軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

胸はあるよ?

1日の仕事を終えてノイエは城下に戻り通りを歩いていた。

ずっと自分の姿を見ると手を合わせお祈りしていた人たちが、最近は笑顔でお辞儀して来たり子供たちなど手を振って来るようになった。だから彼に教わったように小さく手を振り返すと、子供たちが弾けんばかりに元気に手を振り返して来る。その姿を見ているとキュッと胸の奥が締まって暖かな感じになる。

まだ手を合わせて祈って来る人もたくさん居るが、ノイエとすれば手を振ってくれる方がずっと良い。

だってカミューが教えてくれた。『この世界に神様なんて居ないのだから祈るだけ無駄よ』と。

だからノイエは祈らない。祈るべき相手が居ないと教えられているから。

トトトと軽い足取りで城下を進み、今日も軽く守衛の槍を掻い潜って正面の門を突破する。

と、その姿を見つけたノイエは足を止め姿を消した。実際は一歩で相手の傍に移動しただけだ。

「アルグ様……」

突然現れたノイエが僕の胸に飛び込んで来て、今にも泣きそうな目でこっちを見る。

「うわっと! ……大丈夫。ちょっと一発良いのを貰っただけ」

「良いの?」

「あ~。うん。ボクシング的に」

「……?」

涙目で首を傾げるノイエがボクシングなんて知る訳が無いか。

腫れている頬を冷やすのに使っているハンカチをまた当て直す。いきなり姿を現すとか思っていなかったからハンカチを外してたんだよな。

「殴り合いで完璧に入った感じ?」

「……はい」

分かった様子でノイエが頷く。そしてギュッと拳を作って、

「誰を殴る?」

「止めて。今のノイエがやると首から上が飛んできそうだから」

かなり本気で怒っているのか、ノイエのアホ毛が怒った猫の尻尾状態だ。

空いている手でウリウリと彼女の頭を撫でて怒りを鎮める。

でも根っから優しいノイエは、復讐よりも僕のことを案じてくれる。ハンカチを奪い去ると、何やら呟いて……ノイエさん。どうしてハンカチから冷気が?

「こう?」

「氷を直にはダメ~っ!」

お嫁さんの優しさに戦慄した瞬間でした。

少し溶かして良い感じになったハンカチを頬に当てて貰いながら、ノイエと2人で帰路に就く。

だが『さあ話しなさい』的な感じでこっちを見て来る彼女に逆らえる訳もなく、僕は何故殴られることになったのかを話し出した。

これは今日の家族会議の出来事だ。

お兄様がロリコンでは無くて、保父さんであると理解してからの話だ。

「どっかの馬鹿王子がさっさと子供を作らないと、最悪僕とノイエの子供を跡継ぎとか嫌だからね。間違いなく面倒臭いことになる」

「……その場合は私の養子として貰い受けるしかないな」

苦い表情でお兄様が相槌を打って来る。

「でしょ? 我が子をあのノイエが手放すと思う? そんなことを強行したら全力で暴れるだろうし、そして僕もきっと止めないと思うから……この国の崩壊が始まるね」

昔話の鬼が我が子を取り戻さんと大暴れする感じの挿し絵を思い浮かべる。

たぶんノイエは無表情のまま実行しそうだ。

「僕と違ってどこぞの馬鹿兄貴は何人嫁を得ても問題無いんだから、どんどん子作りしなさい。はいお父様。助言をどうぞ」

「……休まず腰を振れ」

とても威厳に満ちた感じで前国王がそう言う。

「はいメイド長。評価をどうぞ」

「アルグスタっ! お前と言う奴は!」

グイグイと接近するメイド長にまた前国王が震えだし、部屋の隅へと逃げ出した。

怒られない的確な助言をしなかった人が悪いのであって、僕は決して悪く無いはずだ。

「確かにリチーナと上手く行かないのであれば、側室を考えることも視野に入れなければいけないな」

軽く頷くお兄様は、やはり国の存続第一主義だな。

新国王からの言葉を得て、馬鹿兄貴が本当に嫌そうな顔をする。

『ベッドの上なら敵無し』とか言ってた割りには……実は本当は口だけ番長か?

「今夜にも頑張って子作りしなさい」

「お前……本当に後で覚えてろ……」

今にも飛びかかって来そうな肉食獣な目つきで馬鹿兄貴が睨みつけて来る。

だが僕はカウンター主体の揚げ足戦法に徹する。

「国の為です。王家の者としての覚悟がどうたらとか偉そうに言ってたのはそっちでしょう? ほら今夜頑張るか側室を増やすかしなさい」

「……」

苦々しい感じで睨んで来る相手の視線が心地良いわ!

本日の僕は何も間違ったことは言っていない。全てこのユニバンスの為! ついでに僕のちょこっとした憂さ晴らしの為っ!

と、頭の中にとってもナイスなプランが……でも一応婚約中の身だしな。

ミシュみたいに売れ残りなら問題無いんだけど。

「だったらうちのルッテとかどう? 胸はあるよ?」

「おま……俺をどんな目で見てる?」

「えっ? 胸がお尻より大きい人が基準でしょ?」

《後で殺す》

馬鹿兄貴の凶悪染みた囁きが聞こえた気がしたが、僕の言葉は間違っていないはずだ。

「売れ残りのミシュでも良いんだけど?」

「論外すぎる」

「ですよね~」

ミシュは(性的な意味で無く)遊び相手なら良いんだけどね。

「もう……そもそも何でフレアさんを妃候補から外すかな?」

ぶっちゃけ一番言いたかったことを自然と口にしていた。

「絶対にこの馬鹿に適した一番の相手なのに……フレアさんが正室だったらこの馬鹿もフラフラ遊んだりしないでっ」

そこで意識が飛んだ。

気づいたら僕の執務室のソファーの上で、何故か向かいの席でミシュとクレアがケーキを食べていた。

で、僕は馬鹿王子に殴られたと聞き……流石にずけずけと言い過ぎたのかと反省した。

ただミシュがケタケタ笑いながら、『無知って命知らずだわ~』とか言ってたけど。

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