軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

興奮するぞ~!

手近な布で王妃の腹の中の物を押し込み封をする。

キルイーツはそのまま彼女を抱き上げると、急いでその場から逃げ出した。

「かあさまっ!」

ボロボロと涙を溢し駆け寄ろうとする少年は騎士の手により御されている。

だが今のキルイーツはそんなことなど気にしていられなかった。

街道脇に旅人が休憩などで木陰を得るために植えられている木の下に王妃を横たえる。

動物は基本柔らかくて美味しい部分を狙う。つまり腹であり内臓だ。

王妃の腹も同様に狙われ……小腸がこぼれ出ていた。

「いやだ……かあさまっ! かあさまっ!」

駆け寄って来た少年が、王妃の手を取り必死に声を掛ける。

薄く開いた王妃の目は、視点も定まらずに彷徨っている。

ただ半狂乱で泣き叫ぶ我が子の声に反応しただけなのだろう。

「騎士様っ! ドラゴンがこちらに来ないようにっ!」

「心得た!」

王妃を一瞥した騎士たちは自身の中で判断を下していた。だから誰だか分からない者の言葉に従ったのだ。

王子に母親との別れの時を与えると……そう思って。

しかしキルイーツは違った。彼は医者だ。本でしか得ていない知識しかないが、それでも医者を志してからは自身を"医者"と思い過ごして来た。

医者とは……患者を助ける存在なのだ。決して諦めずに最後まで。

「王子っ!」

「……えっ?」

服の袖を捲り余っている布で手を拭きながら、キルイーツは王子を見た。

「これからこの腹を裂いて腸を切る。もしかしたら他に傷ついているかもしれない臓器もあるかもしれない」

泣き続ける少年にキルイーツは現実のみを突き付ける。それには理由があった。

「使えない臓器は全部切って捨てる。それで腹を縫って後は王妃が持っている運次第だ!」

「えっあっうん」

幼いハーフレンには何も分からない。

ただ目の前に居る大人が怒った様子で話しかけて来る……そんな認識でしかなかった。

それでもキルイーツは決めていた。全力を尽くすと。

「今この場でお前が決めろ。このまま腹を閉じて王妃が死ぬのを待つか、それとも俺に手を貸して一緒に救うか……どっちだ!」

「……」

突き付けられた現実に、少年は何も理解などしていない。2歳のハーフレンが理解など出来る訳がない。

それを理解していてもキルイーツは真剣な眼差しで王子を見た。

先ほど彼は持って生まれた資質の一端を見せ、自分を奮い立たせたのだ。

『彼ならやれる』と信じていた。

困り悩み俯いていた少年の顔が持ち上がった。

「助けて」

「違うだろ」

「……助ける」

促され少年がそう断言した。

「それでこそユニバンスの男だ」

真剣な眼差しを宿す少年に、キルイーツはこの国の未来を見た。

きっと良い国になると確信めいた物を感じ、自分が出来ることをして手伝うと決めた。

ドラゴンに襲われるかもしれない可能性はあるが、それは警護の騎士を信じるしかない。

手早く準備をしたキルイーツは臨時の助手とした王子に指示を飛ばす。

「ならまず王妃のドレスを適当に切れ。だが汚すな。止血に使う」

「はい」

小刀の1つを渡しキルイーツは傷口を押さえていた布を退ける。

一番の問題は流れ出る血だ。これが一番厄介なのだ。

異世界では"輸血"と言う他者の血を流すことで失われた血を補充するらしい。

だがこの世界にはそんな技術も技法も無い。

「おじさん。血が」

「おじ……お兄さんに任せろ」

輸血が出来ないからこの世界では外科的な技術が進歩していないとキルイーツは判断していた。なら代わりの方法で対応すれば良い。

彼は手当たり次第に出血している血管を抓んでは魔法を行使する。

強化魔法で閉じた血管を固定し出血を止める。それを繰り返して大きな出血を止めた。

「坊主。汗を拭け」

「はい」

「それと腹の中の血も拭え」

「……はい」

顔色を蒼くさせながらもハーフレンは母親の腹に手を入れて血を拭う。何度も何度も丁寧にだ。

「坊主。母親の腹の中は暖かいだろう?」

「はい」

「それが冷たくなって来たら終わりだ。その温かさを忘れるな」

言って彼は腹の中の臓物を確認する。こぼれた小腸は糸で縛り切る場所を決めてある。だが他に傷つき出血していれば、腹を閉じ終えてからでは間に合わない。

今全ての傷を確認するしかない。

「子宮が……牙でも擦ったか」

「……」

ドラゴンが小腸を食わんと口を動かした時にでも生じたらしい傷を子宮に見つけた。

出血は少ないが……このまま放置して良い傷でもない。何より縫っても今まで通り使えるのかも分からない。

一瞬悩みチラリと王子を見た。

王妃は2人の息子を生んでいる。普通に考えれば十分な仕事をしているとも言える。

「切って捨てよう」

それが最善だと判断した。

「良いか坊主。これから傷ついた臓器を切る。もし出血があれば言え」

「はい」

血の気の無い顔色をした少年がコクッと頷く。

一度気を吐いてキルイーツは引き攣る頬を動かし笑った。

「……そう心配するな。このキルイーツ様は大陸の治療を根底から引っ繰り返す偉大な人物になる予定だ。これはその第一歩に過ぎない」

一歩目としては余りにも難解な局面ではあるが、キルイーツはそう言って相手も自分も鼓舞する。

そうするしか余りの難しさに気持ちが萎えて逃げ出したくなるからだ。

「おじ……お兄さん。布が足らない」

「そんなの王妃のドレスを剥いて作れ」

「……裸になっちゃう」

もう十分半裸であるが、それでも母親の裸を晒したくない子供心をハーフレンから感じる。

キルイーツはそれを察し……緊張から震える頬を動かし、笑みを浮かべて口を開く。

「良いか坊主。俺が医者を志した本当の理由はな……誰にも咎められず女性の患者の裸を見られるからなんだ!」

「……この~!」

激怒するが殴りかかれない少年は顔を真っ赤にする。

「あっはは~! お前も大人になれば分かる! 女性の体は神秘の塊なんだよ! 興奮するぞ~!」

高笑いしながらも手を止めない彼によって臓器が切られ、血管は魔法でくっつけ治されて行く。

ハーフレンは限界まで母親の裸体が晒されないようにドレスを切っては血と汗を拭い続けた。

それからしばらくしてドラゴンを追いやり駆け付けた騎士長シュゼーレが見たものは、力尽きて仲良く眠る医者と王子……そして腹に大きな傷を得たが、弱々しくも呼吸をしている王妃の姿であった。

人的被害は多かったが、辛くも最悪の事態だけは免れることが出来たのだった。

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