軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

彼は私だけの物

気づいてから何日が経ったのだろうか?

閉じ込められた部屋には明り取りの窓も無く、あるのは壁の凹みに存在している小さな炎だけだ。

ドラゴン油を使っていてもこんなに長く燃え続ける訳が無い。きっと別の場所から油を足しているのだろう。

食事は定期的にドアの下からパンと水だけが差し出される。粗末な食事だが今の彼女には気にならない。食べる気など無いから何が出て来ても見向きもしない。

むしろこんな生活で体調を崩したのか、吐き気ばかりが込み上がって食欲など湧かない。

排泄などは部屋の端にある穴に済ませる形だが、食べ物も飲み物を得ていない今の状況ならそんな頻度も高くなく苦にもならない。

貴族の令嬢としてはダメなのだろうが、全く気にならないのだから仕方ない。

壁に寄りかかり、ただただ命が尽きるのを待つ……そのはずだった。

「ククク。諦めが良いと言うか自棄と言いましょうか……良いですね。実に良い」

「?」

声に目を向ければ共同墓地で出会った異形な男が居た。

閉じられたままの扉が開閉した気配は無い。魔法以上の何かを使う存在に歯向かうなど無意味だ。

力無き視線を相手に向け女性……フレアは乾き貼り付く唇をゆっくりと動かす。

パリッと唇が割れ痛みが走ったが気にせずにだ。

「もう……殺して」

「ククク。ア~ッハハ! 良いですよ。本当に良い。何て理想的な苗床でしょうか!」

歓喜に身を震わせ竜人が吠えるように笑う。牙のような犬歯を剥き出しにしてだ。

「貴女は死ねません。殺しもしません。そのまま我が皇の先兵を生み出すのです!」

「……」

相手が何を言っているのか分からない。力無き視線でフレアは相手を見つめる。

「悩んでいますか? 戸惑っていますか? 分かります……分かりますとも! 私も最初はそうでした! 脆く下等な人間であった頃は私も皇の言葉を、その偉大な意志を理解出来ずに貴女のように悩み苦しみましたとも!」

饒舌に謳う相手の言葉は止まらない。

「我々は大陸の北で細々と暮らす者たちでした。国と呼ぶには小さすぎる集落で、肩を寄せ合い僅かな食料を皆で分け合い慎ましく生きていたのです。

何故そんなことが出来たか分かりますか? 我々は『神』を信じていたからです! この大陸では決して受け入れられない存在、それが神なのです! だが我々は信じそして祈り続けた!」

悦に浸り両目から滂沱の如く涙を溢れさせ、男は祈るように手を組み天井を見る。

「我々の願いは通じた。11年前……遂に我らが神である『皇』が参られたのです。

偉大なる皇は我々にその力の一端を与えてくれた。それがこの力です! この身にドラゴンの力を宿すことで、我々はどんな環境下でも生きられるようになった。強大な力を得られた。強靭な肉体を得られた! その全てが神である皇の為の物なのです!」

また笑い……そして狂気に歪む目をフレアへと向ける。

「貴女には我々の仲間になる十分な素質があります。その胸に宿る何と禍々しくて上質な闇。

どれほどの年月をかけてそれ程の闇を育てたのか……普通の人なら発狂するであろうそれを宿す貴女は素晴らしい!」

ヅカヅカと歩いて来て、体力の消耗で気を失いかけているフレアの髪を掴みその目を覗き込む。

ブチブチと髪が抜かれ痛みが走ったお蔭でフレアは意識を取り戻した。

「皇の元へ連れて行かなければ貴女を竜人にすることは出来ない。ですがそれ程の闇と私に宿るドラゴンの力があれば貴女を貴女に相応しい姿へ変えられることでしょう」

「いや……やめて……」

両手で頭を掴まれ指で無理やり目を開かれる。

フレアは僅かに残る力で抵抗するが、ドラゴンを宿すと言う相手には無力でしかない。

「大丈夫ですよ。私も最初は必死に抵抗しました。ですが我らの皇は味方に優しくそして平等です」

「あっ……ああっ」

覗き込んで来る相手の目にフレアは暗く静かに燃える恐ろしい気配を見た。強いて言えば愛して止まない彼が時折見せる物に似ている。

だが今見ているのは純粋な恐怖と、そして絶望だ。

「自分が必死に抑え込んでいるその胸の闇に耳を傾けなさい。聞こえるでしょう? 本当の貴女の叫び声が? 耳を逸らさずに聞くのです。

そうすれば貴女は解放される。我が皇が傍に侍るのに相応しい存在へと変われる」

「いやっ……ちがう……わたしは」

ドクドクと胸の中で何かが脈打ち、フレアは確かにその声を聴いた。

叫ぶかのように響いてくる声は、彼女がずっと押し潰し封じて来た本心だ。

グッと押し込むように竜人が顔を寄せ目を見て来る。フレアはその目から視線を外せなくなっていた。

「解放なさい。今の貴女は自分を偽るだけの矮小な存在です。本当の力を解放すれば……きっと何でも手に入れられることでしょう」

「……手に入れられる?」

「ええ。ええ」

「ほんとうに?」

「出来ますとも。ああっ……何と極上で素晴らしい闇なのでしょう。この"暗竜"と呼ばれる私が見惚れてしまうほどに美しい」

フレアから離れ、竜人はまた胸の前で手を組み天井を見る。

「ご覧いただけましたか我が皇よ! この暗竜……我らが宿敵が居るこの地で強力な仲間を得ました!」

感極まり声を上げる彼など気にせず、解放されたフレアは俯き言葉を発し続ける。

まるで魔法語を綴っているかのように呟かれる言葉は一定で澱みが無い。

「ハーフレンを手に入れる。誰にも渡さない。彼は私だけの物。ハーフレンを……」

呟き続けたフレアはその顔に笑みを浮かべ笑い出した。

黒く染まった闇のような瞳の色をその目に宿しながら。

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