軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ノイエの財布

「新年の挨拶に出向いて来た様子には……見えんな」

「お決まりの文言を何度も並べて挨拶するのは正直しんどいので。代わりに山のようにワインを送ったはずですが?」

「医者に止められていてな。全てトリスシアが飲み尽くしたわ」

杖を突いて歩いて来た元ブロイドワン帝国大将軍であるキシャーラと軽い皮肉の打ち合いを始める。

基本向こうもこっちも遠慮のない性格なので、敬語で会話するよりかこっちの方が気楽で良い。何よりこっちも向こうも格式ばった挨拶とかが嫌いという共通点がある。

初めて会った時よりも一回り小さく見えるのは、帝都からの脱出で無理をしたせいで傷を悪くし、その治療でだいぶベッドでの生活を強いられたせいだ。

「痩せて身軽になったみたいで」

「皮肉を言うな。これでも最近は少し体力が戻って来た」

うちの馬鹿兄貴と互角に戦えるというオッサンだ。完全復帰したら始末に負えんな。

頑張れ帝国。ユニバンスを攻めるのは中々骨が折れる状況になったぞ?

ソファーに腰かけた相手に勧められ僕も向き合うように腰を下ろす。

「して今日は何か用か?」

「はい。ちょこっと悪だくみをしたいので部下を貸して下さい」

「……もう少し言葉を選んだらどうだ? アルグスタ殿よ」

歴戦の雄たる彼を苦笑させた。この雄姿をノイエに見せられないのが痛い。

つか僕ってこんな風に頑張ってる時って1人のパターンが多い気がする。つまりノイエに格好良い僕を見せたら好感度が鰻登り? 無いな。ノイエだし……そこが可愛いんだけど。

「下手に腹の探り合いとか面倒臭いんで。だったら包み隠さず言った方が楽でしょう?」

「嫌いでは無いが、立場的には問題だらけの発言だな。俺がシュニット王に告げ口したらどうなる?」

「国に害成す悪だくみをここに持って来ないですよ」

肩を竦めて『何をおっしゃる』とジェスチャーで告げる。

「なら国に害をなさない悪だくみだと?」

「はい」

ユニバンス王国に迷惑をかける類のお願いじゃない。

ただ2人の兄にしていることが気づかれると何かしら勘繰られそうだけどね。

数度頷いたキシャーラがこっちに目を向けて来る。

「何がしたい?」

「ある場所に行って、とある姉と弟を口説いて来て欲しいんです。王都に呼び寄せて自分の店を任せたいので」

「……俺の部下を使う理由が分からんな」

ですよね~。

「その2人は、11年前のとある事件で通行人を殺害した殺人鬼の家族なんです」

「とある事件か……帝国では『最悪な1日』と呼んでいたな」

「我が国では『あの日』と言うことが多いですね。前王は子供の犯罪に心を痛めていて沈静化を推し進めましたので」

「そうか」

苦笑しキシャーラが息を吐く。

あの事件はユニバンス近郊の国々でも発生している。

前に共和国の魔女が来た時にも同じことを言っていた。

「帝国ではどのような感じで?」

「どこも同じであろう? 一定の年齢の子供たちが狂気に駆られて暴れた。そして捕まえて処刑した」

「同じですね」

何が原因であれ、結果として殺人を犯してしまったのだからその処置は仕方ない。

そう考えるとたぶん原因であろうグローディアの罪は計り知れない。

あの人……何したんだろうね? 召喚か。本当に魔王とか呼んでない?

「その件と今回のそれにどう繋がる?」

「ええ。その被害者の方は国が少なからず金銭を支払い最低の保証をしました。ですが加害者の家族には何もしていないんですよ。それを知ったら……何かしてあげたくなりましてね。ただの偽善です」

「そうか。偽善か」

「はい」

偽善って便利な言葉だな。確かにこれなら『偽善』で押し通せるはずだ。

「ただ問題は所在が判明している家族はその2人だけで。あとの者は消えたか逃れたかあるいは」

「やり場のない被害者家族の怒りのはけ口にか……考えられるな」

腐っても大将軍を務めていた人物なだけに理解が早くて助かります。

「帝国では復讐を望む被害者家族に処刑の手伝いをさせたと聞く。血で血を拭う愚かな行為だが……兄はそのような蛮行を好むのでな」

「お互い個性的な兄に悩まされてるんですね」

「身内ほど厄介な相手はおらん」

兄弟あるあるで親近感が湧いたよ。

兄と言う物は弟を部下のように使うから困るのである。弟だって仕事があって家庭があって大変なのだ。自分の仕事は自分でやれと言いたい。

「まあ愚痴を言い合っても仕方ない」

「ですね」

「だがアルグスタ殿」

「はい?」

ニヤリと笑って大将軍が口を開く。

「断ろう。手を貸してこっちに理が無い」

ですよね~!

「はいはい。分かってますよ。こっちとらユニバンス有数の金持ち一族だ。言いたいことは分かるかキシャーラ殿?」

「金で解決か……悪くは無いが、俺の部下は値が張るぞ?」

「愚問だな。僕は完璧な仕事をしてくれるなら、金に糸目をつけないで有名な道楽当主とか陰で言われている存在だ。甘く見るなよ」

本当に言われているから正直辛いけどね。

おかしいな……ただお菓子屋さんを買い取って、新作ケーキやお菓子をどんどん作らせているだけじゃないか。どこが道楽なのか聞きたい。お店に来る人たちはみんな笑顔だよ?

「なら成功報酬でこちらの言い値で支払いに応じると?」

「と、口約束してから後でとんでもない金額を請求されると困るので、ここで支払う金額を決めましょうか? もちろん諸経費も込みで。失敗した場合は諸経費のみ支払います」

武ではなく交渉で……しばらく大将軍としのぎを削りあって支払う金額が決まった。

ホリーお姉ちゃん。僕ってば結構頑張ってますよ?

一番頑張っているのはノイエの財布だけど。

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