軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お嫁さんになりたいです

「そう言うことなのね」

国王に届けられる報告書を手にし、グローディアは冷ややかな視線を向けた。

"金銭"で手に入れられる物は本当に多い。

こうして国王にだけ届けられる書類ですら写しが手に入るのだから。

グローディアは鼻で笑って手にしていた書類を魔法で焼いた。

不可能魔法が何故不可能なのか……確かに目を通した書類から理解出来る。

だからと言え諦めることは出来ない。

自分の母親よりも自分に優しくしてくれた人を、母親よりも愛せる人を……あの人に忘れ去られたままで居ることなど耐えられない。

でももう……打つ手はない。自身の研究は完全に行き詰まり八方ふさがりの状態だ。

「もう無理なの? 私にはもう出来ないと言うの?」

絶望に心が軋む。何もかも投げ捨ててこのまま諦めてしまいたい。

「でも嫌……嫌なのよ……」

ボロボロと涙を溢しグローディアは両手で顔を覆う。

諦めたくない。諦めた時点で自分はもう自分で居られない。

声を殺して泣き続けるグローディアは、ふとそれに気づいた。

涙で濡れた手で机の上の本を退ける。

山を崩して探し出した1冊の本。

手にした本をグローディアはゆっくりと開いた。

王族の伝手で手に入れたその本は決して表に出ることのない禁書。

三大魔女の一人である召喚の魔女の弟子が記した彼女の魔法式。

「……これだ」

絶望の果てに彼女が辿り着いた答え。

ゆっくりと内容に目を向けて……グローディアは覚悟を決めた。

「自分で作れないなら、別の方法でどうにかすれば良いのよ」

深く深く沈んだ目で彼女は本を読む。

「どんな手を使っても……私がリア伯母様を救ってみせるんだから……」

グローディアは、最後の手段として召喚魔法に傾倒し始めた。

異世界から必要な力を手に入れる……絶望の果てに彼女が掴んだ物は、最悪の手段だった。

「フレア」

「……」

ベッドに籠ったままで出て来ないと告げられハーフレンは彼女の"部屋"を訪れた。

最近はクロストパージュ家の屋敷に戻ることも多いが、それでも彼女には王妃宅に自室を与えられている。

王妃のお気に入りと言うこともあるが、やはり外堀から確実に埋められているのだ。

だが真っ直ぐ帰宅した彼女は、そのままの勢いで自室に籠り出て来ない。

帰宅し報告を受けたハーフレンは、疲労から来るため息を口にしながら鍵の掛かっていないフレアの部屋に入ったのだった。

明かりも灯されていない彼女の部屋は、西日が優しく差し込んでいる。

年頃の娘の部屋とは思えないほど本が置かれている。

ベッドの上の膨らみに歩み寄って……彼は掴んで引き剥がした。

掴んでいたシーツごと引っ張られて転がり出た彼女は、涙で濡れた顔を見せる。

別ルートから今日フレアが何処に出向いたのか報告を受けている彼は、慌てて自分の顔を腕で拭う少女を抱きかかえて優しく背中を撫でる。

「カミーラに会いに行ったんだってな」

「……」

抱かれているフレアは彼の首に腕を回して増々抱き付く。

「アイツは前線の地獄をずっと見て来た。そしてまた前線に向かう。たぶん心が傷だらけで病んでいるんだ」

「でも……」

「ああ。でもお前はアイツの優しさを知っているだろう? 本当のカミーラはあんな女じゃない」

ハーフレン自身も色々と報告を受けて彼女の経歴を知っている。

訓練兵にもかかわらず前線に放り出されて敵兵の圧倒的な戦力に蹂躙された。仲間たちが惨たらしく殺されて行く中で『護る』ことを強く望んでいた彼女は覚醒した。

自身が唯一使える魔法で敵兵を串刺しにして殺して行く。毎日のようにそれを繰り返した彼女はいつしか『串刺しカミーラ』と呼ばれるようになっていた。

だが有名になればなるほど彼女たちは激戦区に派遣されるのだ。どれほど護っても仲間は死んで行く。どれほど足掻いても仲間は死んで行く。

心を病むには十分な時間と環境だった。

「今はこの国の状況が良くないんだ。だからお前までアイツを嫌うな」

「……うん」

小さく頷く彼女をベッドに戻し、ハーフレンは彼女を横たえる。

だが首を掴むフレアの手が離れない。

「フレア」

「……ハフ兄様」

「ん?」

「今日は隣りに居て欲しい……です」

ため息一つ吐いて彼は少女の頭を撫でてやる。

「ならせめて風呂を浴びさせてくれ」

「大丈夫」

「俺が嫌なんだよ」

「……わたしは好きだよ?」

「この甘えん坊が」

もう面倒臭くなって彼はベッドの上に転がり横になる。

横に来た彼に抱き付いて胸の上に顔を乗せたフレアは柔らかな表情をハーフレンに向けた。

「ハフ兄様」

「次は何だ?」

「うん。……フレアは兄様のお嫁さんになりたいです」

頬を真っ赤にして少女は彼の胸に顔を押し付けて隠す。

妹だと思い接して来た相手からの思いもしない告白に……ハーフレンは片手で顔を覆ってベッドの天蓋に目を向ける。

「俺なんかで良いのかフレア?」

「うん。わたしはハフ兄様だけが良い」

「……もっと良い男が居ると思うけどな」

と、彼の体に登りフレアは相手の顔を覗き込んだ。

「わたしはハフ兄様が良い」

「どうしてだ? ずっと一緒に居たからか?」

「うん」

大きく頷いてフレアは真っ直ぐな目で彼を見る。

「だから知ってる。兄様がどれ程良い人か。だから好き」

「……ならもうお前の好きにしろ」

「うんっ!」

頷いてフレアはまた彼の首に抱き付いた。

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