軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

巨人……

「これより我らは王都へと戻る。だが間違いなく敵の襲撃を受けるであろう」

前国王たるウイルモットの身辺警護を長く勤めて来た騎士隊長エーゲル・フォン・ロアーネは声を張り上げ部下たちを鼓舞する。命を賭して偉大なる先王が乗る馬車を護り切らなければいけない。

本来ならここで立て籠もり援軍を待ちたい所であるが、王弟領には常備軍などは置かれておらず民兵に近しい者たちが小型ドラゴンの警戒に当たる程度だ。

国民の保護を第一とするウイルモットはそんな彼らを巻き込むことを拒否した。

何より援軍を求め走らせた騎士を刈り取られ続ければ、こちらの戦力が減り一気に押し潰される。

ならば最大戦力で一気に敵の包囲を突き破り、近隣で戦力を保持する最も信頼の置ける領地……クロストパージュ領を目指すことが良策だと判断した。

敵とて馬鹿ではないだろう。こちらが動けば自ずとクロストパージュ領を目指すことぐらい分かるはずだ。

「全員馬車を護り死ぬ気で走れ!」

「「おうっ!」」

声を震わせ歴戦の騎士たちが吠える。

相手が未知である以上、机上の空論を重ねるだけ愚策だ。

ならば一瞬でも早く相手の包囲に僅かな遅れが生じることを信じ、ウイルモットは全力での突破を命じたのだ。

石を蹴散らし地面を抉り、軍馬と豪華な馬車が街道を進む。

警護する騎士たちは皆前だけを見つめ、口を真一文字に閉じていた。

無駄なことは決して話さない。集中し警戒し、ただクロストパージュ領を目指す。

「前方に倒木!」

先を進む騎士の声にエーグルは舌を打った。

やはり読まれ仕掛けられていた。

「全隊停止! ウイルモット様に騎乗して貰う!」

「「おうっ!」」

分かっている。敵がここで仕掛けて来ることなど。

だが……エーグルは口元で笑い隣に来た副官に目をやる。

「カルロ」

「はっ」

「数名を連れて先へ進め」

「はっ」

騎士長のカルロは一般の出であるが、剣の腕を買われ騎士長までに上り詰めた。

歴戦の雄が多い警護隊の中では年少組に属する将来有望な騎士だ。故に託す。

「そのまま進みクロストパージュ領に救援を求めよ」

「はっ」

多くは語らず若き騎士に託して先へと走らせる。

その背を……隣で随伴する騎士の背を見つめ、エーグルは胸の内で一礼した。

(見送ることが出来ず失礼を。我が王)

別れを済ませ騎士隊長は馬を降り、馬車へと駆け寄る。

「ウイルモット様。倒木での道封じにございます。これから先は馬にてお逃げ頂きたい」

「分かった」

返事を受けエーグルは馬車の扉を開こうとして、また閉じた。

飛んで来た矢が閉まった扉に当たり地面へと転がる。

「敵襲!」

エーグルの声に反応し騎士たちが馬から飛び降り馬車を囲う。

ウイルモットの一団を囲うようにユラユラと危なげに揺れる男たちが姿を現した。

「敵の数おおよそ30!」

「同数か! なら1人最低でも1人を打ち殺せ!」

「「おうっ!」」

剣を抜き構える騎士たちに襲撃してきた者たちが、獣のような咆哮を発し襲いかかる。

「何だこの力はっ!」

初撃で数名の騎士が吹き飛び何人かが命を絶たれる。

腕に自信のあるエーグルですら、相手の剣を受けた時に両腕がビリビリと痺れ剣を落としそうになったほどだ。

「様子が変だっ!」

誰かがそう声を上げ鎧ごと斬られ地面に伏す。

尋常ならざる力……エーグルはその正体に気づいた。

「狂化の薬かっ!」

声を上げて周りに伝える。

『狂化の薬』

その昔、ユニウ要塞で反乱を起こした者たちが作り売りさばいた薬のことだ。

現在では製造することを禁じられているが、使用することは禁じられていない。

使用する場合は1錠までと言う暗黙の了解があるが、目の前に居る者たちはとてもその決まりを護っているようには見えない。

「狂い死ぬまでの量を飲んでやって来たか……」

王の護衛である自分たちがそのような薬を使うことは無いが、エーグルは一部王国軍の兵士が好んで使っている事実を知っている。恐怖を忘れ戦場に立てるという有り難い側面があるからだ。

ただその後の燃え上がるような感情の起伏に問題がある。はけ口を求め娼館に駆け込み、多額の借金を作りだすほど女を求める例があるからだ。

「たかが薬を使った馬鹿共だ! 王の盾であり剣である我らの実力を正しく示せ!」

「「おうっ!」」

声を発し騎士たちは正確に確実に敵を対処していく。

力は強大だが、それを考え無しに振り回すだけの敵など落ち着きさえすれば対処する方法はある。

丁寧に味方と連携をし、当初の劣勢を挽回し敵を駆逐し始める。

「ここから根性を見せろ! 負ければこいつ等に掘られるぞっ!」

誰かが軽口を叩き剣を振るう。

余裕が出て気が緩んだ訳では無いのだろうが、やはり張りつめていた物が多少緩んでいた。

だからこそ、その認識が遅れた。

最初に気づいたのはエーグルだった。

ノシノシと歩いて来る存在……それを見て彼は息を飲んだ。

「馬鹿な……あれはユニウで死んだはずでは?」

左右の手に各々戦斧を持ち歩いて来る巨躯の男。

血走った眼と口からは血と涎を溢れさせ、迫りくる者の名をエーグルは口走った。

「巨人……ゴブリアス」

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