軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

……自重します

「えへへ……へへ……へぐっ!」

「……?」

建物から出たルッテは、それを再確認してため息を吐いた。

地面の上に転がっている副隊長らしき置き物を、戻って来た隊長が踏んでしまった。

一瞬振り返った隊長だったが、小さく首を傾げて建物の前に置かれている鍋に向かう。踏んづけた売れ残りには興味が無いらしい。

今日の隊長は月一のあれらしいので、質より量のスープになっている。

最近は夫の教育の成果か、鍋の蓋を開けた隊長が皿にスープを盛ってスプーンを使い食べ始めた。今までは与えられないと食べなかったことに比べると格段の進歩だ。

「隊長」

「……」

皿と口とをスプーンが高速移動している。時折鍋から皿への移動も加わるが。

「体の調子はどうですか?」

「平気」

「それは良かったです」

ポンと胸の前で手を打つルッテ。

夏季と言うこともあって今日の彼女は薄手のタンクトップ姿だ。当然豊か過ぎる胸が自然と踊り……ノイエは一瞬自分の物を見て、部下の物を見直した。

「アルグ様言ってた」

「はい?」

「大きいと直ぐ垂れる」

「っ!」

咄嗟に自分の胸を抱きかかえルッテは戦慄した。

周りから良く聞く言葉だが、世間知らずの隊長からその言葉を聞かされる衝撃は半端無かった。

「おへその辺りまで垂れ下がって来て」

「いゃ~っ! 聞きたくない!」

必死に耳を押さえてしゃがみ込む部下に、ノイエは頭上から感情の全くない言葉を降らせる。

「……だから鍛えないとダメ」

「はい?」

「胸の筋肉が無いと垂れるって」

パクパクパクと音を響かせて食事を終えたノイエは、ルッテに腕立て伏せを教える。

「こう」

顔色一つ変えずにノンストップで何度もやって見せるのは、祝福と術式を多く持つ彼女ならではのチートだ。

「むぎぎ……」

「もっと」

「無理です」

「大丈夫」

「ひぃぐぅ~」

色気のない悲鳴を上げてルッテは何度も腕立てをさせられ続けた。

後日筋肉痛のルッテを見たフレアが、部下たちからの報告を受けて彼女の巨乳を睨んでいたそうだ。

何でも怒った理由が、胸をクッションにして腕立て伏せをしていたと聞いたかららしい。

「きょうどうえんしゅう?」

「ああ。この時期にやる王国軍と近衛の合同演習だ」

国王陛下の執務室に呼び出された僕に、お兄様がそんなことを言って来る。

「……でもうちって関係無いですよね?」

「ああ。近衛から独立したお前の隊は参加する理由はない」

なら何故呼ばれたのかを問いたい。

「しかしノイエ小隊には別の合同作業がある。ハーフレンから何か聞いているか?」

「全く」

「……演習の段取りで死にかけていると聞いたからな。仕方あるまい」

出来の悪い弟を庇ってお兄様が説明してくれます。

簡単に言うと『魔法学院との共同実験』と言うことらしい。

「毎年実施している……体の良い人体実験だ」

「ちょっと?」

「案ずるな。人体に影響の出るようなことはしない。ただノイエの魔力量はこの大陸でも屈指だからな。多少無茶な魔法道具の試作品でも動かせる」

まあ確かにノイエなら出来なくは無さそうだな。魔力量が多いのも確かだしね。

「その合同実験の責任者をお前に任せたい」

「つまりもっと働けと?」

「一時的な物だ。それとも違う者にノイエで実験をさせたいか?」

「あ~。ごめんなさい。無理です」

どんなに安全でもお嫁さんを使って実験とかしている時に執務室で書類仕事とか手に付かないな。それだったらどんなに忙しくてもノイエの傍で見てる方が良い。

と、何故かお兄様が苦笑した。

「お前は本当にノイエが好きなのだな」

「はい。彼女無しでは生きていける気がしません」

遠くからすっごい爆音が轟き響いた。

あっしまった。ノイエが僕に施している"遠耳"の術式を解除して無かった。

頑張れノイエ小隊の人たち。月一が終わった彼女は絶好調だぞ?

「……本当にノイエを愛しているのだな」

お兄様が苦笑するのを、僕も似たような表情を返すので精いっぱいだった。

「ん~。で、これがその資料か」

「はい」

家庭を持つ男子は違う。やる気満々のイネル君は返事から違う。

「去年の資料……とかあの馬鹿兄貴が細かく付けているとは思えんな」

「……一応フレア様にお願いして覚えている範囲での資料がそれになります」

「学院の方に残って無いか問い合わせてみて」

「分かりました」

ペコッとお辞儀をして、颯爽とした様子で部屋を出て行く。

やる気が違うよ。

「で、そっちの使えないゴミよ」

「……何よ」

「うちのお嫁さんはそれでもドラゴン退治をしてたぞ?」

「一緒にしないで下さいっ!」

憤慨して怒鳴ったクレアが……沈むように椅子に戻る。

男の身としては理解出来ないがとても辛いらしい。

「休めば良いのに」

「……いっぱい休んだし」

「イネル君に甘えられないもんね? 『イネル~。お腹痛いよ~。摩ってよ~』とかね」

「何で知ってるのよ!」

目を剥いて怒鳴る彼女がまた沈んだ。

それは良い。それは良いんのだが。

「冗談で言ったら正解するとかの方がビックリだな。クレアさんや」

「……何よ」

顔を真っ赤にした彼女が泣きそうな顔でこっちを見ている。

「余り猿過ぎると馬鹿兄貴の所にしばらく出稼ぎに回すよ? 売れ残ってるミシュが君たちを見てて毒づいて止まらないって報告も来てるしね」

「……自重します」

「そうして下さい」

と、次の書類に手を伸ばしてチラッとクレアを見る。

「隠れてこっそりやる方が燃えるって、うちの父親も言ってるからそうしなさい」

「……はい」

こっそりでもやり過ぎたら指導が入るんだけどね。

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