軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

わたしのブーツを舐めなさい!

普段なら街道をやって来た商人たちの為に開かれている砦の門。

外敵から国を護る為に閉じられている門を前に、モミジは大きく息を吸って呼吸を整えた。

ゆっくりと頷き合図すると……砦の背後に配置され、待機していた守兵たちが門を開き始める。

軋みながら残骸となっているドラゴンの遺体を押し退けて開く門の……視線の先に大きなドラゴンが居た。

中型のドラゴンはその巨体をくねらせて歩いて来る。

だが特に炎など吐いたりしない。まだそのような攻撃を見せていないだけかもしれないが、自分ならどんな攻撃でも防げる。

「モミジさ~ん」

と、横合いからの声に視線を向ける。

上司であり、想い人でもある彼が砦の外を指さしている。

「楽勝だからね!」

気軽に言ってくる言葉に不安があるが、それでもモミジは彼の言葉を信じた。

彼の周りに居るのは普段待機所で防衛に当たる兵たち。そんな彼らも口々に声を掛けて来る。

『倒せる倒せる』などの言葉に後押しされて、モミジはゆっくりと門の外へと歩き出した。

「大丈夫! さあ名乗りを上げて!」

「はい」

彼の言葉に促され、門を潜ったモミジはカタナを抜いてドラゴンへ向けた。

「わたしの名前はモミジ・サツキ! この大きいだけのトカゲ野郎!」

両手でカタナを握り上段に構える。

「情けなく地面に伏してわたしのブーツの底を舐めなさい!」

言って少女は駆け出した。

それは後に『斬撃の女王様』と呼ばれる存在の誕生であった。

うわ~。本当に言ったよあの子。軽く引いた。言わせたのは僕だけど、言っちゃうモミジさんに引いた。

だけどそれを見て聞いていた兵たちは異様に盛り上がっている。

やんややんやとはやし立てる度に、ノリノリのモミジさんが中型のドラゴンに斬りかかって行く。

対するドラゴンも前足を大きく振るったり、顔を動かしたりしてモミジさんを襲う。

漫画やアニメやゲームの世界でしか見なかった剣を使ってのドラゴン退治だ。見てて興奮するわ~。

でも『やっちゃえやっちゃえ』と周りが騒ぐほどにモミジさんの表情が……何かヤバい気がして来た。

大丈夫? 笑い出してるよ? 変なテンションで調子に乗って、

「あ~っははっ! どうしたの? これで終わりとかじゃ無いでしょう! もっと激しく動きなさいよこのうすのろがっ!」

……調子に乗ったんじゃなくて何かに目覚めた感じだ。

剣先をグリグリと押し込んで笑いながら危ない発言をしている。

まさかSの気があったのか? でも午前中にMっぷりを見たし……あれ? まさか?

気づいたら背筋に物凄く冷たい汗が。

そんな馬鹿な。サツキ家の人が変態揃いなのは知ってる。でもまさか……両方なのか? SでありMでもあると言うのか?

ノリノリでカタナを振るって高笑いしているモミジさんを見ていると、それが正解な気がして来た。

うわ~。一番危ない変態が目の前に居たよ。うん。色々と正気に戻った。僕にはノイエしか居ない。だからノイエだけを愛するので彼女のアタックは全て回避しよう。

だってあんな人をお嫁さんにしたら、M対応とS対応を求められるってことだよね? 体が持ちません。

うんうんと何度か頷いて……僕は心に誓った。

「あ~っははっ! どうしたのトカゲ? もっとちゃんと動きなさいよ!」

「ギャ~ッ!」

憐れな声を上げてオオトカゲが逃げ出そうとする。

その度に女王……モミジさんがトカゲを斬っていたぶって笑い声をあげる。

彼女は天涯孤独の方が良いと思う。色んな意味で。

動かなくなった中型のドラゴンの背を踏みつけて、モミジは大きく息を吐いた。

途中から高揚し過ぎて意識が飛んでいたが……無事にドラゴンを退治することは出来たらしい。

ただどうして仲間たちや砦の守兵がこちらを見て『女王様~!』などと騒いでいるのだろう?

声援は嬉しいが、『踏んで下さい』とか『罵って下さい』とかは流石に意味が分からない。

いそいそとドラゴンの背を降りたモミジは、垂れ下がっている縄梯子に足をかけて急いで登った。

「あの~ちょっと。アルグスタ様は?」

上に来ると兵たちの興奮が異様だと気付く。

それでもやはりまず彼に報告するのが最優先だ。

だが……居るはずの人物が居ない。

と、兵の一人に紙を手渡された。手紙らしきそれに目を通す。

『お疲れ様です。

実は……我慢してんだけど、ノイエが居ないのは寂しいのです。ちょっとブシャール砦に行くんで宜しく!

女王……モミジさんなら大丈夫!

ちなみにドラゴンを全部退治したらものすっごい罰を与えるので忘れないようにね!』

ピシッと額の辺りで、モミジは何かが切れる音を感じた。

「あはは……アルグスタ様? わたしたちはドラゴンを退治しにここに来たと言うのに……全部倒したら罰を与えられるんですか? そんな……罰だなんて」

少女の異様な気配を感じて兵たちがサッと離れる。

「ええ。良いですとも……このモミジ、どんな罰だって甘んじて受けましょう! むしろ気持ち良く受け入れましょう。ああっ!」

艶っぽい声を上げ、トロンと蕩けた表情を浮かべて少女が体を小刻みに震わせる。

しばらく震えた少女は、ひと際大きな震えを見せると動きを止めた。

すると……次いで目つきを険しくして眼前のドラゴンたちを睨みつける。

「あ~っははっ! まだまだわたしに踏みつけられたい馬鹿なトカゲ共がこんなにっ!」

タッと石畳を蹴って、モミジはドラゴンたちに向かい飛び出す。

「惨めに地に伏してわたしのブーツを舐めなさい!」

1日で濃密な心的ストレスを受けた彼女は、心の奥底のたがが外れてしまったのだろう。

それとも眠っていた才能……性癖が揺り動かされて目覚めてしまったのか。

以後モミジは、不意に意識が飛ぶと周りから生温かな視線を受けるようになった。

一部兵たちから熱烈な支持を受けもしながら、だ。

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