軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルグちゃん?

「イネル……わたしもう限界だよ」

「ダメだよクレア。こんな所で」

「良いでしょ? 2人きりだもん」

「ダメだって」

「いや……わたしもう我慢出来ない」

聴く限りアウト臭い会話なので、急いで扉から耳を離して中に踏み込む。

ドレスを脱いだ下着姿のクレアが、イネル君に膝枕して貰って目を閉じていた。

脱いだドレスは椅子に掛けられ皺が付かないようになっている。

そっちに向ける気づかいがあるなら上司が踏み込んで来ることくらい想定しなさい。

「おう。おひさ」

「アル、アルグ、アルグスタ様っ!」

突然の登場に慌てふためいているイネル君は、娘の部屋で決定的な場面を相手の父親に踏み込まれた感じにしか見えない。

むしろそのままだとも言える。

「もう。……少しだけ眠らせてよ。3日も家に帰って無いんだから」

「起きてクレア! お願いだから!」

「えへへ……なら抱きしめてチュ~してくれたら」

「アルグスタ様が来てるから!」

「えへへ~」

イネル君が慌ててクレアの肩を揺すっている。

でもガクガクと頭を振り回す彼女はたぶん完全に壊れている。蕩けた表情だが目が死んでいる。

その理由は、2人の机の上を見れば納得だけどさ……ドラゴン退治で前線に向かった人間に対して、これほど山のように書類を回すってどうよ? この国の大臣一同は結託して僕を書類に埋めて殺す気か? その気ならばこの喧嘩、買うよ?

詰まれた山が崩壊している僕の机には目を向けず、とりあえずソファーに居る2人に目を向ける。

泊まり込みで仕事をし続けていたのだろう様子が見て取れる。

全く……本来僕が居た世界なら勉強なんてそっちのけで遊んでいる年頃なのにさ。

「見た限りあれ~な感じにしか見えないから、2人には今から罰を言い渡します」

「あわわ。アルグスタ様っ! ボクが悪いのでクレアは」

「ダメです。2人とも2日間の自宅謹慎ね。片方の家で過ごすとかもダメ。自室で謹慎なさい」

「……」

呆然とした感じでイネル君がこっちを見て来る。

仕事場で下着姿の少女を抱きしめるとか、何よりドレスを脱ぐとか言語道断です。

ここは厳しく律しないとね。

「ほら。クレアもその状態だと運べないだろ? 服を着せてさっさと帰宅する」

パンパンと手を叩くと壁の一部が開いてメイド長が出て来た。

久しぶりに見るとホッとするわ~。

「メイド長」

「はい」

背筋を伸ばした彼女にお願いする。

「この2人に2日間の自宅謹慎を命じたから、自宅から出ないように手配しておいて」

「仰せのままに」

「ついでにさっさと帰って貰って。これからノイエと2人で仲良く仕事をするからさ……扉を閉めたら立ち入り禁止にしておいて」

「はい」

ふんわりと一礼し、クレアを脇に抱えイネル君を猫持ちしてメイド長が去って行った。

やはり人員の補充は急務だな。あの2人は2人きりにするとろくでも無いことばかりする。

でもまあ……泊まり込んで仕事をしていてくれたお陰で、僕の方も多少楽は出来そうだ。

「さてノイエ」

「はい」

「右手はどう?」

「……強く握れない」

石のドラゴンの退治で砕けたらしい右手はもうほとんど回復している。ただまだ握力が無いらしい。

「でも書類整理くらい出来るよね?」

「……はい」

でも事務仕事が苦手なノイエの表情は変わらないが、アホ毛からへなっと力が無くなった。

そのリアクションは想定済みだよお嫁さん。だから今日はメイドさんにお願いして彼女の髪を纏めてお団子にして貰ったのだ。

仕上げに懐から大き目なハンカチを取り出してそれでノイエの髪を纏めて包む。

不格好な三角巾になってしまったが、ノイエの髪って長いから仕方ないのです。

「なに?」

「うん。ノイエが本気になれるおまじない」

「本気?」

「うん」

物は試しに使ってみようかね。

「だから助けてよ。お姉ちゃん」

一瞬ノイエの顔がカクンと下がる。でもすぐにまた上がると瞳の色を碧くさせていた。たぶん髪の色も変化しているはずだが、完璧だ。外からは見えない。

「もうアルグちゃんはそう言ってお姉ちゃんに甘えるんだから」

「うん。お姉ちゃん優しいもん」

「優しい……うふふ。そうよ。私は優しいお姉ちゃんですものね」

チョロイン属性のホリーが小躍りしながら書類の山を手に取る。

軽く息を吸ったと思ったら、目にも止まらない速度で書類の仕分けを始めた。

「すっごいお姉ちゃん。やっぱりホリーお姉ちゃんは凄いや」

「もうアルグちゃんったら。今回だけだからね?」

「え~?」

「……この量はってことよ」

「わ~い。お姉ちゃん大好き」

「ゴクッ……私もよアルグちゃん」

目が血走って来たからこれぐらいにしておこう。これ以上お姉ちゃん力が高まると今夜も僕は壊される。

って全身の筋肉痛が治らず、別の個所が痛み出したのってたぶんホリーのせいだ。

「ん~。今夜もアルグちゃんをいっぱいいっぱ~い可愛がってあげるからね?」

「わ~い。お姉ちゃんダイスキー」

しまった。もう危険水域を越えていたかっ!

死の指し手と呼ばれるほど頭の良いホリーの手にかかれば、書類の山が見る見る圧縮されて行った。

僕の体の心配もあるが……この有能さを知ると本当に手放せない。

「ところでアルグちゃん」

「はい?」

「このバージャル砦から届いている『間違えて全部倒してしまいました。どうかお仕置きして下さいご主人様っ!』って言う手紙は何? お姉ちゃんの知らない所で変な遊びでも覚えたの?」

「あ~。やっぱり全部倒したのね」

流石モミジさんだ。ある意味、変態は不可能を可能にするって言う見本だな。

「アルグちゃん?」

「うん。国王様に変態な子を押し付けられてね……罰としてこれからしばらく放置しようかと思ってるんだ。それでも満足しそうな変態さんなんだけどね」

「それなら良いけど、もし手に余るようならお姉ちゃんに言いなさい。誰にも気づかれないように失踪させてあげるから。うふふ……うふっ」

楽しげに笑う彼女を見て再確認。やっぱりホリーはホリーだ。

どうしてもって時以外は呼ばないことにしよう。

ホリーのお陰もあって書類の山は1日で大半が消えた。

それと引き換えに魔力を使い果たした彼女は、『しばらく外に出て来れない』と言ってノイエの中に戻った。問題は、『今度会う時はお姉ちゃんの本気を見せてあげるからね』の言葉だ。

今までのあれが序章だったとか言うならば、僕はホリーと出会うその日が命日になるかもしれない。

(c) 2019 甲斐八雲