軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暴走しなけりゃいいんだけど

「なんかあったの?」

良く分からないが、登城したら慌ただしく走り回る近衛所属の騎士さんたち。それに釣られてメイドさんたちも慌ただしく走っている。

僕の腕に抱き付いているノイエが『走る?』と言いたげな視線を向けて来るが、こんな時こそ落ち着いている大人の風格を漂わせたいのです。

そんな訳で通行の邪魔にならないように通路の端を歩いて執務室へと向かう。

僕の執務室にはお子様夫婦とチビ姫が居た。

周りの慌ただしさに行き場を失った感じで……この部屋はいつから避難所になったんだ?

「おはよう~」

「「おはようございます」」

「です~」

若干一名ほど挨拶がなってないぞ?

とりあえず挨拶をちゃんとしないお馬鹿なチビ姫の頭に両の拳で挟んでグリグリの刑に処す。

「で、何があったの?」

「良く分からないんです」

「何それ?」

「朝から近衛の人たちが走り回ってて……何でもハーフレン様から緊急の指示が出たとかで」

「ふむ。あの馬鹿何かしでかしたな」

イネル君の言葉から、馬鹿が馬鹿してフレアさんを激おこさせた気がする。

最悪だな。たぶん色んな意味で悪い予感しかしない。チビ姫が居るってことは今日も居るかな?

パンパンと手を叩くと隠し扉が開いてメイド長が姿を現した。

僕にグリグリを食らってノイエに甘えていたチビ姫が、顔面蒼白になって逃げだそうとするが……ノイエが彼女のドレスを掴んで放さない。逃げられなかったチビ姫をメイド長が回収するまでが一連の動きで、そこから何かしらの打撃音が響いてチビ姫が静かになった。

「おはようございますアルグスタ様」

「はい。おはようございます。それで何があったの?」

「ええ……先日問題が発生しまして」

主語の無い質問でもちゃんと返事が戻って来る。

打てば響くとはこのことか。流石メイド長です。

「フレア・フォン・クロストパージュ様が訪れたはずの共同墓地にて、彼女を追尾していた密偵たちが皆殺しにされてその遺体がうち捨てられていました」

「……はい?」

何だろう。この耳から入って来た言葉が脳に届かない感じは。

えっと……えっ? アカン。やっぱり分からん。

「フレアさんがやったの?」

「現在調査中ですが、御当人が荷物を残し行方不明となっているので分かりません。

ハーフレン王子は『事故』として調査を命じましたが、そのことを聞いた大臣たちは『事件』として調査を命じています。何せ上級貴族クロストパージュ家の汚点になり得ることなので」

「……」

淡々と告げて来るメイド長の言葉に間違いはない。

確かに詳しいことは全く分からないけど、現場の状況からだと最悪だ。

「クレアっ!」

イネル君の悲鳴に視線を向けると、顔を蒼くしたクレアがソファーから滑り落ちていた。

流石に妹に聞かせるべき話では無かったが……彼女ももう大人だ。これからはこんな辛い現実を見聞きする。だから今はスルーだ。

「メイド長。クレアをお願い」

「はい」

「イネル君」

「えっあっはい?」

「ちゃんとしろ!」

ビシッと怒鳴って相手の目を覚まさせる。

すかさずメイド長がクレアを抱きかかえてソファーに寝かしつけた。チビ姫が床の上に投げ捨てられているのは見なかったことにしよう。

「大至急フレアさんの勤務実績と彼女が書いた日報を半年分ぐらいは出しておいて」

「えっあっ?」

「近衛とてこうなったら立場上監査に入らざるを得ない。彼女の所属はここだ」

指で床を指して相手に伝える。

フレアさんの所属は対ドラゴン遊撃隊であるうちだ。大臣たちはここぞとばかりにうちの内情を漁ろうと動き出すはずだ。

ようやく理解したイネル君が棚に向かい資料を引っ張り出す。

うちの唯一の長所は、資料の類を徹底的に整理して保管している所だ。半年分なんて10分とかからず全ての書類を準備できる。

「最悪『一年分を見せろ』とか言い出しかねないから、出せるようにしておいて」

「はい」

「メイド長。そっちが終わったらそこのフレアさんの机の中身を全て出しちゃって」

「畏まりました」

クレアの介抱をノイエに任せ、メイド長がフレアさんの机を文字通り引っ繰り返して行く。

ノイエさん。出来たらおしぼりは濡らした物を……乾いた雑巾を顔に掛けるのはどうかな? ってメイド長? そんな際どい下着は見えるように置いておかなくて良いと思うよ。うん。

自由人たちが自由に仕事をする中で、僕は一応自分の机の中の見られるとヤバい物を纏めて隠し扉の向こうへと押し込んでおく。最悪ケーキで買収して、チビ姫に持たせて逃げさせれば問題にはなるが手出しは出来ない。

準備万端整ったところで、開かれたままの扉がノックされた。

「ほいな?」

「失礼しますアルグスタ様」

一礼して入って来たのは馬鹿兄貴の副官であるコンスーロのオッサンだっだ。

「実は貴方様の部下である騎士フレアに、殺人と逃亡の容疑が掛かりまして」

「ん。何と無く聞いてるから彼女に関する資料の半年分とこの部屋に在る彼女の私物はそこに並べてあるよ。必要なら一年分の資料を提出できるけど……それ以上の監査はしないよね?」

いつも通り椅子に座って、僕は平然とそう言い放つ。

コンスーロのオッサンがこっちに向かい口元に笑みを浮かべるが、彼の後ろに居る騎士たちが渋い表情を見せた。たぶん僕に色々とやられている貴族の息のかかった人たちだろう。

そんな人たちに好き勝手やらせるほど、うちの守りは甘くないのです。

イネル君に指示を出して半年分の資料を相手に押し付け、私物の方も調べさせる。ついでにフレアさんが使っていた机をメイド長が分解していたので隅々まで確認して貰う。

結果として、ここ最近の報告書だけを抱えて彼らは部屋を出て行った。

難癖付けて来なかったのは……ちょこんと座っている王妃と言う地位を持つチビ姫の存在が大きかったかな? 後でケーキでも食わせるか。

「とりあえずそこの広がっている残骸……片付けようか」

メイド長とイネル君が床に広がっている物を手早く掃除していく。

僕も手伝おうとしたんだけど、メイド長が視線で『そのままで』と言った気がしたから座っておく。

何だろう……こんな時だけ意外と冷静に対処できる僕って思っていたよりも肝っ玉が太いのかな? 元の世界(むかし) の僕だったらオロオロしててこんな風に対処できなかった気がするんだけどね。

それよりも問題は、あの馬鹿兄貴が暴走しなけりゃいいんだけど。

(c) 2019 甲斐八雲