軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

自重が無くなってませんか?

「……」

何となくため息をついてフレアは、爪先を前では無く横に向けてターンすると、来た道を戻り始めた。

今日は……今日こそは王都の郊外にある魔法学院を遠めから眺めるはずだったのに。

一歩進むごとに気力を折られ、今日もまた挫折した。

妹や知り合いに気をつけながら王都の通りをゆっくりと歩く。

こんな風に歩くのはいつ以来か?

子供の頃は……たぶんいつも馬車で移動していたはずだ。あの頃はまだこんなにも治安は良く無かった。

成長し騎士になってら仕事が忙しく自由の時間は無かった。

「隊長の……」

思い出し苦笑する。

毎朝頭を少し斜めに傾けてやって来る少女の様子が気になり、どうにか会話を繋げた結果……ベッドが合わないと判明した。仕事終わりに2人でこんな風に歩き買いに行ったのだ。

手作りの最高級品を現金払いで買ったのはかなり驚いたが。

それ以降も結局仕事が忙しくてのんびりする時間も無かった。

「違う。偽るのが忙しかっただけだ」

また苦笑してフレアは頭を振った。

彼に嫌われるために出来ることは何でもしたはずだった。

相手に嫌われるようにいつも厳しい口調と視線で接し、少しでもやる気がない様子を見せれば叱った。

アーネスには謝罪することしか出来ないが、王城の資料室の奥にある隠し部屋に行って色んな書物を漁り知識だけは無駄に身に付け、わざと色々なことを実験してはあっちこっちで話て噂を広めたりもした。

本当に馬鹿で最低なことばかりした。

死んで詫びろと言われればそうするべき行いばかりだ。

「……そして最後は我慢出来ずに逃げ出すんだ。本当に最低よね」

我慢出来るとずっと思いこんでいた。

自分ではその地位に似つかわしくないと理解していたから。

だが自分も名前ぐらいしか知らない女性が彼の正室となって……心が悲鳴を上げて軋んだ。

もう限界だった。これ以上は耐えられない。

だから逃げるのだ。

現実からも……何より彼から。

「ん~」

「……」

今日の分の仕事はもう終えているので、のんびりと背伸びをする。こっちを覗き込んでいるクレアが何か言いたそうな顔をして……やっぱり止めていた。

もう一歩踏み込んで来たらカウンターで終わった仕事を押し付けてやったのに。

とりあえず仕事はどうでも良い。問題は……今は、フレアさんよりホリーの家族だ。

少なくてもフレアさんはまだ王都に居る。多分馬鹿兄貴なら何処に居るのか知ってるかもしれない。

何よりノイエ小隊の事務の責任者をルッテに変更したから、ぶっちゃけ王都から居なくならなければ問題は無い。

だがホリーの家族はここに居ない。王弟様が住んでいる領地に居る。

確実に確保するならこっちから出向くしかないが、僕は王弟様の一族をあれしてしまったルーセフルトの血筋だ。『はっじめまして~』とかフレンドリーな挨拶をしながら行ける場所でもない。

だったら代役か。

ホリー関係だから馬鹿兄貴にはこっちの懐を探られたくない。

王弟様の奥さんであるメイド長に頼むのも……やはり面白くないかな。

つまり交渉が出来て秘密裏に動ける人材を求む。そんな人材居る訳が、

「居た」

「はい?」

「ちょっと出かけて来るから留守宜しく」

「ってアルグスタ様? ノイエ様は?」

クレアの言葉に駆けだそうとしていた足を止める。

まだ大丈夫なはずだ。鎧の微調整はそう終わらないと言っていた。

つか意地でも数字を覗かせてくれないノイエと言うか先生が悪い。責任は全て先生に!

「戻って来たら座らせてケーキでも食べさせておいて。お城の敷地内には居るからさ」

「分かりました」

早速クレアがメニュー表を取り出し……ボコッと壁の隠し扉を開いてチビ姫まで来た。

コラコラ君たち? 最近自重が無くなってませんか?

「1人1個までだからね」

「……1個ですか?」

「です~?」

ウルッと瞳を潤ませて2人の少女がこっちを見て来る。

「人妻2人に見つめられたぐらいで甘やかすとでも思ったか?」

「ぶ~です~」

拗ねるチビ姫とは対照的にクレアは笑う。

何故だ? 何故ここで笑えるのだ?

「ならノイエ様も1個で良いんですよね?」

「何を言うか? ノイエは2つで1個です」

「ならわたしもノイエ様と同じ物を注文します」

「ですです~」

人妻になって強かになったなクレアよ。

成長したのだからそのことに対して文句を言うのはお門違いだな。

「分かった。ならノイエの分を含んで頼みなさい」

「はい」

「です~」

うむ。いつまでも子供では無いと言うことか。

まああの2人は一応人妻だしな。夫婦の営みをしている分、クレアは完全に人妻だな。

チビ姫はどうなんだろう? まだ10歳ぐらいにしか見えない外見が大問題だよな。クレアですら少しは成長して中学生の高学年ぐらいなら言い張れそうなくらいにはなったのに。

そんな風に思考を脱線させつつも僕が向かう先は迎賓館だ。

その場所にはユニバンスに亡命して来た元大将軍がまだお暮しになられている。

厳密に言えばまだ今後のことを色々と話し合っている最中なのだ。

で、その場所に来た理由は簡単だ。

脳筋な大将軍にはうちの馬鹿兄貴が両手放しで褒め称える部下が居るらしい。

つまり僕の得意な手になりつつある交渉でその部下をお借り出来れば……どうにかなるはずだ。

(c) 2019 甲斐八雲