ですか。実に残念」

笑う竜司祭にメイド長が普段通りの受け応えをしてみせる。

突然のことで理解出来ない周りの騎士たちは、余りにも動じないメイド長の姿に尊敬の念すら抱く。

「なら今日の所はこれで引きましょう。彼女にはまだこれからも成長して頂けなければいけませんし」

クククと喉を鳴らして笑う彼はまた黒い闇へと姿を変える。

そしてフレアに纏わり付くようにその体を包み出し、咄嗟に手を伸ばそうとしたハーフレンの腕をメイド長が体を張って制した。

「邪魔を」

「自身の地位を忘れないでいただきたい」

「っ!」

強く叱責されハーフレンは伸ばす手から力を抜く。

ゆっくりとフレアの顔が彼を見た。

震える口が微かに動き、弱く言葉を紡ぎ出す。

「ハフ……」

「フレア?」

彼女の足元が闇に飲まれて消えていくのを見て、彼はもう一度手を伸ばした。

その手にフレアは視線だけを向ける。

「殺して。私を」

言葉を残し、フレアはその場から消えたのだった。

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