軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

先に逝かせて貰う

幾年振りだろうか? このように砂塵に巻かれ命からがら走るなど。

昔は良くあった気がする。叔父と王位を争っていた頃などは常にだった。

戦場に出れば好機だとばかりに互いに刺客を送り合った。

そう思えば自分の人生とは常に誰かを殺そうとして成立するものであった。

「……王。我が王よ」

呼びかけの声にハッとし、ウイルモットはきつく手綱を握り直した。

久しぶりの騎乗と加齢による衰え……無茶な走りに体力の消耗が著しかったのだ。

走る騎士たち一行は4人。その内1人にウイルモットは化けていた。

「済まん。考え事をしていた」

「いいえ。どうか御無理をなさらず」

「いいや。そうも行くまい」

唇を噛み痛みで意識を取り戻し、ウイルモットは改めて前を向く。

馬車も護衛隊も囮にして捨てて来たのだ。

ここで気を緩め敵に打ち取られでもしたら、命を投げ出し残った者たちに顔向けが出来ない。

自分が立案した自分だけが生き残る最善の策を……彼らは胸を張って引き受けてくれたのだから。

(本当に儂の人生は、数多くの屍の上になっておる)

自虐的に笑い彼は真っすぐ前を向く。

相手が普通の敵ならこのまま逃げ切れるかもしれない。だが少しでも頭の良い者が居れば見抜かれる。

強引な力技でしかない策である都合仕方ない。

それでも追っ手が先回りできるのはごく少数。運が良ければ1人程度かも知れない。

しかしその1人が最も厄介である。一番最後を任されるだけの腕前と実力を持つ者だと言うことだ。

チラリとウイルモットは肩越しに騎士長を見た。

年少と言っても20代半ばを過ぎている。決して若くも無く経験も豊富だ。

このまま行けばシュニットの元で警護隊を率いる騎士隊長として働くことになるだろう。

信用の置ける者だ。腕も人格も。

このカルロが仮に負ける場合があるとすれば?

決まっている。そんなものは……人外の力を操る者だ。

目を細めウイルモットは前を睨みつけた。

綺麗な金髪を靡かせる黒い衣装の女性……老いてその目が狂ったのでなければ、幼少の頃から知っている人物に良く似ていた。

「押して通る! 決して止まるな!」

「「はっ」」

馬の腹を蹴ってカルロと部下2人が前に出る。

……黒い影が左右に走って1人の騎士の頭が転がり落ちた。

「生きて居る者は……声を上げよ」

口から血を溢れさせ、エーグルは地面に突き刺した剣を杖に立ち上がる。

反応は無い。仲間は皆、最後の賭けに出て成功し果てた。

巨人の登場で戦力差がひっくり返り、窮地に陥った警護隊は最終手段を用いた。

相打ちだ。

確実に敵の命を絶つ為なら自分の命を犠牲にする。

数の有利を失う前に仕掛けた攻撃は、成功したかのように思われた。

巨人が何故前線で恐れられたのかを……エーグルは飛びかかった部下たちと一緒に知った。

右腕を横に振るっただけで部下の2人が上下に別れた。自身も胸を抉られ血が止まらない。

簡単に3人の人間を制してみせた巨人は、どうにか立ち上がった騎士隊長を無視して……馬車へと向かう。

「死ね!」

馬車の内から扉が蹴破られ、ウイルモットの代わりに残った騎士が番えた弓で矢を放つ。

必殺の距離だ。そして放たれた矢は大男の胸に吸い込まれた。

「やった!」

「まだだ! 撃ち続けろ!」

声と共に血を飛ばし、エーグルが吠える。

慌てた部下が矢を掴み番えて放つも巨人は止まらない。

ゆっくりと振り上げられた両の戦斧が頭上高く掲げられ……そして振り下ろされた。

激しい破壊音が響き続け、中に居た騎士ごと馬車は残骸と化す。

圧倒的な力を目の当たりにし……エーグルは苦笑した。

「変わらんな巨人。お前は力を誇示して」

ゴブリアスの背後に回った彼は、最後の力を振り絞り両手で握った剣を掲げる。

「王子にこうして斬り殺されたはずだ」

相手の首に目掛けて剣を振り下ろしその頭を断つ。

驚くほどに軽い手応えを得ながらも……討たれた巨人の頭が地面を転がった。

「やったぞ……皆」

塊の血を吐きエーグルは地面に両膝を着く。

後は先行した王と部下たちの強運を信じるしかない。

何よりここで巨人を討ち取れたのは、後のことを考えれば最高の戦果のはずだ。

(この期に及んで武勲を求めるか)

根っからの武人だと自信を笑い、エーグルは視線を巨人へと向ける。

(そう言うことか)

動きを止めることなく自分の頭を探している巨人を見て、エーグルは息を吐いた。

相手はとうの昔に『人』を辞めていたらしい。

「申し訳ございません我が王」

(それに我が妻よ)

掴んだ頭を手にした巨人が振り返って来た。

化け物が化け物らしく……ノシノシと歩いて来る様子を見て、エーグルは目を閉じた。

「先に逝かせて貰う」

大きく振り上げられた巨人の拳が、エーグルの頭目掛けて振り落とされた。

グチャッグチャッと生々しい音と不快な臭いをまき散らし巨人はまた馬車に向かい歩き出す。

彼が命じられているのは『邪魔をする者の排除と馬車を中身ごと粉砕する』ことだ。

だから彼は自分の頭を首の上に置くと、その拳を振るい粉微塵になるまで馬車を殴り壊し続けた。

生きる者が誰1人として居ない中……打撃音だけが虚しく響き続けた。

(c) 2019 甲斐八雲