軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

凄かろう

「お~」

「凄いです~」

パチパチと拍手して来る2人の少女の前に光る玉を落とす。床にあたったそれは割れたガラスのように四散して消えた。

初歩中の初歩である『明かり』の魔法が出来た。

「どうだ。凄かろう」

「……その力があったら、わたしの人生は変わっていたかもしれないんですよね」

「おにーちゃん。凄いです~。ケーキ食べたいです~」

露骨に気落ちするクレアと、手を叩いて騒ぐチビ姫。これこれ君たち……もう少し僕を讃えたまえ。

「それでアルグスタ様。今更魔法を覚えてどうするんですか?」

「何だいクレア。魔法が使えない僻みかね?」

ムキィーと騒いで怒る彼女を軽くいなして、僕は自分の席に戻る。

「まっ良く分かんないけど、僕って色々と狙われているでしょ? だから少しでも自分の身を護りたいのよ」

「はぁ~」

「でもでもおにーちゃんにはノイエおねーちゃんが居るです~。最強です~」

「だからってノイエを呼んでも直ぐに来れない時もあるでしょう?」

それに帝国の大女の例もある。相手がノイエ狙いとかだったら色々と厄介だ。

「これでも色々と考えているんですよ。はい。分かったらそろそろお仕事です」

「は~い」

「ならわたしは次なる暇潰しを探しに行くです~」

「失礼しますアルグスタ様」

逃げ出そうとしたチビ姫の後ろ襟を掴んで、メイド長が恭しく一礼して来た。一体いつの間に?

「これの回収に来ただけですので、お気になさいませんように」

「……はい」

「離せ~です~。婆が移る~です~。あぐっ!」

ジタバタ暴れていたチビ姫が苦悶の声を上げでぐったりとした。

目にも止まらない早業だ。目にも止まらなかったから何をしたのか分からないけど。

「では失礼します」

荷物を脇に抱え、メイド長が去って行った。

「アルグスタ様」

「何も見てないってことにしておきなさい」

「……はい」

お腹を殴って黙らせた感じに見えたのは、幻覚の一種ですから。きっと。

「アルグ様?」

「ごめんねノイエ」

「平気」

今朝はノイエ一人で仕事に行って貰う。昨夜伝えたけど……寝て起きたら忘れたっぽい。

ただ重要な部分をだいぶ濁して説明したから、ノイエ的に重要度が低かったのかもしれない。でも本当のことを言ったら、たぶん抱き付いたまま離れていないと思う。

彼女がちゃんと家を出て離れて行くのを確認してから、僕は急いで寝室に戻り準備を進める。

必要な物は手拭いと桶と氷と……短刀だ。

痛いのは嫌いだけど仕方ない。こればっかりは仕方ない。

ノイエの『遠耳』の術式も解除してあるし問題は無い。

手拭いを口にして強く噛んで、桶の中の氷で腕を冷やす。

大丈夫。ブスッと刺して……それを左右にやるだけだ。

「いつまでもノイエに護られる男なのは格好悪いしな。男子たる者好きな人は護りたい!」

覚悟を口にして……冷やした部分に短刀の先端を押し付けた。

神様。やっぱり怖いです。

「隊長?」

「……どうしたら良い」

出勤するなり詰め寄って来た相手にルッテはその目を白黒させた。

無表情な相手は、絶対に何か変な感じで変なことを考えているに違いない。

「どうかしましたか隊長」

「教えて。どうしたら良い?」

「はい?」

丁度建物から出て来た副隊長に全部を委ね、ルッテはただ聞き手に回る。

ポツリポツリと紡がれる言葉の意味を頭の中に並べ……まだ異性を知らない彼女は顔を真っ赤にした。

だが腕を組み微動だにしない副隊長は、聞き終えるなり隊長の頭を優しく撫で始める。

「本当にアルグスタ様を愛しているのですね。私は嬉しいです」

「……はい」

(何故!)

隊長の言葉の意味から、先輩のその行動に達した理論がルッテには理解出来なかった。

「ご安心ください。このフレア……知り得る限りの技術を伝授しましょう。

あの知ったかなうっすいのとは違い、全て人体実験済みの確実な方法です」

「……」

良く分からないが、ノイエはそれからしばらくフレアの言葉を聞き続けた。

流石にドラゴンが危険水域に達したら退治に向かったが……その日のノイエは何かが違った。

そう彼女はこう聞きたかったのだ。『アルグ様に喜んで欲しい。何か教えて』と。

だが聞いた相手が悪かったのだろう……ノイエは夫婦の営みで使う技を伝授されただけだった。

「久しいな患者よ」

「どうも」

帝国の大女の襲撃以来の来訪だ。

まあ医者と係わる生活なんて、インドアな僕からしたら無縁で居たい。

「ほうほう。両腕を怪我するとは……中々に器用だと見える」

「凄いでしょ?」

痛さがぶり返って来て、全身から噴き出る冷たい汗が止まらない。

それでも僕はどうにか唇を噛んで、相変わらず医者に見えない相手の姿を見つめた。

腰ミノ姿で半裸とか……何処の部族のシャーマンか問いたくなる。

「今日は先生にお願いがありまして」

「うむ。案ずるな。吾輩の力をもってすればそのような怪我……刺し傷か? これはちと時間がかかるぞ?」

「たちどころに治して下さいよ」

「無理な物は無理だ」

知ってるけどね。

でもこの人の祝福ならこの傷跡は出来るだけ綺麗にしてくれるはずだ。

震える痛みの走る手を動かし、僕は懐から4枚のプレートを取り出す。

どれも簡単に挿入できるように軽く歪曲させてある。

それを見た医者の先生がらしく無いほど真面目な顔をした。

「患者よ……もしかしてそれを埋め込むために、自分で自分の腕を斬ったと言うのか?」

「はい」

「……そのような馬鹿者を治療する気は吾輩には無い」

言ってドカッと先生が椅子に腰かけた。

「だが訳は聞こう。何も聞かずに怪我人を追い返すのも吾輩の意思に反するからな」

そんな崇高な思想を持っていたんですね。

何より今日の呼称は『吾輩』なんだ。

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