軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一発殴った

「貴方たちが西から訪れたご使者で宜しいか?」

「初めまして。東の国の者よ。我々は礼儀が少し異なるのでその辺りの無礼を許して欲しい」

「いいえ構いません。こちらも気軽に対応させて貰います」

使者の来訪に、新年を迎えれば王弟となるハーフレンが出向いて来たのにも意味がある。

相手は国交がなくても小国の王と思われる者が認めた使者である。本来なら大臣クラスでも良いのだが、今後のことを考え次期国王たるシュニットは弟に対応を命じた。

先日の合同演習の事務仕事から解放されると理解したハーフレンは迷わず応じ、客人が待つ正門間近の入国管理の建物へと飛んで来たのであった。

どうやら使者は同じ血を引く家族か兄妹か……黒髪と黒目をした人種であった。

「こちらが我が国の王からの親書となります」

「承りましょう」

話すのは男性の方ばかりで、妹らしき女性はキョロキョロと辺りを見て回っている。

どうやらその視線がドラゴンを追っているのに気付きハーフレンは内心で苦笑した。

たぶん目新しくて好奇心が向いてしまうのだろう。

ドラゴンを退治する力を持つユニバンスは、そのせいでドラゴンを多く集めてしまう悪循環に陥っている。ドラゴンの血肉が発する臭いにドラゴンが集まるのだ。

お蔭でノイエの仕事は増え続け、彼女の仕事が減ることはない。

「ドラゴンが珍しいですか?」

「……ええ。あのような形は我が国では見かけませんので」

「そうですか」

使者の男性はそう答え視線を空へと向ける。

「まるで我が国に伝わる『龍』にも似たドラゴンばかりですな」

「りゅう?」

「ええ。我が国の書物にはあのような蛇の形をしたドラゴンをそう呼ぶのですよ」

言った彼はうずうずしている妹に二三注意し、またハーフレンを見た。

「我々兄妹は、貴国との国交に関する事案の為にこの国に訪れた訳ではありません」

突然の申し出であったが、ハーフレンはこの手の対応に慣れていた。

彼の周りには癖の強い者たちしか居ないからだ。彼自身もだが。

「では何故?」

「個人的な問題を解消する為に訪れました」

「個人?」

「ええ。個人と申しますか……家族です。うちの末の妹が『強い者を倒す』と旅に出ましてね。色々と聞いて回った結果、東のドラゴンスレイヤーの元に向かった可能性が高いのです」

「西から……」

ハーフレンはだいぶ前に聞いた話を思い出した。

ゲートから出て来てから行方不明になっている少女の話だ。

「一つ聞いても宜しいか?」

「何でしょう」

「その末の妹さんの……方向感覚は?」

その問いに兄らしき人物がピタッと動きを止めた。

「……決断力のある子です」

「つまり迷子になっている可能性が高いと?」

「否定しません」

結論は出た。

「捜索に協力しましょう」

たぶんそれが優先すべきことだと判断した。

地面の感触を背に受けノイエは咄嗟に自分の体を判断した。

左手からの反応が無い。後は問題無い。

タンッ! と足の裏で地面を蹴って頭を支点に立ち上がる。

「あら? 意外と硬いのですね」

「……」

変な薄い板状の武器を振り抜いた相手を見つめノイエは思考する。

あの場所で徹底的に教え込まれた事がそれだ。

考え、知識に当てはめ、対応策を練る。それを早く……とにかく早く実行する。

手首から先が無くなっている左腕を前にノイエはまた顔を、首をガードする。

心臓と首が自分の弱点だと理解しての行動だ。弱点を守り"敵"に対応する。

ただ……自分の心臓や首よりも護らなければいけない人が傍に居る。

この場から相手を連れて離れたいが、もしついて来なかったらと考え止めた。

だったら自分の体を盾にしてでも"彼"を護ることを優先した方が良い。

敵への対処よりもその行動指針を決めたノイエは、覚悟を決めた。

「ノイエッ!」

その言葉につい反応してしまう。

敵よりも彼に顔向け、ノイエははっきりと聞いた。

「一発殴ってやれ!」

「……はい」

対応も決まった。迷うことなくノイエは動き出す。

瞬間移動とも呼ばれるその動きに対応できる者はユニバンス王国でも数人と居ない。

だが目の前に立つ女性は……対応出来る者だった。

動きは追いつけなくても最小限の視線と反応でノイエの攻め手を封じる。

(速い。姉様以上……か)

流石は大陸東で最強と呼ばれる存在だ。

モミジは胸の内が沸き上がるような感覚を得ながら笑っていた。

楽しくて仕方ないのだ。

何度か接触を繰り返し、互いに細かい傷を増やす。

しかし致命的な一撃は与えられない。致命傷を与える一撃に必要なためが作れないのだ。

そんな中モミジはじり貧の状況に焦っていた。

一撃必殺を主とした戦い方をする彼女は、長時間の戦闘経験が全く無いのだ。

体力の消耗から来る集中力の減少に……焦り短絡的に結果を求めた。

ただその時ノイエもまた焦っていた。術式の連続使用で……お腹が空いたのだ。

互いに焦り、一定の距離を取って足を止めた。

最初に仕掛けたのはモミジだ。刀を横に薙いで念じる。

「断空」

不可視の刃が放たれノイエに襲いかかる。

それを正面から迎え撃ったノイエは……耐えきった。

「えいっ!」

「あだっ!」

右腕を振りかぶりノイエが投じたそれを、額に受けたモミジは……目を回してその場に倒れた。

衝撃的な結末に見つめていた全員が言葉を失っていた。

「アルグ様」

「ふぇ?」

「一発殴った」

「……拳を投げるのって……殴ったことになるのかな?」

呆然としつつも両腕の先を失った妻の元に彼は駆け寄った。

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