作品タイトル不明
幼き君よ!
ハーフレンは余りの状況に頭を抱えたくなった。
ノイエ小隊の待機所から暴走気味に飛んで来た馬車がもたらした報告……ノイエの戦線離脱と言う聞いた瞬間、相手の言葉を疑った。
だが詳しく話を聞けば、どうもノイエを襲撃したのは西から来た使者たちの妹らしい。
こんなことになるなら大人しく執務室で事務仕事をしているんだったと後悔しながらも、彼は副官に対して次期陛下に緊急事態を告げるように指示した。
そして部下に対して近衛の召集を命じ、彼は頭を掻きながら使者たちが居る部屋へと向かう。
急の来訪だった為、滞在場所を決めるなどの準備も間に合わず……何より相手の国が実在しているのか確認するのすら時間を要した。
他国の駐在大使の中に件の王国を知る者が居たから確認だけは取れた。
改めて貴賓として迎えることが決まった2人は、王城の一室にて現国王たるウイルモットとの談笑に臨んでいたのだ。
「火急の用にて失礼します」
飛び込んで来た息子の礼を欠く態度に王は一瞬眉を寄せた。
「何事か」
「はっ。先ほど伝令が参り、騎士ノイエが襲撃に会い負傷し、戦線離脱したとのことです」
「っ!」
言葉は発しなかったが流石のウイルモットも腰を浮かし掛けた。
最もあり得ない出来事に、息子の礼を欠く行動も理解した。
「……ご使者よ。緊急事態が生じてな、これからその対応をしなければならなくなった」
「そうにございます。楽しい話を聞けて良かったのですが……滞在の間にまたお会いできますかな?」
「うむ。出来るだけ時間を作ることを約束しよう」
「お待ちください陛下」
談笑を終えようとしている王と使者をハーフレンは制した。
「実は騎士ノイエを襲撃した者は捕らえたのですが……その特徴からご使者の妹君である可能性が高く」
その言葉で場の空気が凍ったことは言うまでもない。
城でも頭を抱えるような状況を終え、どうにか待機所へ来たハーフレンはまた改めて頭を抱えたくなっていた。
売れ残りに全力で求婚する使者の兄。行き場を失った怒りをあっちこっちに発散する使者の妹。そして自分の胸を押さえ、人生に絶望したような表情を見せる襲撃者らしき少女。その3人と+1は良い。
自然石を椅子にした物に腰かけ、仲睦まじくしている弟夫婦に文句を言うことぐらいは許されるはずだ。
そう思い彼は頭を掻きながらそちらに向かった。
「おい馬鹿弟」
「あん?」
「何してる」
「お嫁さんの看病」
しれっと言って来る彼は、部下であるルッテからスープのお替りを受け取り妻の口に匙を運ぶ。
看病を受けているらしい最強の騎士たるノイエは、手首から先を消失しているらしく包帯を巻かれている。
「ノイエの両手はどこに行った?」
「さっきまでそこにあったんだけど、気づいたら消えてた」
「消えたって……ノイエが食ったか?」
「食わないよ。祝福が発動してるから、良く分からない力が働いていると思った方が良いんじゃない?」
もっともらしい弟の言葉に彼は肩を竦めた。
「それで何があった?」
「あの子が襲いかかって来てノイエが退治した。そんな感じだね」
「それで両手を失ったんだから……ある意味ノイエの負けだろう?」
「最後に立っていたのはうちのお嫁さんです。だから負けてません」
「あっそう」
実際勝ち負けなどハーフレンには関係ない。
一番の問題はドラゴンを退治する者がしばらく居なくなったという事実のみだ。
「ルッテ」
「はい」
「現状の確認をしろ。たぶん死体処理場辺りが一番ヤバい気がするがな」
「あっはい」
命じられ少女は自分の祝福を使う。
確かに各所で兵たちとドラゴンが争っている。一番激しいのは……ドラゴンの死体置き場となっている処理場だ。
「処理場に蛇型の5匹が最多です。後は戦線を維持していますが……お城から王国軍が動き出しています」
「余計な出費に兄貴が頭を抱えそうだな」
せめてもの救いは合同演習を終えたばかりで、兵たちが多数王都に居ることぐらいだ。
休暇を取って故郷にでも戻られていたら、目も当てられない状況になっていたかもしれない。
「危なそうなのは、やはり死体処理場か」
「です。後は……応援が届けば大丈夫だと思いますが」
全身に汗をかきながらルッテは祝福を切った。
自然とノイエの看病の為に確保されている食事に手を伸ばしていた。
「アルグ。ノイエは無理か?」
「治癒の祝福に全部の力を消費してるみたいで、魔力は作れないし何より歩くことも出来ないけど……それでも連れて行く? 僕が全てを敵に回しても阻止するよ?」
チラリと視線を弟に寄こしたハーフレンは改めて頭を振った。
「流石に手詰まりか」
ノイエ依存がここに来て仇になっている。
「ルッテ。爆裂の矢の在庫は?」
「はい。合同実験の時に搬入されて……新型を含めて20本ぐらいです」
「新型?」
「はい」
「弟よ?」
「報告書なら今頃クレアがイネル君に甘えながら作ってるはずです」
流れるような報告を聞いてハーフレンは頭を働かせる。
それでも20本程度の矢で相対できるドラゴンの数などたかが知れている。
今日だけ耐えるのであれば総力戦で良いが……。
「うにゃ~!」
「幼き君よ! どうか私の気持ちを! いやこの熱い想いを!」
「ズボンに手を掛けるなぁ~!」
ずっと無視していた騒動に、ハーフレンは現実逃避がてら目を向けた。
変態……売れ残りで有名な馬鹿が、変態……ズボンに手を掛け走る使者の兄に追われていた。
「自分は脱いで襲おうとする割には、逆になると嫌がって逃げるのな」
「それを眺めて止めないとか、凄いと思うよ僕は」
兄の反応に呆れつつ弟は妻に食事を与え続けていた。
その様子を見たルッテは……それでも助けない上司たちに背筋が冷たくなるのを感じた。
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