軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

助けろ! 母さんを!

突然の襲撃で隊列の護衛をしている騎士の1人、騎士長たる彼の対応は遅れた。

ドラゴンの襲撃であれば十分に対応することが出来たのだが、騎士隊長が部下を連れて敵前逃亡する事態など想定していなかったのだ。

結果残った騎士を集めてからの対応を強いられた。致命的な時間の消失ではあったが。

「騎士長! シュゼーレ騎士長!」

「騒ぐな!」

混乱状態で慌てふためく部下たちを一喝し、騎士長たる彼は覚悟を決めた。

「まず隊列を組み直す。それから自分とそちらの者たちでドラゴンを追いやる盾となる。お前は部下を連れて王妃様の馬車に向かえ!」

「ですがそれでは騎士長が!」

「騒ぐな!」

2度目の一喝に部下は完全に沈黙した。

だが騎士長シュゼーレは、剣を収め盾を構える。

「ユニバンスの騎士は国を護る盾だ! その命が尽きるまで各々盾となり敵から 国(ひと) を護れ! 良いなっ!」

「「おうっ!」」

後にユニバンスが誇る重装歩兵の基礎となる形がこの時に生み出された。

だが生み出した彼はただ必死に盾を構え、迫り来るドラゴンと軽装で正面から相対すると言う暴挙を繰り返したのだった。

命を賭して、自分の言葉を実行して。

メキメキメキと大きな音を立てて馬車が壊されるのを、キルイーツは見ているしかなかった。

破壊した馬車の下に顔を突っ込んだ陸上型のドラゴンは、車体下部に取り付けられていた物を見つけてそれを咥え込む。

激しく頭を振って引き剥がしたそれは……布に巻かれた何かであった。

引き剥がした衝撃で布が裂け、キルイーツは中身を見た。

肉だ。たぶんドラゴンの肉だろう。

ドラゴンは同族の血肉に群がる習性がある。

結果としてドラゴンは馬車の下に取り付けられていた肉に集まり襲撃したのだ。

「と……それよりも!」

彼は慌てて走り壊された馬車に取り付いた。

自分は医者だ。何より王家に仕える貴族でもある。何を誰を優先するべきか理解している。

「大丈夫ですか!」

崩れた馬車に身を押し込み、彼はそこで2人の人物を見た。

額から血を流している女性と肩を押さえ蹲る少年。王妃と王子だ。

彼は医者を目指す人物だ。だからこそ迷わず優先すべきことを実行する。

腕を伸ばし少年を掴むと馬車だった物から引きずり出す。急いで抱き直してその場から離れ状態を確認する。

(肩は打撲といった所か。特に傷は無い)

怪我の有無を確認し、彼は王子を預けられる騎士を探す。

と、小さな手がキルイーツのズボンを掴んだ。

「かあ……さまを」

「ええ。王子。貴方を預けたらすぐに」

キルイーツの答えに迷いは無かった。

王妃と王子……優先すべきは王子だ。何故ならば王位継承権がその理由を指し示す。

王子には与えられるが王妃には与えられない。つまり王子は優遇されるが、王妃はそれに該当しない。

強いて言えば王妃の代わりなど求めれば幾人も生じる。王が望む限り際限無くだ。

「誰かっ! そこの騎士様っ!」

混乱する現場で人混みを掻き分けて突き進んで来る3人の騎士を見つけ、キルイーツは大きく手を振る。

騎士たちも手を振る者に気づき、何よりその足元に居る人物に気づいて慌てて駆け寄って来た。

「王子は無事か!」

「はい」

「良くやった」

騎士たちの安どの声は自分たちの命が繋がったことを意味する。

もしこのまま王子を失うようなことになれば、良くて自死。最低でも罪人として縛り首だ。

「かあ……さまを」

「ええ王子。これからっ」

と、キルイーツはそれを見た。

残骸と化した馬車に首を突っ込むドラゴンの姿を。

馬車の下では無く中に顔を入れて頭を動かす様子は……何を物語っているかは考える必要もない。

「かあさまっ!」

「危ない王子」

騎士の1人に制され少年は駆けることも出来ない。

だがそれは決して騎士が非道なのではない。優先順位の都合だ。

彼らが最も護るべき存在は、誰でも無い……第二王子ハーフレンなのだ。

少年の目の前で馬車が大きく揺れる。

弱々しい悲鳴が、母親の声が……彼の耳を、心を激しく揺さぶる。

「助けて……よ」

ポツリと呟かれた弱い声に誰も反応出来ない。

だが幼い少年は……諦めなかった。

「助けろ! 母さんを!」

王子の命令に反応したのは騎士では無い。偶然居合わせただけの医者希望の男だった。

彼は自分の服に手をやり……大切にしまっていた小刀を取り出す。

場所によっては『禁忌』ともされる外科的な施術をする為に作った物だ。

彼の武器は、それだけだった。

「王子の命に従いましょう」

重ねて言おう。彼は騎士では無い。ただの貴族の息子だ。

それでも人と違う力を持っている。

魔法だ。

素早く魔法語を唱え彼は走り出した。

一瞬……ドラゴンが餌をついばみ顔を上げる瞬間、それが狙い目だと判断した。

時が来た。

ドラゴンの顔がゆっくりと上がり、足を止めた彼は右手に握る小刀に魔法を行使する。強化系の魔法。

握っていた小刀の強度を高め、それを全力でドラゴンの顔目掛けて投げる。

観察して分かっていた。ドラゴンが顔を上げる時に、閉じていた目を開くと。

タイミング良く開いた目に……小刀が突き刺さる。

「ギョルガァ~!」

苦痛に満ちた声を上げ、ドラゴンはよろける様に自分の顔に手をやる。

『痛い痛い』と言いたげに、傷を負った目を自身の手で、鉤爪のような鋭い爪を持つ手で掻く。傷が増えてドラゴンはさらに暴れ続ける。

だが確実に馬車から離れるのを確認し、彼は馬車に向かい駆け寄ると……中の様子を見て絶句した。

王妃の腹から腸がこぼれていたのだ。

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