軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

何の話っ!

「さてと。では話を纏めようか?」

怒ってプリプリしているクレアを、イネル君が宥めている隙に話を進める。

流石に重要な話だからと思った2人がこっちを見た。

「君たちの同居はしばらく後で。今はそれぞれの住まいで」

「何の話っ!」

「いや~。野放しにすると、クレアがイネル君のことを襲いそうだから?」

「しないからっ! そんな恥ずかしいこと」

「でもさっきはクレアからイネル君にキスしに行ったよね?」

「くぬぬ~っ!」

ブンブン握った手を上下に振って悔しさを体現する。

良し良しと頭を撫でてあげるイネル君の今後は大変そうだ。

「まあ真面目な話……痛い思いはしたけど最高の結末でしょ?」

「「……」」

見つめ合った2人が恥ずかしそうに俯いた。

これで実家の公認を得ての婚約者同士だ。そしてイネル君の家はクレアの家から支援を得る。掛かる費用は全て王家持ちだが、その資金援助はとある金持ち貴族の家から賄われる。

このことはノイエも承諾済みだ。たぶん分からないだろうけど……と思い話したら理解してくれた。

まっこの辺の事情は、2人がちゃんと大人になった頃にでも知れば良い話だ。

今は僕ら大人が胸の内にしまって黙っておいてあげるのが優しさだと思う。

「で、2人は僕の元で確りと働いて貰う。本当に完ぺきだ。万事無事に収まった」

「あの~アルグスタ様?」

「ほい?」

恐る恐るイネル君が声を掛けて来た。

「結局ボクらがやらかした後始末は……?」

「ああ。気にするな」

心配性の弟分の頭を撫でる。

「それぐらい普段の僕の行いから比べればちっさいから」

「本当ですか?」

「おう!」

ここはそれらしくビシッと答えておく。

実際問題は無い。かなり恨みを買ったけど……また暗殺者とか向けられたりするのかな?

「……本当に?」

「くどい」

「……」

何故かクレアも加わってこっちを怪しそうな感じで見つめて来る。

弱きが表情に出てしまったらしい。頑張れ僕。本当の敵は今夜ベッドの上に現れる。

「まっそっちは本当に大した問題じゃないから大丈夫だ。心配するな」

イネル君と一緒にクレアの頭も撫でて、僕は椅子から立ち上がった。

「では仕事に戻るので……今日のクレアはイネル君の横で看病してなさい。帰宅する時は守衛に声を掛ければ寮まで送って貰えるように手配してあるから。

それと後でイネル君の父親が来るかもしれないから、ちゃんと挨拶しろよ?」

「……分かってるわよ」

本気で分かっていなかったクレアが慌ててドレスの皺を直しだす。

可愛い妹分の様子を笑いつつ扉へと向かう。

「それと今はキスまでだからね? それ以上はダメだぞ」

「さっさと行けっ!」

「はいはい」

元気なクレアの声を聴いて僕は笑顔で部屋を出た。

外に控えているメイドさんに『キス以上なことになりそうだったらノックしておいて。命令ね』と優しい配慮も忘れない。

後日報告に来たメイドさんが言うには、2度ほどノックしたそうだ。

鼻歌交じりで廊下を歩いていると、目の前に邪魔臭い筋肉が。

「終わったか?」

「ある意味ね」

何故か馬鹿兄貴が並んで来て一緒に歩きだす。

「なあ……アルグ」

「ほい?」

「借金の方は実際どうするんだ? あそこの領地はどう頑張っても出来る改良などそこそこだぞ?」

「でしょうね。お兄さんも似たようなことを言ってました」

全部理解したうえで僕はヒューグラム家にお金を出すんです。

「なら回収する見込みは?」

「死ぬまであの2人が働いて返済しても無理じゃ無いの?」

事実だから包み隠さずだ。

するとジロッと馬鹿兄貴が睨んで来た。

「何を企んでいる?」

「別に? ただあの2人が結婚すれば結婚費用も大変だろうなって」

「……何を考えている?」

「ん? 我が家はノイエが頑張るからお金が腐ってるのよ。結婚式の時にも増えたしね」

「……部下だからと言って融通し過ぎれば恨みを買うぞ?」

「知ってます」

だから2人に『あげる』と言う簡単な言葉が使えない。

何が何でも借金と言う形にしなくちゃいけない。本当に面倒臭くて煩わしい。

「でも結婚祝いにドラグナイト家が奮発してお祝いを渡す……それに対して苦情を言うのって貴族の面目的にはどうなの?」

「……恥だな。だったら負けないほど包めば良いと言うことになる」

肩を竦めて馬鹿兄貴が頭を掻く。こっちの意図を理解したらしい。

「破いた借用書と結婚費用程度の金銀財宝を渡してやりますよ。

あの2人はずっと僕の部下で、きっと馬車馬のように働いてくれているはずだからね。働き者の部下に対して上司が奮発するなんて普通でしょ?」

「ああ……そうだな」

伸びて来た手が僕の頭をグリグリと撫でて来る。

「良く出来た弟で兄貴の方が器が小さく見られそうだ」

「痛い。頭がもげるわ」

全力でグリグリされて首が悲鳴を上げた。

仕事を終えて帰宅したノイエが、ベッドで座り待っていた。

クルンクルンとやる気いっぱいの様子で彼女のアホ毛が回っている。うん……たぶんやる気Maxだ。

「アルグ様」

「はい」

「今日頑張った」

「はい」

「いっぱい頑張った」

「はい」

僕の言いつけを聞いてノイエは無茶な仕事をしてくれた。

荷物を抱えてのドラゴン退治なんて……普通考えればただのイジメだ。でも彼女はやり通した。

ベッドに登り彼女を後ろから抱きしめると、我慢出来ないのかノイエが体勢を入れ替えた。

こっちを向く形になってその赤黒い目で見つめて来る。

「アルグ様」

「はい」

「今度は……そっち」

グイグイと迫って来るノイエの体に押されて押し倒される。

完全にマウントポジションを取られた。

「アルグ様が頑張る」

「……はい」

ご褒美頂戴なノイエが求める物は……僕も男だ腹を括ろう。

本当に一日無茶な仕事をして来たのか疑いたくなったが、朝までノイエに求められた僕は完全に燃え尽きた。どうにかメモ一枚書くので精いっぱいだ。

ただ肌をツヤツヤにさせてドラゴン退治に向かうノイエは……寝てないのにあれは本当にズルいと思う。

朝……彼の寮に寄って城に来たクレアは、軽い足取りで各部署を回る。

何処に行っても『元気になったんだってな』と優しく声を掛けて貰える。本当に良い職場だ。

と、廊下の途中で足を止め……軽く指で唇に触れる。

今朝もキスしたその場所にははっきりと感触が残っていた。

「も~。いやんいやん」

身悶えて足取り軽く上司の執務室に向かえば……無人だった。

「あれ?」

『もしかしたら昨日の騒ぎの後始末で呼び出されたのか?』と、一瞬そんなことも考える。

昨日は無事に彼の父親に挨拶できたし、帰宅してから自身の父親とも話せた。

『お前の上司は本当にふざけた若造だな』と楽しそうに言われて反論出来なかったが、それでもクレアにしたら最高の上司だ。本人には恥ずかしくて絶対に言えない言葉だが。

と、そんな上司の机に紙が乗っていた。

『夫婦って本当に大変なんだよ。具体的にはノイエが寝てくれないから……今日は休む』

「あの糞上司~っ!」

クシャクシャと紙を丸めて真っ赤な顔したクレアは、行き場のない叫びを天井に向けたのだった。

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