軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

酒のつまみになるなら聞こう

「これはもう……共和国からの申し出を受けるしかないだろうな」

国王ウイルモットは目を通していた書類を机の上に置くと、軽く目頭を揉んだ。

自分もそれなりに今まで色々と裏工作をして来たが、こうも分かりやすい工作も無い。

次の国王には長子のシュニットを置くと決めて公言している。自分の時のように後継者争いを回避する為の措置だ。それを知る両大国は、結婚相手にと若い娘を送り込んで来る策に出た。

当初からそうなることを予見し、シュニットの次の王はハーフレンの子とすることで大筋で纏まっている。

纏まっているのだが……。

「3歳になった共和国の姫が1番の年長者とはな。下手をすればまだ妊婦の腹の中の子まで居るぞ?」

「帝国は凄いな。どっちが産まれるのか分かっているのか?」

「男が産まれても女が産まれたことにすれば良い。至極簡単なことだろう」

ソファーに腰かけワインを楽しむ親友に、国王は深く息を吐いた。

これが政治だと言えばそれまでだが、かなり自分の子供に我慢を強いることとなる。

「あれも今年で15だ。本来ならもう女遊びの1つもする歳なのに……3歳の幼子を相手するとはな」

「意外と大丈夫かも知れんぞ? お前の所のハーフレンなんてずっとフレアの世話をして来た」

「世話をさせ続けたの間違いであろう? 王子を子守に使いおって」

「お蔭であの2人の仲は良いだろう?」

「……ハーフレンがどうも可愛がり過ぎていて、あの子を女として見ているのか疑問だがな」

『上手く行っただろ?』と言いたげな親友の言葉に、軽く肩を揉みながらウイルモットもソファーに移動する。

『やるか?』と掲げてみせる相手のワインに国王は黙ってグラスを差し出した。

「フレアが成長して出る所が出れば平気だろう。フロイデも幼い頃は全体的に足らなかったと聞くしな。何より女は子供を産んでからが良い。あの独特な体型がたまらん」

「そんなことを言って出産経験のある女ばかり妾にするからお前の家は子供が溢れるのだ」

「何を言う? お前こそ女系家系の苦しみを知らんと見えるな? 5回連続で女ばかり産まれてみろ……自分の種を疑うぞ?」

「知らん。儂は男が続いてから今は女の比重が多いな」

「かっ! お前の所は良いよな。シュニットにハーフレンにと優れた跡取りが居て。うちの子など」

「言うな。親から見ればどの子も物足らなく見える物だ。そればかりは仕方ない」

軽口を叩ける仲だからこそ愚痴が止まらない。

友人の妾が増えると妻にバレるカラクリの謎を解明できずに……2人の馬鹿話は終わる。

「ところで今日俺は何で呼び出されたんだ?」

「うむ。空席の重鎮の椅子のどれかを」

「断る。俺は現場で伸び伸びして居たい」

「困った奴よのう」

だが遊撃部隊としての彼は手駒としてまだ必要だ。

それを理解しているからこそウイルモットは人材の欠乏に頭を悩ませ続けている。

「魔法で儂を3人くらいに増やせんか?」

「子供の数が3倍に増えるぞ?」

「それはそれでリアが喜んでくれそうな気もするが」

「……自分好みのメイドを自分で奪い合うことになる訳だ」

「それは殺し合いになるな」

酒が入っているせいか、直ぐに馬鹿話に戻ってしまう。

否、それは国王であるウイルモットの悪い癖だ。言い難いからこそわき道に逸れるのだ。

付き合いの長い彼……ケインズ・フォン・クロストパージュはそれを理解していた。

「面倒な話か?」

「かなりな」

「酒のつまみになるなら聞こう」

「つまみにするな」

深くため息を吐いて……ウイルモットはグラスの中で揺れるワインの水面を見つめた。

「リアが歩けるようになった」

「それは良かったじゃないか……何が問題でも?」

「ああ。その姿を人に見せられんようになってしまったがな」

グラスを机に置いてケインズは膝の上に腕を置く。

気持ち前のめりとなり相手との距離を詰めた。

「……酷い怪我を負ったと聞いたが?」

「あれは怪我などでは無い」

「なら何だ?」

「呪い……そうバローズは決断を出してここを去った」

「叔父が?」

自身の叔父であるバローズ・フォン・クロストパージュは王都にて宮廷魔術師……国王の相談役を務めていた。だが少し前の騒動で弟子が大罪を犯し、その責任を周りの貴族たちからやり玉にあげられて地方の田舎に隠居してしまった。

現在空席となっている宮廷魔術師の椅子をと目の前の国王に勧められているのはそれが原因だ。

「リアの体の大半は癒えた。代わりに……その身にドラゴンの力を宿らせてな」

「言っている意味が解らん」

「言葉の通りだ。あれの体には鱗が生え、体の半分を覆っている。目もまるでドラゴンのような目をする時もある。ドラゴンを人の形にしてしまったような……そんな状況だ」

苦々しい表情を作る国王にケインズはかける言葉も見つけられない。

彼がどれ程惚れ込んで相手を口説いたのかを知っている。馬鹿の見本のような一途で真っ直ぐだった。

だがその真っ直ぐさを彼女は好みウイルモットの申し出を受けたのも知っている。

「姿形などお前の気持ちが揺れ動いていないのなら問題無かろう?」

「ああ。儂はな」

「……ただし王妃としてはもう務められないか」

「そう言うことだ」

ラインリアは名ばかりの王妃となっていた。

公式の式典などにはもう何年と側室のトパーズが出ている。

それを好機と見ているあの女は、改めて正室の座を求め始めているのだ。

「ルーセフルトも懲りんな。また掃除されるぞ?」

「だからこそ王妃の秘密を暴こうと必死なのだ」

「そう言うことか」

隠していることが公になれば、ラインリアは自ら王妃の椅子を辞するしかない。

実際何度も彼女はそれを申し出て、ウイルモットが拒絶しているだけなのだ。

「どうして儂らは……惚れた女と添い遂げることも難しいのだろうな?」

「俺に聞くな」

(c) 2019 甲斐八雲