軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お仕事をしにお出かけします

「ミシュか。ようやく……ちょっと待て」

「何よ?」

入り口から入って来た珍獣に視線が固まった。

「どうしてそうなっているのか説明を求む。で、背後から変態が這い寄っているが?」

「もう来たか~!」

振り向きざまにミシュが背後に居る死なない害虫の顔面に蹴りを入れ続ける。そう入れ続けるのだ。

それを恍惚とした表情で食らうマツバさんって本当に偉大だと思うよ。悲鳴1つ上げないで凄いな~と思ったら猿ぐつわされていただけか。誰の仕事か知らないが完璧だな。

「で、ミシュ?」

「何さ?」

「何したの? どうしたら上半身をそんな縄でグルグルにされるの?」

「……実は」

お仕事で新領地に行ったら変態が追って来た。変態から新たに配達する手紙を受け取り、それ以降は変態との追いかけっこだ。負ければ強制的に大人の階段を昇れる仕様だったので全力で逃げた。結構頑張って逃げた。逃げて逃げて逃げ続けていたら……キシャーラさんたちの部下に掴まり強制送還する羽目になった。

「うん。損害賠償の請求は君の給金から天引きするから頑張れ」

「優しさが無さ過ぎるわっ!」

「諦めろ。責任を取るのが大人の務めだ」

そのうち新領地からミシュ宛に請求書の束が来そうだな。クレアに押し付けるか。

「で、ミシュよ」

「何さ?」

「君を待っていた人物が居てね。詳しく言うと君の背後に」

「ふぇ?」

振り向いたミシュの顔面を掴んで、馬鹿兄貴がそのまま回収して行く。

「待てぇ~っ! もげるっ! ミシュちゃんの頭がポロッと……笑えんぞこの糞王子がぁ~! らめぇ~! そんなに握ったらミシュの何かが、何かがいっぱい出ちゃうぅ~!」

卑猥な断末魔を上げてミシュが強制連行されて行った。

流石生粋の変態だ。どんな状況でも楽しむことを忘れない。

「で、マツバさん?」

「……」

ミシュを追って全身縄を巻かれた蓑虫状態のマツバさんを呼び止める。

その状態でも器用に尺取虫のように進んで行こうとする貴方も凄い変態です。

「実は少し真面目な話があるんですけど?」

「……」

真面目と言う部分で彼の表情が一気に整う。だけど蓑虫だ。

「ノイエ」

「はい」

「あの縄を斬ってあげて」

「はい」

スッと移動したノイエがマツバさんを立たせると、手刀一閃で縄を断った。

段々とやることが漫画チックになってますぞ? 愛しいお嫁さんや?

「……ふむ。してアルグスタ殿。真面目な話とは?」

「ええ。実は……モミジさん、どうにかなりません?」

「どうにかとは?」

全身の縄を解いて軽く肩を回す彼に、僕はそろそろ我慢の限界を告げることにした。

「好意を示してくれるのは嬉しいんですけど、ノイエ以外の人をお嫁さんにする気なんて微塵も無いんですよ。何より彼女との結婚式で『終生ノイエの身を愛し彼女以外の者は娶らない』と宣言してますしね。で……たぶんですけど、モミジさんのあの好意的な振る舞いって実家の威光か何かですか?」

「ふむ。カエデの差し金だな」

あっさりと認めたよ。まあそんな気はしてたんだけどね。

「モミジはカエデからいくつかの指示を受けているらしい。その一つに貴殿の誘惑もあるのだろう」

「迷惑なんで止めてください」

「ならば簡単だ。交渉すれば良い」

「交渉でどうにかなりますか?」

「それは貴殿次第であろう」

最もなご意見ですな。つか勝手に爆弾を押し付けられて交渉しろとか斬新なイジメだな。

「カエデとて頭の悪い妹では無い。もし貴殿との関係が悪くなるようであれば、再考する程度の知恵は回る。つまり自腹を切って優位に交渉を持ち掛ければ……貴殿の徳になる結果を生むかもしれんな」

「……」

普段ミシュの尻を追ってばかりだから評価低めだけど、マツバさんってこうして真面目にしてれば意外と優秀なんじゃないの?

「つまりその交渉の中に、マツバさんとミシュの結婚を全面的に協力するとかの文言を加えると」

「とても素晴らしい! そのような言葉が入るのであれば、このマツバ……全面的にアルグスタ様のお味方をすることを誓おうでは無いか!」

「って、私の居ない場所で勝手に部下を売るなぁ~! って、縄がぁ~!」

上半身に残っていた縄を引っ張られたらしく、ミシュが横移動しながら消えて行った。

今は良い。馬鹿は放置しておこう。

「ならカエデさんとの交渉に関する段取りをお願いしても?」

「うむ。我が愛しき君とのことにご助力得られるのであれば」

「それはもう……結婚式はユニバンス式でも構いませんか?」

「あ~っはは! やはり貴殿とは話が合うと思っていたのです!」

「こちらこそ!」

互いに固く握手を交わし、僕らの同盟関係が樹立した。

「……あの~? アルグスタ様?」

「ん? どうしたのイネル君?」

「はい。陛下のお傍使いの人からこのような手紙を……」

固い握手を交わす僕らを見て、引き気味のイネル君が恐る恐る廊下からそんな声をかけて来た。

ふむ。流石に陛下からの手紙をスルーする訳にはいかない。

「ならマツバさん。宜しくお願いします」

「任せたまえ」

軽い足取りで彼が部屋を出て行く。行き先は……ミシュの居る場所だろう。

「ほい。お手紙頂戴」

「あっはい」

急いで駆けて来たイネル君から手紙を受け取り中を読む。

これまた……苦肉の策を繰り出して来たな。

「ノイエ」

「はい」

ソファーに避難していたノイエがまた戻って来る。

軽く右腕の肘を曲げると、彼女が抱き付くように腕を絡めて来た。

「お仕事をしにお出かけします」

「はい」

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