作品タイトル不明
……黙秘で
今日の仕事も終わり、ノイエを待って執務室でのんびりと椅子に腰かけている。
あのバカップルは手を繋いで仲良く帰って行った。イネル君がクレアの屋敷まで送って行く間のお散歩デートだ。各方面から『微笑ましい』と言う理由で、全員で生暖かく見守っている。
僕は手にしている物を天井にかざして眺め続ける。
アイルローゼ先生が刻んだプラチナのプレートだ。
芸術作品と言っても良い4枚のプレートを見つめ、僕は何気なく上着の袖を捲る。
元の体より太い腕だ。日々筋トレなんてしていないけど、乗馬だけでも腹筋から下は鍛えられる。腕の方は毎晩ノイエの相手をしているだけで筋肉痛になる。頑張り過ぎだぞ可愛いお嫁さんよ。
現実逃避はこれぐらいにして……問題はどうやって仕込むかだ。
「こればっかりは仕方ないよな」
覚悟を決めたと言うか、これしか方法がない。
後は確実にプレートの術式を発動させられるようになってから行動に移るしかない。
静かになっている廊下を決まった速度で歩く音に気づいてプレートをしまう。
外で待機していたメイドさんが扉を開き……私服姿の可愛いノイエが現れた。
「アルグ様」
「お疲れ」
「はい」
微かに頬を動かしてノイエが微笑む。
いそいそと椅子から立ち上がってギュッと彼女を抱きしめる。
何て可愛い生き物なのでしょう。部屋に飾って置きたくなる。
両手で頬を包んで額にキスをする。されるがままのノイエも何処か嬉しそうだ。
日々の生活から彼女の表情筋が動くことは分かっている。ノイエの中の住人たちが動かしまくってるしね。ただ彼女が動かせないのは、動かし方を知らないからだと思う。
立って歩けない子供に、骨や筋肉の使い方から全てを説明する行為に等しい。説明出来ても理解出来るとも限らないし……中々にハードルが高くて楽しくなって来る。
「絶対に笑わせるからね?」
「……はい」
そっとキスして彼女を抱きしめる。
この幸せを護る為なら……少しぐらい頑張れる。
なんせ僕はやれば出来るはずの子だからね。
「それではミシュ君。言い訳をどうぞ」
「……黙秘で」
目を逸らした馬鹿に丸めた紙を投げつける。ポコッと頭に当たった紙が床に落ちた。
もう……折角色々と弱みを掴んで無理やり段取りしたと言うのにこのお馬鹿は!
「頑張ってお膳立てしたのに……少しは自重しようとか思わないの? 猿なの? 男性は見かけたら襲う物だとでも思ってるの?」
「「はうっ!」」
何故かこっちの様子を窺っていたクレアも被弾して胸を押さえた。
それ以上にダメージを受けたミシュが片膝を着いてこっちを見て来る。今日の彼女はスカート姿だから、その格好だと秘密の三角地帯がちらりと見える。白か。
「下着が純白でも欲望に塗れて汚れ切ってるからこんな結末になるの」
「「なっ!」」
何故かクレアまでドレスのスカートを押さえた。今日の君も白でしたか。
「普通お見合い相手と出会った瞬間に一発入れて襲いかかる? もう興奮したと言うより犯罪だな。結婚なんて諦めて、刑期を伴侶にしばらく牢屋に入ってみる?」
「そればかりはっ!」
ヒシッと床にひれ伏してミシュが命乞いして来る。
「まあ未遂だったから、大将軍と馬鹿兄貴がどうにか手を回してくれて問題にならないようにしてくれたけどさ……これで王国軍内でも近衛内でも結婚相手が見つけられないと思ってね」
「……」
何故そんな忸怩たる思い的な表情が出来る? 元を正せば全面的に君が悪い。悪すぎる。
相手の兵士さん(独身男性38歳)はこの一件で女性恐怖症になったらしく、『俺はもう女なんて求めない! 信じない!』と宣言しているそうだ。
それってつまり男性の方に……相手が見つかると良いね。
「メイド長からの『お願い』だから相手を探すけどさ……今度からはその有り余る性欲を抑え込んでね」
「「うおっ!」」
だから何故クレアも自分の胸を押さえるのかな? 僕の知らない所でまた何かしたの?
保護者であるイネル君を見たら……『何も知りません』と言いたげに頬を紅くして顔を背けた。
表情が正直だぞ。たぶん後で報告書が回ってくるパターンだな。
「ちゃんと反省するように」
「……分かりました」
「なら仕事に戻って良し」
「はい」
しょんぼりと歩いて行くミシュを見送り、机の上の書類を忘れてた。
「あっ!」
「はい?」
「ルッテに帰りに寄ってと伝えてくれるかな」
「分かりました」
ペコッと頭を下げてミシュが出て行った。
忘れてた。
机の上の書類をひと撫でして内容に目を向ける。
それはルッテにと思って人事院から借りパクして来たお見合い書だ。
最初はミシュの相手を探しに行ったのだけど、どれもこれも『エバーヘッケ家の令嬢を除く』と注意書きがなされていた。だがそんな中にとても大変面白い人物を発見した。
だから急いで確保して持って来た。
「大丈夫クレア?」
「……大丈夫」
心配そうに背中を擦る未来の夫に甘える未来の妻は、何故かモゾモゾと足を動かしていた。
「クレアさんや。相手の優しさに欲情したとかだともうほとんどミシュだからね。それを気にして行動するように」
「……」
顔を真っ赤にしてプルプルと全身を震わせた彼女は、不満を全て飲み込んで我慢した。
「自重します。わたしは我慢出来る女です」
「あっそう。その言葉が嘘じゃ無いことを願うよ」
翌日、帰宅途中でイネル君に襲いかかったクレアが、隠れて護衛の人に捕縛されたと言う楽しい報告が僕の元に届いた。
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