軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お前に人殺しは似合わない

「カミーラ? 居るかい?」

「……スハか」

天幕の外から掛けられた声に、中から気怠そうな返事が聞こえて来た。

一瞬相手の声を忘れていたことに気づいたフレアだったが……それでも本当に声の主がカミーラか疑った。

それ程に聞こえて来た声には覇気が無く、沈んでいたからだ。

「アンタにお客さん。何でも昔世話になったとか」

「世話した奴らはみんな死んだよ」

「その前。アンタが戦場に出る前だよ。良いから出て来なよ」

「……面倒臭い」

中から衣擦れの音がしてしばらくすると、ラフな格好をした女性が出て来た。

スラリとした手足は長く引き締まった筋肉が見える。本当に無駄のない研ぎ澄まされた刃のような風貌の女性だ。一瞬その姿を見たフレアは、昔の彼女と遠くかけ離れすぎていて気づけなかった。

だが彼女はフレアに気づいた。

「お嬢様か」

「知り合い?」

「ああ。昔世話になった家の娘さんだよ。それでも上級貴族の娘で第二王子の許嫁だ」

ギョッした目でスハは自分の隣に立つ少女を見た。

「新兵相手のお遊びとかしてないだろうね? 縛り首になるよ」

「……嘘っ!」

顔色を蒼くしたスハが飛び退いてフレアを見つめる。

冗談で言ったのだが……カミーラは鼻で笑う。

もし訪れた少女の本質が替わって居なければ問題にはならないだろう。

「……したのかい?」

「してないしてない。ただちょっときつめに声を掛けて泣かせたと言うか……」

ボリボリと首を掻いたカミーラが盛大なため息を吐いた。

「戦場じゃなくて処刑場で人生終わらせるとか……スハらしいな」

「……本当に申し訳ないっ! 知らなかったとはいえ失礼をっ!」

「えっ? あっ……平気です」

突然のことで付いて行けなかったフレアは、自分をここまで連れて来たくれた女性が下げる頭に面を食らう。

どうしてこんなに慌てているのか全く理解していないのだ。

自分がどんな地位を得ているのかを……フレアは全く気づいていなかったのだ。

「連れて来て頂いてありがとうございます」

逆にペコペコと頭を下げられ……複雑な表情でスハは逃げるように遠ざかって行く。

それを見送り、フレアは面倒臭そうに首を掻きながらカミーラを見た。

「で、フレア嬢。どうしてこんな場所に?」

「あっはい。これを」

おずおずと差し出された籠手を受け取りカミーラは眉間に皺を寄せる。

「これがどうしたって?」

「えっと……わたし、今、アイルローゼ先生にお世話になってて」

「ああ。私の魔力量をどうにかするって話か」

面倒臭そうに鼻で笑いカミーラは手に籠手を通す。

「で、どうするんだい?」

「……これが仕様書です」

「そっちを先に渡して欲しかったね」

苦笑して紙を受け取ったカミーラは、一瞥してフレアに仕様書を戻した。

「えっ?」

「一度見れば必要無い。何より誰かに盗まれて使われると厄介だからね……処分してくれ」

「……はい」

魔法語を唱えてフレアは紙を焼いた。

「流石はクロストパージュの令嬢様だ」

「そんなこと……無いです」

少し照れてはにかむフレアに、カミーラはガラス玉のような目を向ける。

「さぞかし戦場で役に立つ魔法を身に付けていることだろうさ」

「……」

その言葉にフレアはゆっくりと顔を上げて相手を見た。

顔色1つ変えずに籠手の具合を確認しているカミーラの目が少女の視線に気づいた。

「悪くなさそうだ。これでまた戦場に出て敵を皆殺しに出来るよ」

「皆……殺し?」

「ああ」

ククっと低く笑って彼女は籠手を見つめる。

それはまるで子供が最高の玩具を得たかのようにも見える。

「敵兵を串刺しにして殺すんだよ。1人も残さない。全員殺してやる」

「カミーラ?」

「どうしたフレア嬢?」

「……」

顔から血の気を失いつつもフレアは必死に堪えた。

違う。自分が知るカミーラはそんなことを口にする人物では無かった。

彼女が望んでいたのは『護ること』だ。自分の力で護ることを望んでいた。

「どうしたのカミーラ?」

「何がだい?」

「カミーラは言った。わたしに言った。『皆を護りたいから騎士になる』って言ってたのに!」

耐えられなかった。

彼と一緒に鍛練の日々を送っていた彼女が……こうも変貌していたことが我慢出来なかった。

「どうして皆殺しにするの! それじゃあ悲しむ人が増えるだけだよ!」

真っ直ぐな少女の言葉に……カミーラは感情すら動かさずに目を向ける。

「でも敵を殺し尽せばユニバンスで泣く者は減る」

「っ!」

その返事がフレアの心を強く打つ。『事実』と言う容赦のない言葉が。

「私はね……フレア? 戦場で数多くの仲間の死を見て来たんだよ。それで気づいた。今のままだと平和なんて来ない。敵がいる限り平和なんて訪れない」

グッと踏み込みカミーラは少女の目を見る。ガラス玉のような目で。

「だったら敵を全て殺せば良い。敵兵を、全て、殺せば良い。簡単なことだ」

「かん……たん?」

「ああ。それも惨たらしく殺して相手の心を折ってね。仲間の惨たらしい死体を見れば相手も戦意も挫ける。そうすればこちらは優位に戦える。死ぬ者の数が減るんだ」

相手の額を自身の額を押し付け……カミーラはフレアの視線を正面から受け続ける。

「戦場を知らないガキはいくらでも綺麗ごとを言える。でも実際に戦っているのは私たちだ。ならどんな手を使っても勝たなきゃいけない。負ければ死ぬんだ。なら相手を皆殺しにして確実に勝てば良い。そうだろう? 違うかフレア?」

「……」

相手の圧に押されフレアは今にも気絶してしまいそうだった。

自分をここに連れて来てくれた女性の言っていた通りに……カミーラは変わってしまった。変わり果ててしまった。

自分が知る優しいお姉ちゃんの彼女はもう居ない。

「分かったら二度とこんな場所に来るな。それとお前は戦場に出るな」

突き放すような言葉にフレアは大きく後退する。

「甘い戯言しか言えないお前なんて戦場に出ればすぐに死ぬ。王子様の嫁になって箱庭の中で夢を見て生きてな」

ポロポロと涙を溢し……フレアはその場から逃げるように駆けだした。

遠ざかる少女の背をな送り、カミーラはボリボリと首を掻いた。

「……お前はこっちに来るなフレア」

深いため息と共に呟きがこぼれる。

久しぶりに見た少女は穢れることなく優しく綺麗に育っていた。

それで良いのだとカミーラは思った。

何故なら『彼女のような』存在を多く残す為に、自分は生きているのだから。

どんなに自分が嫌われ汚れようとも……カミーラはやり遂げると決めたのだ。

自分が死ぬまで、1人でも味方を生かす為に敵を殺し尽すと。

「お前に人殺しは似合わない」

どんなに嫌われても……国の『未来を護れるなら』と。

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