軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

陛下にはそう報告する

ユニウ要塞は最初から存在して居なかったかのように綺麗に消え失せた。

残っているのは焼き焦げた要塞に使われていた石や何かしらの灰のみだ。その灰とて風が吹く度に散って消えていく。

辺りの様子を見つめ……ハーフレンは何とも言えない気持ちになった。

敵対したとは言え1,000人ほどの国民がその場所に居たのだ。

「帰還する!」

「撤収!」

大将軍の号令に上官たちが呼応し、兵たちを誘うように腕を振るう。

『何か言わないの?』と見て来る小柄な馬鹿に肩を竦め、ハーフレンは軽い気持ちで声を出した。

「帰るぞ~」

「もう少しやる気を出せよ糞王子っ!」

「知るか」

嫌々な感じで動き出したハーフレンを追って部下たちが歩き出す。

だが唯一主の心中を察していたコンスーロだけは何も言わずに居た。

主は本当は帰りたくなどないのだ。違う。会いたくないのだろうと察していた。

自分が最も愛している人物を拒絶する……それがどれ程辛いことかを、人を愛したことの無い彼には分からない。

『無駄に齢だけ重ねてしまったな』

内心で呟き、彼は少しぐらい自身の結婚を考え……顔を左右に振った。

反乱軍を討伐しに行った遠征軍が無傷で帰還し、王都ではちょっとした催しが開かれた。

先の戦争から暗い雰囲気続きであることを憂いだ国王からの指示だ。

酒と食事が振るわれ、酔った者たちが歌い踊る。

少しでも国民に笑顔を……その考えは決して悪い物では無い。

参加する人たちもその気持ちを汲んで大いにその日を楽しんだ。

しかし現実は厳しい。

この後、ユニバンス王国は右肩上がりに増えるドラゴンと言う存在に悩まされて行くこととなる。

ユニウ要塞の出来事など直ぐに忘れ去ってしまうほどに。

争いが決すれば生じる物がある。勝者と敗者だ。

敗軍に属していた者たちはその全てを失うこととなる。

領地ある者は領地を、家族ある者は家族を、何も無い者は命すらも……色々なモノが切り取られ分けられるのだ。

「嫌になるな」

手にしていた紙を机の上に戻し、ハーフレンは頭を掻く。

王都に戻り彼を待っていたのは……賛辞と報奨だった。

明確な手柄が生じなかった争いで、唯一の武勲を上げたのは第二王子である彼だ。

ユニウ要塞の正門警備をしていた巨人ゴブリアスを一騎打ちの末に討ち取った。

全てを無かったこととした今回の争いで、救いを求めるように彼の手柄だけが浮き彫りとなる。

お陰で勝手をした息子を叱る訳にもいかなくなった国王は、常に怒りで眉をピクピクとさせながら、息子の手柄を褒め称えると言う拷問を受ける羽目になったのだ。

その後で呼び出され、ハーフレンはこっぴどく叱られたが。

「手回しが良すぎるだろう?」

「国王陛下は此度の反乱は早期解決が成されると確信がございました。故のこれでしょう」

コンスーロの言葉にハーフレンは肩を竦める。

紙には敵対していた貴族から没収した領地、資産などが書かれている。

中には年頃の娘まで書かれているのだ。

負ければ人ですら褒賞の一つとされる。そう考えれば恐ろしくもあり罪深くもある。

「土地は貰えんよな」

「はい。王家の者は古来より最前線の地を領地にする決まりがあります」

事実ハーフレンも国の北東部に領地を持っているが、最前線であり山だらけで人など住んでも居ない。領主館など存在していることは知っているが出向いたことも無い。

「金銀財宝もな……得ると色々と面倒臭いしな」

「多少でしたら問題はございませんが?」

「税金やらで煩いだろう? それにここに手を出すと兄貴から小言を言われる」

「……今回の戦費の問題ですか」

「そう言うことだ」

兵を動かさば、それなりに金が動く。

国の財政が決して裕福では無いユニバンスからすれば一番痛い所でもある。

たぶん父親や兄は今回の報奨を領地で済ませ、得た資産は全て国庫に納めたいはずなのだ。

「そうなるとこれか」

「……」

年頃の女性の名前が書かれた紙を手に、ピラピラと彼は振るう。

一度目を閉じて……コンスーロは覚悟を決めた。

「フレア様が何と言うか」

「気にするな」

「ですが」

「良いんだ。むしろ丁度良いな」

今一度紙を見つめてハーフレンはそうすることとする。

敵対してしまったが故に父親を失った貴族の娘が5人。

今頃自分たちの行く末を哀れんで泣いているのか、それとも気丈に振る舞っているのかは分からない。

だが……少なくとも『幸せ』などとは無縁になったと思っているだろう。

「この娘らを今回の褒美で貰い受ける」

「……」

「不満か?」

「はい」

「遠慮が無いな」

苦笑してハーフレンはガリガリと頭を掻いた。

分かっている。ここまでする必要など無いことぐらい。

でも弱い自分を追い込むことで、彼は自分を振るえ立たせることを選んだのだ。

「決定だ。陛下にはそう報告する」

「……分かりました」

それを聞いたフレアは、自分が立っている足元の床が抜けたのかと思った。

メイドから『ハーフレン様が大変なご活躍をされたそうですよ』と聞いた時は天にも昇るほど嬉しかっただけにその反動は酷かった。

戦場に赴いた彼は、残務処理で城に留まってばかりで屋敷にも戻っていない。

結局会えずじまいで……と思っていた所でその言葉だった。

『褒賞として5人もの妾を頂いたとか。フレア様も正室として確りなさいませんと行けないですね』と、メイドは本当に世間話をする感じで告げて来たのだ。

誰よりも彼を愛し、何より自分だけを愛してくれていると思っていた相手が"選んだ"褒賞に……フレアは自身の心が軋むのを感じた。

やはり自分ではもう彼には相応しくないのだと、そう告げられた気がしたのだ。

(c) 2019 甲斐八雲