軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一緒に居てくれ

「てめぇ~! いい加減にしろっ!」

背中を蹴られて地面に顔面を擦った男が、顔を真っ赤にさせて立ち上がった。

怒りに醜く歪んだ顔に出血も混ざって見るに耐えない様相だ。

「おいおい……喧嘩にそんな無粋な物を抜くなよ」

自分の胡椒は棚に上げ、ハーフレンは男が抜いた剣に視線を向ける。

頭に血が昇り過ぎているのか……流石にそれを使えば冗談では済まないと言うことを忘れている。

「うるせえよ……俺たちはこれで生きて来たんだ。コイツと一緒にな! 相棒を使って何が悪い!」

「その相棒がお前より強いから問題だと言ってるんだよ」

「ふざけるんじゃねえっ!」

鉛色の輝きを残し剣が振られる。

その体格からは想像も出来ない身のこなしで剣筋から逃れたハーフレンが拳を振るう。

手加減無しの右の拳だ。

グチャッとした感触を拳に受けながら振り抜くと、男の目玉がぐるりと一周して崩れるように倒れた。

「ふざけてないさ。これはただの息抜きだ。俺とお前らのな」

深く息を吐いてハーフレンは辺りを見渡す。

今のひと悶着に暴れていたその他の兵たちも拳を止めて彼を見る。

最初に見た時よりもみな心なしか良い顔をしている。

やはり胸の内に何とも言えない気持ちを抱えているのだ。自分同様に。

苦笑し、ハーフレンは全員に聞こえるよう腹の底から声を出す。

「国の為に働いてくれたことは感謝しかない。お前たちがその身を、心を犠牲にして頑張ってくれたから今のこの国はあるんだ。そのことは決して間違いでは無い」

軽く頭を掻いて彼は言葉を続ける。

「胸を張れ。もし誰かがお前たちのことを『人殺し』となじるなら俺が許さない! お前たちがどれ程の物を払って戦ったのかを知らない者たちこそが恥じるべきだ! 誰のお陰で国内で戦火を得ずに暮らせていたのかを良く考えるべきだ! さあ胸を張れ! 酒に逃げるな! お前たちこそがこの国を救った英雄だ!」

らしく無いことを言っていると自覚はあった。

だが殴り合いながら観察していた兵の多くは……その表情に迷いを得ていた。

それもそのはずだ。彼らは国を護る為に戦い、護る為に殺したのだ。

自分の行いは間違っていないはずなのに、周りの人たちから『人殺し』と言われるのは辛すぎる。

「さあ掛かって来いよ。今日はただの無礼講だ! こんな機会じゃなければ一国の王子なんて殴れないぞ!」

と、その発言に何かが止まった。

スタスタと歩いて来たミシュが、飛び跳ねると同時に馬鹿王子の後頭部に蹴りを見舞った。

「王子と知って殴れるかっ!」

「……今やったろうが!」

「殴ってない。蹴っただけだ!」

何故か拳をパキバキと鳴らしながら、ミシュは飼い主の前に立つ。

「たった今、無礼講と言ったなこの糞王子っ! 今までの恨みを全て込めて、今日をお前の命日にしてやるっ!」

「その恨みの大半はスィークだろう?」

「問答無用だ! あの化け物を殴るなんて無理なんだよ~!」

涙ながらに突撃して来る馬鹿に蹴りを入れる。

吹き飛んだミシュが周りの男たちに襲いかかり……場が一気に混乱する。

ハーフレンは何も気にせず兵たちを殴り飛ばし、兵たちも必死に応戦することで憂さを晴らす。

大乱戦の中心で大暴れした彼の名は……兵たちの間に広まることとなった。

「ハーフレンが?」

「ああ。王国軍の者たちと殴り合いの大喧嘩をしてしばらく謹慎だ」

「……」

父親である国王の報告を聞いて、兄であるシュニットはその表情を硬くした。

何を考えての行動か全く理解出来なかったのだ。

「分からない……そんな顔をしているな」

「はい」

「儂にも分からんよ」

報告書をクルクルと丸めてウイルモットも苦笑いを浮かべる。

「だが不思議なことに、喧嘩に参加した兵たちは憑き物が取れたかのように大人しくなったらしい。どうやら儂らは彼らのことを色眼鏡で見過ぎていたのかもしれんな」

「ハーフレンがそれに気づき彼らを導いたと?」

「そうかも知れんし、違うかもしれん」

答えなど出ない類の問いだとウイルモットは経験上そう結論を出していた。

「ただ彼らの主張に耳を傾けることが大切なのかもしれんな」

こうしてハーフレンは国王の指示で、帰還兵たちを出迎える担当となった。

つまりそれは……帰還兵が来るたびに憂さ晴らしの殴り合いをし続けることになる。

「ハーフレン様」

「イタタ……もう少し優しくだな」

「ここですか? こうですか?」

「痛いってフレア。もう少し優しくな」

「……」

怒っている少女が、拳に塗り付けた軟膏で彼の背中をグリグリと押す。

大切な彼が大乱闘を経て帰宅したと聞いたフレアは、部屋着のままで彼の屋敷に飛んで来たのだ。

お陰で幼い感じに見えるドレス姿を相手に見せることになり、何より全身痣だらけの彼を見て正気が吹き飛びそうになった。

そのままの勢いで王国軍に殴り込みに行かなかったのは、彼が『風呂上がりに薬を塗ってくれ』と言い出したからだ。それが無ければ武装を持って突撃していた。

「お風呂なんかに入るから」

「失敗したな」

血の巡りが良くなったせいで痣が余計酷く見える。

その1つ1つに薬を塗って、フレアは薄く伸ばして擦り付ける。

彼の背中はある程度塗れたはずだ。そう思い薬を彼の手に押し付ける。

メイドから手を拭く布を受け取り綺麗に拭った少女は、メイドに布と薬を返して彼女が退出するのを見送った。

これでいつも通り2人だけと……ふと彼が自分を見ていることにフレアは気づいた。

「なに?」

「いや……可愛いと思ってな」

「……」

恥ずかしさに顔が赤くなる。

こんな幼い服装は王子である彼の横に立つには不似合いだ。

「なあフレア」

「はい」

「俺はたぶん謹慎だろうな」

「はい」

「暇だから一緒に居てくれ」

「……はい」

彼が望むのなら断ることは出来ない。

ならせめて着替えて来ようと、部屋から退出しようとしたフレアは彼に捕まり引き戻された。

「何処に行く?」

「……着替えてこようかと」

彼の膝の上に座る格好で向かい合い……フレアはその顔を増々赤くした。

「言ったろう? 一緒に居てくれって」

「はい。でも……えっ?」

抱きしめられてキスをされる。そのまま押し倒されて……その日フレアは本当の意味で彼の"もの"となった。

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