軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

知り過ぎれば殺す

透けたキャミソールを纏ったノイエがドカッとベッドに腰かける。

赤い髪の印象もあって……何故か漫画とかドラマに出て来るヤンキーなお姉ちゃんに見える。

うちのノイエが知らない間に悪い道へっ!

ポリポリと首を掻いた彼女がゆっくりと部屋を見渡した。

「酒は?」

「ワインぐらいなら頼めば」

「……馬鹿にしてるのかい?」

「うちには基本、酒飲みは居ませんし」

僕は嗜むくらいでノイエはほとんど飲まない。飲んでも祝福で分解されるから酔えないらしい。

「なら今度から強いの置いておきな」

「もう出て来なくて良いですって」

「あん?」

「えっと~……今日の所はワインで良いですかね?」

慌てて壁の伝声管に突撃してメイドさんにお願いする。

普段ほとんど使わないのにちゃんと夜通し起きて待機している彼女らって凄いと思うよ。

メイドさんが来る前に僕も軽く上を羽織る。ただベッドの上に危険人物が居るから正直怖い。

怖いけど……叩かれたけど……何だろう? どこか良い人な感じもあるからリアクションに困る。

扉が開いてメイドさんが中に入ろうとするのを全力阻止してワインだけを受け取る。

毛色の違うノイエを見られでもしたら色々と面倒臭い。

「子供の飲み物じゃないか」

「今度から揃えますんで」

「そうかい」

受け取ったワインをラッパ飲みして……彼女が僕を見た。

「立ってないで座りな」

「はい」

「怖がってないで近くに来な」

「良いんですか?」

「ノイエと一生別れないって言葉は嘘かい?」

「別れる気は無いです」

ズリズリとベッドの上を移動して彼女の前に座る。

山賊の親分みたいに胡坐をして座る彼女は、僕にワインを突き出して来た。

「飲みな」

「……はい」

受け取って軽く煽る。

ワインだからアルコール分があって喉が熱くなる。

「男ならもっと豪快にいきな」

「……」

言われるがままに思いっきり煽って飲み込む。

ヤバい……ちょっとフラフラして来た。

「こんな子供の飲み物で酔うのか」

「普段は温めたのを舐めるようにして飲むくらいで」

「そんなのただの水じゃ無いか? つまらない飲み方をするなって」

カラカラと笑って僕からワインを取り上げた彼女が煽る。

「あの~」

「ん?」

「この状況がいまいち分からないんですけど?」

「……ああ。さっきのこれか?」

軽く手を動かしビンタのジェスチャーをする相手に頷き返す。

「前から決めてたんだよ。ノイエの旦那になる奴は絶対に叩くってね」

どこの頑固親父っすか! 江戸っ子親父なの? ねえ?

「それと脅すのも決めていた」

軽くワインを口にして彼女は僕を見る。

「この体には厄介な人間がこれでもかと住んでいる。その全員を受け入れて、何よりあのノイエを確りと愛せないような人間じゃあ……待っているのはお互い辛い生活だろう? だったら死ぬほど辛い目を見たら本音を言うと思ったのさ」

またワインを煽って彼女は熱い息を吐く。

ほんのりと赤くなっているその表情がどこか可愛らしい。

「本音でノイエを愛していると言う馬鹿が居るとは思わなかったけどな」

「愛してますよ? この世界で、全世界で一番です」

「……迷うことなくそう言い切れるお前の肝っ玉の太さには呆れるよ」

軽く肩を竦める彼女は、どこか寂しげに笑う。

「でもノイエには良い相手なのかもしれないね。少なくともお前が相手ならこのお馬鹿娘を任せられる。ただしもう少し根性と腕力を身に付けな。嫁に全部任せるんじゃないよ」

「善処します」

物凄く呆れた目を向けられたけど仕方ない。人には向き不向きがあるんです。

「って、なら僕は……娘を嫁に取られたから叩かれたってこと?」

「人聞きの悪い奴だね。お前の性根を確認しただけだよ」

だからその確認で物凄く叩かれて、トドメでリグさんの術を食らった訳です。

「挨拶が暴力とか……本当に嫌だわ……」

「あん? 舐めたこと言ってると熱烈な挨拶を始めるよ」

相手の言葉に素直に屈すると、僕はベッドの上で土下座していた。

「……まあ良い。ノイエの旦那の顔はちゃんと見れたしな」

ニカッと笑う彼女は……たぶん噂話とかとは違って気の良い姉さんタイプなのかもしれない。ストロングスタイルなのは間違い無いけど。

「不束者ですが……これからもずっとノイエを愛していきます」

「好きにしな。ただしノイエに何かあってごらん……例えどんなにあの子に邪魔をされても殺してやるからな」

「はい」

何かお嫁さんの父親に挨拶したような感じになったのは気のせいだろうか?

「にしてもノイエって本当に愛されてるんだね」

「当たり前だろう? この子は私たち全員の妹であり娘だ。だから今、1人で生きている」

「……」

あれ? この手の話を振ると拒否られるのが普通なのに……ここはアクセルを踏む場面か? それともブレーキか?

「1人で生きているって?」

「言葉の通りだよ」

苦笑染みた笑みを浮かべて彼女は軽く背伸びをした。

「私たち全員の魔法や術式をこの子に与えた。たぶん『そうすれば気づかれないはずだ』とカミューに言われてね。

事実この子の中に隠れた私たちは、こうして誰にも気づかれないで"生きて"いる。自分の肉体を失ってしまったけど……もともと処刑されるはずの人間だったんだ。こうして生きているだけでも儲けもんだよ」

ワインを全て煽って彼女は僕を見た。その顔は何処か悪戯少年の雰囲気を感じる。

「私は魔法使い組とは仲が悪いんだ。だからこうしてお前にちょっとしたきっかけを与えてやれる。よくよく考えな。どうしてあの日、私たちが狂ったのか? それとドラゴンがっ」

カクンとノイエの首が垂れて髪の毛から色が抜けた。

でも……何か変だ。目が開いたままでジロッといつものノイエの目が僕を見た。

「余計なことは知らなくて良い」

僕を拒絶するような冷たい感じの声音。間違いなく今出て来たのはグローディアだ。

「知り過ぎれば殺す。その為の術を今作っている。ノイエと長く生きたければ調べ過ぎないことよ」

「……」

言葉を挟む間もくれずに彼女もたぶん消えた。

カクンと首を垂れて座ったままで寝ているノイエを見て思う。

お酒臭さが取れなかったら、朝……どんな言い訳すれば許してくれるかな?

グローディアの言葉よりそっちの方が僕にしたら重要です。

(c) 2019 甲斐八雲