作品タイトル不明
最初から本気を出してたら負けないんだよ
数度打ち合いゴブリアスは相手の力量に舌を巻く。ここまで強い人間を彼は知らない。
どんな戦場でも自分以上の存在など居なかったのに……目の前に居るのだ。
沸き上がる歓喜に胸と心と体が踊る。
笑いながらも左右の戦斧を振って全力で殺そうとするが、相手は肉厚の大剣で全てを受け止める。
このままでは難しい。
大振りをして相手との距離を広げる。
と、汗を拭う形で手首に仕込んである錠剤を口にする。
今日は最初から2個だ。目の前の相手を甘く見ていれば自分が殺される。
王子もまた汗を拭い剣を構える。
錠剤を飲み下したゴブリアスは、自分の胃に火が灯るのを感じていた。
前回も最終的に2錠飲むことで相手を圧倒した。今回は最初から相手を圧倒出来るはずだ。
ドクドクと体が脈打つごとに力が湧いて来る。
ゴブリアスは絶対の勝利を確信して、手にしている戦斧を振りかぶり……振り下ろした。
だが相手は必殺の一撃を受け止める。
恐ろしく硬い肉厚の大剣にも驚いたが、それを支える王子にも驚く。
確かに恵まれた体格をしているが、自分よりも一回り以上は小さいのだ。
「薬を使っても……これくらいか?」
「何を?」
不敵に笑う若い男の表情にゴブリアスは言いようの無い不満と不安を覚える。
「待ってやるからもう1錠、飲めよ」
「……」
「そうしたら」
王子の口が開いて舌が出て来る。その舌の上には錠剤が1つ乗っていた。
「俺も使ってやるさ」
「っ!」
激高し、ゴブリアスは相手に向かい蹴りを見舞う。
咄嗟に回避したハーフレンは大剣を構えると間合いを取る。
きつく左右の戦斧を握り締めたゴブリアスは、今にも相手を睨み殺してしまいそうなほど狂気を宿した目でハーフレンを睨んだ。
「だったら使ってやる!」
左右の戦斧を地面に突き刺し、彼は腰の袋から錠剤を取り出す。
乱暴に掴んで出したそれを纏めて口の中に放り込み……ボリボリと音を立てて噛み砕く。
そんな相手を見つめていたハーフレンは、口の中の錠剤を吐き出した。
もう先に1錠使っている。それでも自分の体がおかしくなりそうなほどの感覚を得ていた。
その上にもう1錠口にすれば……たぶん自分の体は耐えられない。
目の前の男のように。
「ふはは……あはははは~! 死んだぞお前! 俺様の戦斧を食らって真っ二つだ!」
顔の穴と言う穴から血を溢し、それでも笑い続けるゴブリアスの筋肉は膨張を繰り返す。
内から溢れる筋肉により鎧は吹き飛び服も裂ける。それでも膨張は止まらないのだ。
パッツンパッツンの体で戦斧を掴み……彼はそれをゆっくりと振り上げる。
ゴウッと恐ろしい音を発して振り下ろされた戦斧は地面深くまで突き刺さった。
だがそれまでだ。
恐ろしいほどの……人外に迫る力を得ても、当たらなければ相手は死なない。
血走り流血する目で地面を見つめているゴブリアスの背後へと回り、ハーフレンは静かに大剣を振るった。
ブツッとした感触が両手に伝わって来る。
背骨を断ち切った感触だろう。
噴水のように頭を失った首から血をほとばせるゴブリアスは、見る見る体を小さくして……そして地面へと崩れ落ちた。
「最初から本気を出してたら負けないんだよ。馬鹿が」
自身の甘さを叱りつけるようにそう告げて……ハーフレンは勝利を収めた。
「正門前で小競り合いだと?」
報告を受けた革命軍(ユニバンス王国側からでは反乱軍)の首魁であるセルグエは、ワインを片手にしな垂れかかる女たちを甘く抱き寄せていた。
「好きにさせておけ」
「ですが」
「構わん。敵は増援が来るまで動かん。だがこちらも待っていれば共和国から増援が来る。今のままで良いのだ」
敵が望んでいる時間稼ぎはこちらも望む所なのだ。
セルグエは尚も食い下がろうとする副官を、兵に命じて遠ざける。
「何を心配する? 私はもう直このユニバンス領の領主となる男ぞ?」
愉快そうに笑いワインを空けた男は、また女たちに圧し掛かるのだった。
「ゾング様」
「誰だ?」
要塞内を動き回っていたゾングはその声に足を止める。
片膝を着いて首を垂れているのは、セルグエの従弟にあたるゴーンズだ。
王妃の護衛に失敗し、地方へと流されその統治でも失敗を重ねて遂に放逐された男でもある。
「ゴーンズか。どうした?」
「はい。実は……」
周りに悟られぬように身を低くして相手に近寄り、彼はその情報を告げた。
余りの言葉に目を見開いたゾングは、声を上げそうになった所をゴーンズの手で塞がれた。
「お静かに」
「……それは本当なのか?」
「はい。"我々"の協力者から得た確かな情報です」
「……」
恐ろしい話だった。だがあの強かなウイルモット王ならあり得る。
「このことをセルグエ殿にご報告は?」
「いいえ。しておりません」
「どうしてっ!」
「お静かに」
今一度口を塞がれ……ゾングは口を閉じる。
少し待ってからゴーンズは言葉を続けた。
「セルグエ様にはこの場所で総大将としてのお勤めがあります」
「……見捨てるのか?」
「はい」
身内である者をあっさりと見捨てる彼にゾングは身震いをした。
「ですが貴方様はお連れします」
「……どうして?」
粘っこい笑みを浮かべて彼は言葉を続ける。
「貴方様のご両親が統治する領地……そこにちょっとしたモノを隠したいのです」
「隠す?」
「ええ」
似たりと笑いゴーンズは言葉を続ける。
「この世界を引っ繰り返す物をです」
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