軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

具体的には?

「良いかね患者よ。吾輩はこう見えても傷ついた者を癒すことを商売にしている」

「商売って言っちゃうんだ」

「事実である。善意だけで腹は膨れん。金がないなら食料を持って来い」

「話がズレてます」

鷹揚に頷き先生が現実に戻って来た。

「だがそれは自傷行為の延長だ。魔法使いがより強い力を得る為に行う愚かな行為だ。父母より頂いたその体を傷つけるとは……お前は何様だ?」

「男ですね。主に女性の初めてを奪って傷つけたりする分類です」

「つまり男は全員愚か者だと言うことか!」

「そうなりますね」

クワッと目を剥いた先生が何かを悟った。

「だから吾輩がその昔、女風呂を覗こうとして高い所から落とされたのは……生まれ持った愚かな何かが悪かったからだと言うのか!」

「いいえ。それどう考えても先生が悪いかと」

「吾輩が悪いのか~っ!」

窓を開け放ち全力で叫びだした。

と、バンと扉が開いて先生の娘さんと言われている女性が入って来た。

右足を軽く振りかぶって先生の全力で股間に対し下から上へと振り抜く。

静かに崩れ落ちた先生が何故か内またになって、よよよと泣きだした。

「アルグスタ様。またこの馬鹿が騒ぎましたら遠慮なく潰して下さい」

「……同じ男としてそれだけは出来ません」

「そうですか」

今にも唾棄しそうなほど冷ややかに医者を見下ろし彼女は口を開いた。

「でしたら直ぐにお呼びください。この馬鹿を黙らせますので」

「分かりました」

一礼して彼女が去って行った。気前良く前払いで金貨の詰まった袋を渡したのが間違いだったかな?

前回やった時にだいぶ好評だったと伝え聞いたんだけど……金額を間違えたかも。

「先生。本気で腕が痛いです」

「患者よ。吾輩は大事な部分が再起不能だ」

「もう使う齢でも無いでしょう?」

「何おう! 男子たる者死する瞬間まで現役ぞ!」

バタンと扉が開いてひと睨みされたら……先生が身を丸めて沈黙した。

お宅の娘(仮)が怖すぎるんですけど?

「して患者よ。何故に自分で傷つけた」

「膝を抱いてる格好で言われたくない言葉ですね」

「見た目など気にするな。今しばらくは立てる気がしない」

それは良く分かるから何も言えない。

「先生は……自分の命よりも大切に想う人っていますか?」

「寝言を言うな。自分の命よりも重い存在だと? そんな者はおらん」

「そう言われると言葉が終わるんですけど?」

「おらんものは仕方ない。吾輩に居るのは命と同等に大切にしている娘だけだ」

「……」

あれ? 本当に娘だったの?

「失礼ですけど……彼女って本当に先生の?」

「あれは妹夫婦の忘れ形見だ」

どうにか体育座りにまで回復した先生が腰の後ろを叩きながら言う。

「10年前にある事件に巻き込まれてな……生き残ったのはあれだけだ。だから吾輩が預かり育てている。

あれを吾輩くらいに愛し尽せる者が出て来るまで育てねばならん。よって死んでなどおられん。生きて護ることが吾輩の宿命だ」

それも確かに悪くない。僕も父親になったら我が子をそう想う父親になりたい。

「僕の場合は彼女の方が遥かに強いですからね。だから死なないように全力で生き残らないとダメなんですよ。

厄介ですよ……大陸屈指の相手も。彼女より長生きするには、どんな手を使ってでもやるしかないんですから」

「だからの自傷行為か?」

「……魔法使いが手っ取り早く強くなるにはこれしかないんです」

「つまらんな。実につまらん」

前のめりで立ち上がった先生は、生まれたての小鹿のように足を震わせて僕の傍に来る。

机の上に置かせて貰ったプレートを手に取ると、その4枚全てに視線を走らせた。

「この見た者の目を引く独特な刻み方……まさかアイルローゼの作品が現存しているとはな」

えっ? 知ってるの?

「あの人を知っているんですか?」

「ちと関わりがあっただけだ」

「具体的には?」

「彼女の入寮当日に女風呂を覗こうとしたら、あれの魔法によって地面に叩きつけられて死にかけた」

「圧倒的に先生が悪いと思います」

あの男性不信気味のアイルローゼ先生の裸を見ようだなんて……ん?

「実は先生も魔法使い?」

「……知らんよ。吾輩は死にかけたショックで全てを忘れた男だ。残っているのはこのつまらない祝福だけのな」

軽く手を握り開いた先生は、止血の為に巻かれた包帯を外して行く。傷口からまた出血が始まる。

「しばらく通うように。この傷は残るかもしれん」

「あ~。どうにか消せませんか?」

「だったら綺麗に斬ろ、この馬鹿者が」

「痛すぎて手が震えたんです」

本当につまらなそうに、先生が僕の傷口からプレートを差し込んでいき腕の骨に巻き付けて行く。

何と言うか……自分の腕の中で歪曲したプレートが骨に沿って巻かれる。痛痒くて気持ち悪い不快すぎる嫌な感じだ。

「腕の中から傷口を縫って止めるが、しばらくは激しい運動は控えろ。それと入浴もだ」

「……温泉は?」

「王家所有の温泉なら問題は無い。あれは魔水と呼ばれる特別な水だ」

知らないんですけど? 何なんですかそれは?

いい加減な割には仕事は丁寧で正確だ。見る見る傷が塞がって行った。

「ただこんなくだらない治療を二度と吾輩の所に持って来るな」

「はい」

「それと」

「はい?」

手拭いで血を拭き取りながら先生が口を開いた。

「どんなに強かろうがお前の妻が女性であることに違いはない。ならば男子たる者命がけで護る……それがこの国で生まれた男が父親から最初に学ぶ大切な事柄だぞ」

「うちの父親はそんなことは教えてくれませんでしたね。どうやってメイドを口説くかしか」

「うむ。それも大切なことだな。護る相手を作ることこそ大切だ」

分かった。この先生……うちのパパンに似てるんだ。

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