軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そこは気合

「うっへっへっ……どうせあの上司の紹介なんだから、とんでもない豚男かも知れないわよ~。それか毎晩のように求めて来るような底無し男かも知れないわよ~」

見合いの書類を抱えて戸惑っている後輩に対し、全体的に小さくて薄い先輩が噛みついている。

寂しい売れ残りの僻みだと全員が理解し……そっと視線を逸らして涙を拭った。

そんな可哀想な存在に対し、迷うことなく歩み寄って握り締めた拳を振り下ろす女性が居た。

副隊長のフレアだった。

「何、イジメてるのよ」

「うっさい。この胸だけ女に現実を教えているだけだい」

随分と血走った目でそんなことを言って来る相手に、フレアは冷ややかな視線を向けた。

「そんなんだから売れ残るのよ」

「うおっ……大丈夫。まだ負けてない」

大きくよろめきながらもミシュは耐えた。

「そう言うどっかの令嬢様も……最近随分と静かじゃ無いの? あの未確認婚約者って本当に居るの?」

本人的には格好つけた切り返しのつもりだろうが、それを見ていた部下たちの視線も冷ややかだ。

つい最近女子寮のある一室から命乞いをする男性の悲鳴が響き渡ったのは有名な話だ。それを知らない馬鹿……ミシュでは無いはずだ。

「居るわよ。今度の合同実験にも来るし……それを言いに来てくれたからつい可愛がっちゃったけど」

頬を紅くして『いやんいやん』と恥ずかしがる女性に全員が引いた。

少し年齢を考えて欲しいリアクションだった。何より本当に似合わないことを理解して欲しい。

「へ~。本当に実在するのね……」

一気に形勢不利になって、ミシュは一歩後退する。だがフレアは逃さない。

「それで私の婚約者の悪口を言う売れ残りは、何処の売れ残りかしらね?」

「くぬぬっ!」

「悔しかったら相手を見つけてから文句を言いなさい。それまで貴女は私の対戦相手ですら無いのよ」

「うっわ~んっ! 覚えてろ~っ!」

大泣きしながら悪は去って行った。

「……出来た」

「……」

「出来たよノイエ!」

嬉しくて手に持つプレートを軽く放り投げてしまった。

慌ててキャッチするけど、冷気を放ちだしたそれは冷たい。右手左手と渡しながら鉄製の箱にしまって蓋を閉じた。

「やったー! 第一目標の術式発動の成功だ!」

ガッツポーズが止まらない。何度も挫けたけどようやく出来ました。

今だったら、どんなお肉だってこんがり美味しく焼けそうだ!

「ってノイエ?」

「……」

喜ぶ僕を尻目にノイエさんがちょっと不満気にベッドの上で両膝を抱きしめていた。

どうかしましたか? 僕の自慢の可愛いお嫁さんは?

慌てて駆け寄り急いで隣に座る。

やはり怒っている……と言う拗ねている様子のノイエが視線を背けた。

「どうしたのノイエ?」

「……」

「ん?」

「……わたしがするのに」

チラッとこっちを見たノイエが、ガバッと襲いかかって来た。

あっと言う間に定位置のマウント状態につき、僕のことを見下ろして来る。

「アルグ様は色々してくれる。でもわたし何もしてない」

「……それは嫌?」

「はい」

コクンと頷く彼女はやっぱり優しくて可愛い。

「大丈夫だよノイエ」

「?」

「君がこうしていつも傍に居てくれるだけで僕はすっごく嬉しいから」

「……」

僕の腕を押さえていた手から力が抜け、彼女は倒れ込んで来るとその顔を胸に押し付けた。

「本当?」

「うん」

「……アルグ様」

頬を紅くしたノイエがキスをして来て……ちょっとノイエさん。激しい! 激しいですから!

「息が出来ないって!」

「大丈夫」

「流石に死ぬって!」

「そこは気合」

「意味分かんないから!」

でもスイッチの入ってしまったノイエが止まることはなく……結局その夜はノイエに貪り食われました。

そっと体を起こし彼女は、自分の隣で眠る相手に冷ややかな視線を向ける。

と、蹴飛ばされているシーツを手にしそれで体を包んだ。

「アイルローゼと何かしてたみたいだけど」

確認するように机に向かい引き出しを開く。

中には丁寧に置かれたプレートが4枚。その内1枚には見覚えがあった。

軽く指でなぞると……彼女がどれ程天才なのかを痛いほど知る。

作り出した自分よりも綺麗に、そしてより使いやすく術が組まれている。

「自重を操作するこんな術式を一体何に?」

分かる1枚は別に良い。問題はもう3枚だ。その内2枚は近しい術なのか刻まれている物が似ている。

ただ最後の1枚は、まるで何なのか全く理解できない。本当に魔法語なのかを疑いたくなるほど高度で複雑すぎる。一体どんな術が発動するのか……一緒に入っている紙を手にし、全体的に白い少女はプレートに指をあてて擦った。

だが何も起きない。

故に目を見開きおののく。魔力が足らないことはない。この体が持つ魔力量は大陸屈指だ。

ならば何かしらの発動条件がある限定的な術式である公算が高い。

「まあ良いわ」

プレートを戻し少女はベッドを見た。

その白い指を眠る相手に向ける。

「もしノイエを悲しませるようなことをしたら、私が絶対に許さない。ええ……絶対よ」

静かに笑った少女……ノイエの姿を借りたグローディアは、ゆっくりと窓の傍まで進み夜空を見上げた。

煌々と天で灯る月は明るく眩しく大地を照らしていた。

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