作品タイトル不明
空がとっても高いね~
ユニバンス王国内某所
「あれがクロストパージュ家の娘だったとはな」
「好都合だ。あれが計画通りやってくれれば、王家の懐刀と言われるクロストパージュ家の最大の汚点になるな」
「そうすればユニバンス王都は大混乱だ」
互いに向き合い男たちは笑い合う。
怨嗟の気持ちを込めた暗い暗い声を発しながら。
机に肘を突いて僕は視界に入るノイエの顔をジッと見つめる。
相変わらずの可愛らしさだ。結婚してまだ一年と経っていないが、ますます好きになって来ていてどうしてくれようか?
と、彼女は軽く首を傾げて微かに笑って来てくれる。
本当にどうしてくれようか? このまま連れ出して愛でたい。
「あ~。完全に手詰まりだわ」
現実逃避を終えて現実に帰還する。
フレアさんの捜索は完全に手詰まりだ。
王都内の徹底的な捜索は終えている。それで見つけられないと言うことは、手を出せない場所に居るかそもそも居ないかだ。
手を出せない場所は各国の大使館と上級貴族の邸宅だ。本命の帝国と共和国が静かだから諸外国の差し金とは思えなくなって来た。そうすると内部の犯行か。
現状ユニバンス王家と敵対する貴族は表立って居ない。筆頭だった僕の実家は一族皆殺しの目に遭っている。残っているのはそこまで馬鹿では無いと思いたい。
なら考えられるのは完全な第三勢力だ。外国の力も借りずに活動しているレジスタンスのような存在かな。厄介この上ないな。
パラパラと書類の束を適当に捲っていると、近衛に書類を届けに行ったミルが戻って来た。
強制休養から復帰してとりあえずうちで働いている。姉のパルはクレアの席でバリバリと仕事をしていてミルはイネル君の席を使っている。つまり本日はあのチビッ子夫婦がお休みだ。
「アルグスタ様」
「ん?」
「ハーフレン王子からです」
男装の少女……ミルが恐る恐る紙を差し出して来る。
受け取ると一目散に逃げだし、何故か姉を押し倒して姿を隠した。
馬鹿兄貴の所に行って欲情でもしたのか?
「……殺す!」
手にした紙を見たら殺意だけが込み上がって来た。
『ノイエって傍から見ると馬鹿っぽく見えないか?』だと? どうやらあの馬鹿兄貴は今日を命日にしたいらしいな。普段のノイエのあのボ~っとした姿の良さが分からんとはただの屑だ。
何事も自然体で受け入れられる彼女のあの姿こそ、まさに自然そのものだ。
つまり自然美! 美しいと言うことに他ならない!
あの馬鹿野郎をどう始末してくれようかと考えつつも紙の内容を確認する。
進展はない。馬鹿兄貴も僕と似たようなことを考えている。そうなると勝手に貴族の邸宅などを調べるしかないんだけど……と、最後の一文が気になった。
『ミシュはまだか?』
そう言われると、温泉から戻って来てあの馬鹿を見てない気がするな。
ユニバンス北西部、新領地内街道
「空がとっても高いね~」
荷台に転がる小柄な少女に……周りの者たちは何とも言えない視線を向ける。
その隣で転がって居る男性に至っては、全身を縄で拘束されて猿ぐつわまで噛まされている。それでも這いより少女を襲おうとしているのはある意味で凄い。
ゲシゲシと変態の顔に蹴りを入れながら少女……ミシュは久しぶりの快晴の空を見上げた。
「あ~。このまま消毒されたい。出来たらそこの変態を焼き殺して欲しい」
「お兄様。妹として、とても恥ずかしいです……」
グスグスと鳴き声がしてミシュは視線を向けた。
荷台の隅で膝を抱くように座る少女。他国から上司が預かっている同僚のモミジだ。
だが勝手に王都を出て良いはずでない彼女が新領地に居る理由が分からない。
『ハズレかな~』と思いつつも、ミシュは意を決して質問した。
「もみじんは何でここに居るの?」
「はい?」
「いや~。確かに冬期は暇だから結構みんな好き勝手やってるけどさ……流石に他国の人が王都を出るのは問題あると思うのよね。そこんところどうなの?」
「……問題ですよね?」
奇行を晒す兄の様子を嘆く涙とは違い、かなりヤバそうな事態を察してモミジが泣き出した。
「実は温泉から帰って来てしばらく寮で休んでたんです。でも温泉でノイエ様とトリスシア様に負け続けで……サツキ家の人間としてこれはダメだと思って、それでトリスシア様の所へ出向いて特訓のご助力を願い出たんです」
「ふんふん」
今のところ間違いはない。むしろ真面目過ぎて、怠惰な冬期を過ごしているミシュの方が辛い。
「何日かしてやっぱり勝てず……ちょっと人生について考えだしていたら、『泣いたって強くなれないんだよ。今日からちょっと環境を変えてやるよ』とあの人が言い出して……縛られて袋に入れられて気づいたら王都を出ていたんです」
「完全な拉致監禁だ~ね」
納得したが、問題が大問題になった気がする。
「何度も逃げ帰ろうとしたのですが、わたしはその……周りの人が言うには方向感覚に難があるとかで。わたしは決してそんな気はしないのですが、もしこれで帰るのが遅くなったりしたらまた問題になるかと。だから仕方なくこの輸送部隊に従っていたんです」
「分かった気がする~」
「わたしは悪く無いですよね? 出来たらアルグスタ様にそう口添えして貰えれば!」
藁にもすがる気持ちでモミジはミシュに詰め寄る。
だがミシュとて現状彼女の手助けを出来る身分ではない。
上半身を縄で巻かれ、首にも縄を括りつけられ……もし逃げようとすれば縄が首に締まる仕掛けになっている。
「諦めて一緒に叱られようか?」
「そんな~」
グスグス泣き出すモミジはまあ被害者だから情状酌量の余地がある。
自分も被害者のはずだが、あの上司がそんな言葉を信じてくれるとは思えない。
変態の追撃から逃れるために全力で逃げ回って居たら、行く先々の街で問題を起こす結果となり……遂には寝込みを襲われ変態共々捕縛されてしまったのだ。
「あのオーガの力って、本当にズルいと思うわ」
「ですね」
犯罪者2人は前行く馬車の荷台で寝ている大女に対して愚痴を吐いていた。
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