軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

弟子だ

本日のスタートは床の上からだ。

ベッドの上にお戻りになられたお嫁さんを見上げる状態……つまり土下座です。

「アルグ様」

「ごめんなさい」

「……」

ハムの塊を齧りつつ、今朝のノイエさんの機嫌は最悪です。

そりゃ起きたら物凄い空腹で、挙句床の上で僕に胸を両手でホールドされている状態から察すれば……何が起きたのかぐらい彼女でも気づく。

空腹のことはごそっと忘れ、勝手に子作りされたと勘違いしてます。

「寝てるの時はダメ」

「だよね」

「どうして?」

「……寝てたノイエが可愛かったから」

「……」

頬を紅くしてノイエがハムを齧る。でもクルンクルンとアホ毛が嬉しそうに回っている。

彼女はほんのり頬を紅くしながら2本目のハムを齧り始めた。

「でもダメ」

「はい」

「……許さない」

「ごめんなさい」

「ダメ」

「そこをどうか」

「……」

2本目のハムを平らげて彼女はジッと僕を見て来た。

「……する」

「はい?」

「今度は私がする」

やんわりとアホ毛を怒らせて彼女がそう宣言して来た。

つまりそれは……今度僕が寝ている時にノイエに襲われると言うことですか?

「分かりました。どうぞ」

「……良いの?」

「むしろご褒美……じゃなくて罰ですから」

「はい」

そうです。これは罰なので受けなければいけないのです。

問題は僕が誰かと勘違いして地雷を踏まないように気をつけなければいけないってことだ。

僕の覚悟を示したらノイエが機嫌を直してくれた。

クルンクルンとアホ毛を回し、彼女がベッドから降りるとトコトコ歩いて来てキスをする。

うむ。今日のキスはハムの味がしました。

「アルグ様」

「ん?」

「腕」

着替えをし食堂に移動と思ったら、ノイエがそんな風に声を掛けて来た。

ここは知っているよりか知らない振りの方が良いのか?

「あれ? 治ってる」

「はい」

彼女の手が伸びて来て僕の腕を触る。

「消えた」

「消えたね」

「良かった」

クルンとアホ毛を回す彼女を見ていると、本当に心配していたことが良く分かる。

ああもう本当に可愛いな。

ギュッと抱きしめて軽く頬にキスをする。

「昨日ノイエが舐めてくれたからかな?」

「……はい」

「ありがとうノイエ」

もう一度キスをして並んで食堂に向かった。

「患者よ」

「はい?」

「……」

ジッと消えた傷跡を見つめている先生の目が真剣だ。

正直傷跡が消えたから来る必要は無かったんだけど、一応主治医に見て貰っておいた方が良いかなって思って来たけど……地雷だったかな?

事細かに確認され、先生が興味を失ったように僕の腕を放した。

ちなみに今日の先生は教会の神父のように真っ黒な服を着ています。治さずそのまま葬儀を開始しそうなほどに黒いです。

「……珍しいものを見た」

「知ってますか?」

「治り方からしてリグの術式であろう」

「……そうなんですか?」

ドカッと椅子に腰かけ先生がつまらなそうに外を見る。

「患者よ」

「はい?」

「何故この世界では治療魔法が発達しないと思う?」

「……」

確か魔力は攻撃するのに適した力で、治療に適していないとか何とかだったよね?

うろ覚えの知識だが正直に告げてみる。

「一般的にそう言われている。だがそれなら魔力を持つ人の身に異変が生じないのはおかしいと思わないか? 魔力を持たない者も魔力を持つ者も……普通に生まれ普通に育ち普通に子を成し普通に老いて普通に死ぬ。それが現実だ。ならばどうして魔力を用いて治療が出来ない?」

アカン。これはこれで先生の変なスイッチが入ってるっぽいぞ? でも確かにそう言われるとおかしな話だよな……どうしてだろう?

「先生はどう思うんですか?」

「……魔法が治療すること許していないと思っている」

「許さない?」

「ああ。とても簡単な理論だ」

鼻で笑い先生は頭の後ろで手を組み天井を見る。

「魔法を作った者、魔法をもたらした者が……そうなるように作ったのだろうな」

「それってつまり?」

「分からんか? 魔法の始祖たる人物は、最初から互いを傷つける"武器"となるように仕向けたと言うことだ」

斬新と言うかしっくりくる言葉だった。

「先生はそれを誰から?」

「……弟子だ」

「弟子?」

違い沈黙の後に寂しそうな声音でその声が響いた。

「ああ。治療魔法を作ることに心血を注いでいた"リグ"と名乗る移民の子だったよ」

「……そうですか」

不思議と人の関わりってどこかに繋がるものなんだな。

「合同実験の準備ってこんな物で良いんだよね?」

「問題は無いはずです。こちらからは場所とノイエ様を貸し出すだけで、後の準備は全て学院の主導で進みますから」

「ん~。何か学院の方からの報告が少なすぎるから不安になるんだよね」

「ですね。でも準備が忙しくて報告どころじゃないんですか?」

「それなら良いんだけどね」

ボードに束ねた書類をチェックしながらクレアと最終確認をしていく。

イネル君は合同実験で必要となる食事やちょっとした消耗品の確認に出向いている。

実質3人でノイエ小隊の事務を賄っているから大変は大変なんだけどね。

「どうかしたんですか?」

「ん~。ちょっとね」

近くにあった椅子に腰かけてため息を吐く。

治療に出向いた先で先生から聞いた話が、どうも喉の奥に引っかかった魚の骨のようにチクチクと心に刺さっている。

何だろう……漠然と悪い予感がするな。

(c) 2019 甲斐八雲